宮守の神域   作:銀一色

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南場突入ですが、麻雀要素はそんなにないです。


第46話 準決勝 ⑪ 逆襲の始まり

 

 

 

 

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視点:神の視点

南一局 親:モブA ドラ{一}

 

小瀬川 19,700

モブA -14,000

清水谷 124,000

モブB -29,700

 

 

 

(104,300点差……ここからが勝負やで……!)

 

小瀬川が動くと宣言した南一局までに清水谷が作った点差は104,300点。7、80,000点差を目標としていた清水谷にとってはこれ以上にない出来である。だが、それでまだ気は抜けないというのも事実である。……というより、清水谷の言う通りここから。ここからが勝負なのである。

普通に考えて、残り四局でおよそ100,000点差を逆転するのは殆ど不可能と言っても過言ではない。仮に全て満貫直撃(親の連荘を考慮せず)で和了っても全然逆転には足りないのだ。

 

 

 

 

子の満貫直撃三回→16,000×3=48,000

 

 

親の満貫直撃一回→24,000

 

 

48,000+24,000=72,000

 

 

 

このように72,000点までしか取り返せず、結果として清水谷は逃げ切る事ができてしまうのだ。つまり、小瀬川はこの南場の全てを清水谷に直撃させ、尚且つ平均跳満以上の打点でないといけないという、ほぼ無理難題と言っていいほどの状況を、この100,000点差という壁が作り出したのである。

 

 

前述した通り、普通なら無理だ。普通の人間が相手だとしたら、この時点で清水谷の逃げ切りはほぼ決定したと言っても強ち間違いではない。100人に聞いて100人が清水谷が勝つというだろう。当然ながら、清水谷はこの南場は防御に入る。清水谷レベルの雀士が守りに入れば直撃を取ることでさえ精一杯である。一般レベルの雀士であれば、100,000の点差の内どれだけ頑張っても精々70,000点差にする事くらいが妥当だろう。

しかし、既に分かりきっている事ではあるが今清水谷の目の前にいる人間は普通ではない。それも、とびきり異常である。小瀬川ならこの点差でも何とかしてくれる。小瀬川なら清水谷に逆転できる。

……そんな予感、そんな有り得ぬ未来が最も簡単に予想できてしまうほど、小瀬川白望という人間は本当に分からない。要領がつかめないのだ。

 

 

 

「……南一局」

 

 

小瀬川が卓の中央で回る賽を見つめて呟くように言う。

その声はまるで、今まで眠っていた猛獣がゆっくりと目覚めるかのような微かな声だった。だが、その声の内には秘められた闘志が垣間見える。

 

 

 

山が卓の中からせり上がってくると、親から順々と配牌を取っていく。当たり前のことではあるが、小瀬川もこの局からは配牌は伏せることなく、開いて理牌していく。

 

 

 

 

(行くよ、竜華……)

 

 

 

(……来いや、小瀬川)

 

 

 

 

 

親の第一打によって運命の南場の始まりが告げられた。

 

 

 

 

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観戦席

視点:宮永照

 

 

(白、望さん……そんな…………)

 

 

私はトップと100,000点差という巨大な点差を目の当たりにして、私の事でもないというのにその点差に絶望し、その場に膝から崩れ落ちてしまった。

 

 

「お、どうしたん?宮永」

 

 

「宮永さん。こんにちはです」

 

 

そんな私に声をかけてきた人物が来た。愛宕姉妹。姉の洋榎は竜華さんと同じ大阪府代表の選手で、過去も何度か彼女と卓を囲んだことがある。妹の絹恵ちゃんの方は麻雀はやってないけど、色々因縁もある人物である。

 

 

「洋恵、し、白望さんが……」

 

 

そんな彼女の手を掴み、若干パニックになりながら白望さんの事を聞く。聞きたい事は山ほどある。まずはこの点差に至った経緯だ。

 

 

「お、おう……宮永。取り敢えず席に行こか」

 

いきなり詰め寄った私に戸惑いながらも、椅子に座って話せるように促す。私は洋榎について行き、落ち着いてから会話を始めた。

 

 

 

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椅子に座り、この準決勝で起こった事を洋榎さんから聞いた。『絶一門』という変則的な打ち方をしていた事。最初の方は白望さんがリードしていた事。……突然白望さんが和了らないと宣言し、そこから竜華さんが点差を縮め、逆転してしまった事。

話で聞いただけでも、高度な闘牌であった事が伺える。まず最初の『絶一門』の時点で、普通聞かない打ち方である。

それにしても、白望さんのあの点差がただ漫然と作られたものではなく、意図的なものであったと知って私は心の底から安心した。

 

 

「……勝てるかな。白望さん」

 

 

だが、それでも100,000点という点差は凄まじいという事には変わりない。そこで愛宕姉妹に聞いてみると

 

 

「確かに清水谷もヤバイけど、シロちゃんも凄いのは確かや……どっちが勝っても可笑しない」

 

 

「何言うてはるんやお姉ちゃん。シロさんが勝つに決まっとるやろ!」

 

 

と、絹恵ちゃんは偏見ではあったが、洋榎も白望さんの負けとは言わなかったので、取り敢えず安心する事にして、対局を見る事にした。

 

 

(……頑張れ)

 

 

 

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視点:神の視点

南一局 親:モブA ドラ{一}

 

小瀬川 19,700

モブA -14,000

清水谷 124,000

モブB -29,700

 

 

 

 

小瀬川が動くと宣言した南一局。この局から小瀬川の反撃が、逆襲が始まろうとしている。この南一局はその序章。

 

 

小瀬川:配牌

{二二八①①④④24466南}

 

 

配牌を久々に開いてみると、七対子一向聴の良形の配牌がそこにはあった。

 

 

だが、ドラもない七対子では打点に欠けてしまう。今の状況でこの七対子を和了っても雀の涙ほどにしかならないし、リーチをかければ清水谷はベタオリであろう。

状況と流れが噛み合っていないこの配牌であったが、それでもこの配牌でできる事は十分ある。

 

 

(上等。始めようか……清水谷竜華)

 

 

清水谷を睨みつけ、第一ツモを山から持ってくる。

 

 

 

 

 

終局まで、残り四局。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回から本格的な麻雀が始まります(多分)
ここから地獄が始まる……

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