宮守の神域   作:銀一色

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リクエスト回後半です。


宮守の神域 リクエスト その4-2

 

 

 

 

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前回の続き

 

 

「♪〜」

 

 

「……ダルッ」

 

 

「むー……!」

 

「Darn it!!」

 

「はぁ……腰……」

 

 

現在、私の部屋には妬みという妬みを抱えた悲しい女子高校生三人と私を人形のように後ろから抱えている197cmの長身であるミーハー女子高校生がいた。

豊音は三人の妬みの目線を受けても、御構い無しといった感じ鼻歌を歌い、私の首に回す手を引っ込めようとはしなかった。それどころか一層その手に強さが増していったような気もする。

それを見兼ねた塞が、場を紛らわせようと話を持ちかける。

 

 

「・・・はぁ、じゃあ飲み物用意するね」

 

そう言って、炬燵という名の神の暖房器具から塞が出る。若干その動きには炬燵という温もりから出る後ろめたさが感じられたが、それを踏み殺して一気に出た。私にはその決意を抱けはしないだろう、と内心で塞を尊敬した。そして塞は二つのビニール袋からそれぞれペットボトルを取り出し、炬燵のテーブルへと置いた。

そして次はコップを取ってくるのだと思われたが、コップのあるキッチンには行こうとはしなかった。塞が私の家に来るのは久々だが、最後に来た時からコップの位置などは変わっていないはずなので、迷うということはないはずだ。

一体全体どうしたものか、と私が思った矢先に塞が私に向かってこう言った。

 

「あーコップの位置がワカラナイナー……というわけでシロがとってきてくれないかな?」

 

ああそういう事か。私を豊音から離そうとするためだけに下手な演技をした塞を見て、何とも悲しい奴め、と思った矢先に豊音が反論する。

 

「嘘は良くないよー。シロを引き剥がそうたってそうは行かないよー!」

 

「まあそうなるよね……」

 

「サエ、ダイコンヤクシャ!」

 

それに便乗して塞の下手な演技を批判する胡桃とエイスリン。それだと結局私は豊音の元に居続けることになってしまうが良いのだろうか?

 

「そんなに酷かった!?」

 

塞が辛口な評価に驚きを隠せていないが、確かに今の演技は酷かった。漫画で見たような嘘のつき方って本当にあるんだなぁと、今改めて感じさせられた。まあ私は取り敢えず塞に持ってきてもらえるよう適当に促した。

 

 

「いいから取ってきて……」

 

 

 

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「よいっしょっと」

 

塞が人数分のコップを持ってきて、炬燵のテーブルにドンッと置いた。その時塞が無意識中に発した『よいしょっと』という言葉に『おばあちゃん』とツッコミかけたが怒られそうなので我慢した。胡桃の方を見ると、明らかに笑いを堪えているのが見えた。まあ常日頃『おばあちゃん』やら『御母さん』やらでからかっていた塞がこんなことを言えば仕方ないことでもあるが。

 

そして塞は避難場所へ避難するかのようにすぐさま炬燵の中に足を入れる。炬燵入り選手権という競技があれば確実に一位を取れるような鮮やかな炬燵の入り方だった。全く無駄がない洗練された動きだ。

 

 

「じゃあジュース注ぐよー」

 

 

そして豊音が私を座らせたままみんなのコップにジュースを次々と注いでいく。私を座らせながら注いでいるので豊音は前に重心を傾けなければならない。そうなれば自然的に豊音の身長に比例した長い髪が私の顔にかかり、少しもどかしさを覚えたが、不快ではない。そしてそれよりも私が気になったのが、豊音の胸が私の後頭部に思いっきり当たっていることだ。別に私は阿知賀の例の子のようにそんな偏った趣味はないが、それでも気になってしまうものは気になってしまう。

その事を豊音に伝えようとしたが、ジュースを注いでいる豊音の顔はすっごくニヤニヤしていた。その時、私は豊音の行為がわざとだということを悟った。……初めからこうするつもりで注ぐと言ったのか。他人事のように聞こえるが、恋する乙女とは実に恐ろしいものだ。

 

 

「何でニヤニヤしてるの?豊音」

 

 

そして異変に気づいた胡桃が、豊音に質問する。私に胸を押し付けることに夢中になっていた豊音はびっくりしてこぼしそうになるが、何とかこぼさなかった。

 

「な、何でもないよー!」

 

 

「トヨネ、ワラッテタ!」

 

 

そう言ってエイスリンはボードを向ける。そこには麻雀をやってた時以上の卑しい笑みを浮かべた豊音がいた。豊音は何とか誤魔化そうとしたが、実際にされている側の私からしてみれば苦しい言い訳にしか聞こえない。

 

 

「どうせシロに変なことしようと考えていたんでしょ?」

 

 

「ち、違うよー。塞、信じてよー」

 

豊音が必死に弁解する。まあ、豊音の言っていることは実際的を得ている。考えてはいない、ただもう実行しているだけだ。

 

そんなこともありながら、豊音が全員分のコップにジュースを注ぎ終えた。そして全員がそれぞれのコップを持ち、取り敢えず乾杯することにした。

 

 

 

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「・・・ねえそろそろシロを解放してあげたら?」

 

 

「やだー!」

 

あの乾杯から結構な時間が経った。あれから私たちはボードゲームやトランプで遊んだり、インターハイについて話し合っていたり適当に駄弁ったりしていた。昼食は塞とエイスリンが私のキッチンを使って作ってくれたりして何とかなった。塞の手料理は何回か食べたことはあったが、エイスリンのは食べたことがなかったので、どこか新鮮な感じがした。味はとてもよく、下手な店よりも普通に美味かった。これが女子力というやつなのか。

因みに私は未だ豊音の上にいる。どうやら豊音は私を解放する気は無さそうだ。だが、私はそろそろお小水に行きたい。流石に我慢するのも面倒なので、豊音に頼んで解放してもらうことにした。

 

「シロー!すぐ戻ってきてねー……!」

 

豊音が大げさにトイレに行こうとする私に向かって叫ぶ。"戻ってきて"ということは私はまた豊音に拘束されることになりそうだ。……別に私は構わないが、他三人はそれを聞いたら目つきが鋭くなっている。一触即発とはまさにこのこと。

 

 

 

 

お小水を済ませた私は、そろそろおやつの時間だということで、部屋に戻る前にお菓子を調達しようと思い、戸棚を調べてから戻ることにした。

戸棚を調べていくと、何やら高そうな箱を見つけた。中を開けてみると、そこにはいかにも高級そうなチョコレートが入っていた。高級そうなので少し出そうかを憚られたが、まあすぐに見つかるところに置いてあるから大丈夫であろうという勝手な解釈の元、それを持っていくことにした。この時、私はただ高そうという観点から選んだため、ある事に気づくことはできなかった。そしてその見落としが、後に悲劇を生むことになってしまう。

 

 

 

 

 

「お待たせ……」

 

私が戻ってくるなり、豊音が豊音自身の膝をぽんぽんと叩く。どうやら今日の私の定位置は豊音の上ということで確定してしまったらしい。しかも明らかに他三人が不貞腐れている。

私は豊音の上に座ると、持ってきたチョコレートが入っている箱をテーブルに置いた。

 

「これ何?」

 

「チョコ。戸棚にあるの適当にとってきた」

 

そう言って箱を開けると、さっき見た高そうなチョコレートが私達の前に姿を現した。四人はおお、といった感じでそのチョコレートをまじまじと見る。

 

「・・・これ高そうだけどいいの?シロ」

 

「多分大丈夫」

 

「じゃあありがたく貰うよー」

 

豊音がそう言ってひょいとチョコレートをとって、それを口の中に入れる。それを食べた豊音は目を見開き、

 

「これ美味しいよー!みんなも食べるべきだよー!」

 

と嬉しそうに言う。そんなに美味しかったのならこのチョコレートもさぞかし嬉しかろう。

 

「ワタシモ、イタダキマス!」

 

エイスリンもチョコレートを口に入れる。そして幸せそうな表情を浮かべる。良かったなチョコレートよ。お前の美味しさは国境を超えたようだ。

 

「そんなに美味しいの?……じゃあ私はトイレ行ってから食べるとしますか!シロ、トイレ借りるよ」

 

「いいよ」

 

塞が立ち上がってトイレの方向へ向かう。そして豊音は胡桃にチョコレートを勧めるが、胡桃は「ジュース飲み終わったらね」と言った。……端から見れば完全に小学生にしか見えないんだよなぁ。言ったら怒鳴られそうだから言わないけど。

その間に豊音とエイスリンはバクバクとチョコレートを食べていく。私もその美味しさを楽しむべく、チョコレートを手に取って食べようとすると、あることに気づいた。エイスリンの顔がほんのり赤くなっていることに。

熱でもあるのかな?と一瞬思ったが、チラッと豊音の方を向くと、エイスリンと同じく顔を赤くしていた。

 

異変に気づいた私は慌ててチョコレートの箱、パッケージをよく見る。そこには『ウイスキーボンボン』と英語で書かれていた。

ウイスキーボンボン。実際のウイスキーとアルコール度数を比較するとウイスキーボンボンは度数はかなり低い方だが、耐性のない女子高校生を酔わせるには十分すぎた。

 

嫌な予感がする、と悟った私だったが、時既に遅し。私の体は既に豊音の腕によって完全に拘束されていた。

 

「・・・豊音、大丈夫?」

 

「らいじょーぶだよー」

 

恐る恐る豊音に聞いてみると、豊音は顔を真っ赤に染めながら呂律の回っていない声で答えた。ベロンベロンに酔っているようだ。しかも私を囲っている腕には尋常じゃないほどの力がかかっている。

 

 

「シロ!」

 

エイスリンが私の名前を呼ぶ。エイスリンの方を向こうとした時には、既にエイスリンは私に向かって抱きつこうとしていた。

私はそれを避けることもできないので、受け止めるしかなかった。二人の息からは酒の香りがする。危うく匂いだけで私も酔ってしまいそうだ。

そして胡桃もやっと二人の以上に気づいたのか、ガタッと立ち上がる。

 

「ちょ、エイちゃん!?何やってんの!?」

 

 

「Shut up デス!シロ、ワタシノモノ!」

 

 

「エイスリンさん、少しおふざけが過ぎてるよーシロは私のものらよー」

 

 

だめだ。これは収まりそうにもないな。

 

 

 

 

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その後、塞が戻ってきて胡桃とともに無理矢理エイスリンと豊音を私から引っぺがした。

・・・あのまま放置してたら今頃私はどうなっていたか想像したくもない。酔った人間とは恐ろしいものだ。

そして引っぺがした直後こそ大きな声で泣いたものの、泣き疲れたのか、すぐに寝てしまった。

流石にこのまま寝てもらっても困るので、エイスリンと豊音を別室に敷いた布団に乗せて寝かせたままにした。

結局、その日豊音とエイスリンは起きることがなかったので、私の家に泊めることにした。そして翌日、前日にあったことを二人は覚えていたのか、酔った時とは違う理由で顔を真っ赤にしてそれぞれの家に帰った。

帰ってきた親には滅茶滅茶叱られたが、まあこういうのも悪くはないであろう。流石に二人に滅茶苦茶にされそうになった時は血の気が引いたが。

 

 

まあ、何事もなかったので結果オーライだろう。未遂で終わって何よりだ。

 

 

 

 

 

 

*良い子はウイスキーボンボンは食べないでね!お酒と違って禁止されてないけど、お酒飲んでるのと同じだからアルコール検査されたら余裕で警察に捕まっちゃうよ!




次回は本編書きたいですね(希望的観測)

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