宮守の神域   作:銀一色

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第456話 二回戦大将戦 ㉕ 疑念

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視点:神の視点

東二局 親:永水 ドラ{南}

姫松  91500

永水 123400

清澄  80500

宮守 104600

 

 

 

 

姫松:九巡目

{二三四五六⑤赤⑤234} {横③②④}

ツモ{四}

 

 

 

「ツモや!1000、2000!」

 

 

 

 

 辻垣内智葉や宮永照らが石戸霞がその身に降ろしている力の根源、鷲巣巌の影を追っている最中にも、対局は常に動きを見せていた。親番にも関わらず石戸霞が対小瀬川白望に万全を期すために鷲巣麻雀発動を見送った東二局、末原恭子は鳴きを入れた速攻の麻雀で和了りを披露する。先程親番で和了れなかった鬱憤を晴らすかのような帳尻合わせのツモ和了。常人から見ればそう見えるのだろうが、こと鷲巣巌に限っては違った。

 

 

 

 

『生意気な小細工だ……何があってもわしらを和了らせん気じゃな……』

 

 

 

 

永水:九巡目

{二二八八③③1179東南南}

 

 

 

 

清澄:捨て牌

{西発8①九8}

{③一白}

 

 

 

 

 鷲巣巌は対面に座り笑みを浮かべる小瀬川白望の事を睨みつけ、歯を思いっきり噛んでガチガチと音を鳴らす。今の和了も、やはり裏を見れば小瀬川白望の姿が、アカギしげるの姿が鷲巣巌には見えていた。

 末原恭子が鳴いた三筒。これは七巡目に小瀬川白望が切った三筒を鳴き、そして聴牌と至ったわけだが、これこそが小瀬川白望の狙い、策だったと鷲巣巌は推察する。本来なら石戸霞の手牌に二枚、宮永咲の捨て牌に一枚、そして小瀬川白望の手元に一枚。一向聴で聴牌を目前として三筒を待つ末原恭子側からして見ればまだ場には一枚しか見えていないが、実は既に山には三筒は残っていなかったのだ。

 つまり、先に{一四七}の筋を引いて聴牌になろうが、結局{②④}の嵌張は埋まらないし、五筒を引くなり鳴くなりして嵌張を崩して手替わりを望もうとしても、その遠回りの間に石戸霞が和了っていたはずだ。どう戦局が転ぼうとも、最終的には末原恭子の和了のための条件、重要なキーが揃う可能性はゼロだったのだ。あの時、小瀬川白望が三筒を切るような事をしなければ。

 

 

 

 

『姫松が三筒を鳴けば和了られるというのが分からん奴でもあるまい……そうなると奴は……』

 

 

 

 

 そうなると、あの時何故小瀬川白望は最後の三筒を末原恭子に鳴かせて、和了らせたような事をしたかという疑問へと変わってくるが、これは単純な事だ。三筒を鳴かせれば和了られる。それが分かっていた状況で切ったということは、小瀬川白望は末原恭子を和了らせて親を蹴ろうとしたからという答えに行き着く。

 

 

 

 

『ハナから和了るつもりは無かった……というわけか。相変わらず状況判断が的確かつ素早い奴だ…………』

 

 

 

 

 鷲巣巌が前述した通り、小瀬川白望はどうあろうとも石戸霞に親の連荘をさせまいと徹底している。彼女が連荘をさせないと言えば、それこそ鷲巣巌程の力の持ち主でさえなければ、本当に連荘はできない。できないと言うよりも、させてもらえない。ありとあらゆる手を使って親を蹴ってくる。常人にとっての意気込みや強がりは、彼女が言えば宣告、確約となる。それが小瀬川白望であり、アカギしげるの恐ろしさ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『カカカ…………ッ!……さあ、そして()()()()()()()()()()()……?アカギ…………ッ!』

 

 

 

 

 

 だが、そんな事はどうでもいい。むしろ本題、話の核はここからだ。そう鷲巣巌は言うように、届かぬはずのない問いを小瀬川白望に……彼にとってはアカギしげるに向かって心の中で問いかける。そう、ここで重要なのは小瀬川白望が末原恭子の和了のアシストをしたとか、その根拠だとか、それを行う小瀬川白望の凄さを論じる事などでは断じてない。勿論その話も重要なのであろうが、鷲巣巌は既にその先の話、一歩先を指差していた。

 鷲巣巌が何を言いたいかと言えば、何故小瀬川白望は末原恭子に和了らせたのかという事だ。一見、これでは先程の疑問と何ら変わらないようにも見える。だが、先程の疑問はあくまで『何故小瀬川白望は』と『末原恭子に和了らせた』の間には何もなかった問いである。ただ純粋に、行為の目的の事を指差している。先程の疑問との明確な違いは、その二つの言葉の間に()()()()()()()()()()()という言葉が隠れているという点だ。

 確かに、小瀬川白望は石戸霞の親を蹴るために末原恭子を和了らせた。そこまでは何ら不思議な事はない。だが、その行為に至った理由、何故小瀬川白望は自分の和了を捨てて末原恭子を鳴かせたのかという風な視点で見れば、そこには明らかなクエスチョンマークが発生する。

 本来、わざわざ末原恭子に和了らせる必要はなかった。あの時、石戸霞が聴牌目前だったと雖も、少なくとも小瀬川白望には十巡は猶予があったはずだ。小瀬川白望がまさか裏目を引くとは思えないし、そんな事は起こらないだろう。彼女ならば十巡さえあれば何の支障も無かっただろう。それに、東二局で親番なのは小瀬川白望にとって最大の脅威となり得る永水。小瀬川白望が和了れば、ツモならば親被り、直撃ならそのまま点棒のいってこいで大きなダメージを与えることができたはずだ。にも関わらず、小瀬川白望はそれを選択しなかった。

 

 

 

 

 

『つまり…………和了れなかったのじゃろ……十巡あったとしても、貴様が一番最速な最善手を取っても、十巡じゃ間に合わなかったんじゃろ……それほど今、奴の流れは悪いという事……ッ!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『か……()()()()()()()()()()か……そのどちらかじゃ…………そうじゃろ……?』

 

 

 

 

 一般に、場の流れとはその時の如く流動性がある。一辺倒に傾く時もあれば、水平に均等に流れる場合もある。そしてその流れは一点には留まることは無い。多少オカルトの話に突っ込んでしまうが、確かにそういう流動性が存在する。

 勿論、ある程度人間の働きによって流れは変化したり、一時的に固定化するという作用を与えることはもちろん可能である。人為的であれそうでなかれ、微小な一つの行動に対しても流れは変化し得る。よく場の流れを切るために時間を開けたり、いつもとは変わった事や験担ぎをして流れを呼び寄せるなどと言うが、事実それで本当に流れは変わる可能性がある。あくまで可能性であって、当然ながらそれで変わらない可能性もあり、変わったとしてそれが好転するとは限らない。それほど流れはデリケートかつ気紛れなものだ。

 しかし、アカギしげるや小瀬川白望は、その流れを自由に傾けさせたり固定させたりなど掌握する技術を会得している。その技術は天才、奇才と呼ばれる者が習得しようとも一朝一夕で手にする事のできる代物ではない。日々を狂気の中で暮らし。生という欲を捨て去り、尋常ならざる精神力と集中力があって初めてその領域に触れられる。時代を築いた天才達から見ても並外れた技術なのだ。

 だが、その技術を持ってさえしても流れは自然と変わり得る時があるというのもまた事実。いくら小瀬川白望だろうと、アカギしげるだろうと絶対というわけではない。麻雀の神の御告げか、はたまた牌の意思がそう告げているのか、詳しくは分からないが、その作用を越えた流れの意図せぬ流動は確かに存在する。

 

 

 

 

 

『奴の流れが悪いのかそうでないのか……この二択のどちらかなのは確かじゃ。じゃが……ここからが問題…………迷宮の始まりだ………………ッ!』

 

 

 

 

 

 今問題なのは、その神託が起こっているのか、それとも小瀬川白望が起こっていると見せかけているのか、そのどちらかである。前者ならばこれはまたとないチャンス。確実に殺せる千載一遇の好機であるのは間違いない。だが前者と信じて実際は後者であったというのならば、その時は正反対。逆に小瀬川白望から手痛いクロスカウンターを喰らうこととなる。手痛いというが、実質的にはほぼ致命傷である。

 この見極めに、鷲巣巌は非常に悩んでいた。生前何度も、このようなあらゆる事象に対してアカギしげるのブラフか否かという見極めを行ってきたが、はっきり言って何も分からないというのが正直なところだ。本来ならば二分の一、偽か真かの二者択一のはず。適当に選んでも必ず確率は二分の一に収束するはずなのに、明らかに鷲巣巌が選んだ答えとは逆の方が正解となる。例え適当に選んだとしても、それすらをも加味して確実にその逆をついてくる。もはや確率論などアテにはならなかった。

 

 

 

 

 

『ぐっ、ぐぬぬ…………ッ!』

 

 

 

 

 

「ツモ」

 

 

 

 

清澄:十二巡目

{①②③⑨456} {裏西西裏} {裏七七裏}

ツモ{⑨}

 

 

 

 

「自摸、嶺上開花。2600オール」

 

 

 

 

 

 

『また和了らんかった……今度は十二巡…………』

 

 

 

 

 

 そして続く東三局でも、小瀬川白望は和了らなかった。和了どころか、聴牌の気配さえ匂わなかった。十二巡かかりながらも、親の宮永咲が暗槓からの嶺上開花ツモで八十符二飜の7800をツモ和了る。小瀬川白望の流れが悪くなければ、十分止めれる可能性はあっただろう。低く見積もっても、聴牌までは行けていたはずだ。だが、そうはならなかった。鷲巣巌のブラフへの警戒心が高まるのとは裏腹に、純粋に見れば小瀬川白望の流れは更に失われつつあるように見える。

 ここまで露骨に流れが悪いように見えると、かえってブラフだと決めつけてしまいがちになるが、鷲巣巌は我慢する。奴ならやりかねない。やってもおかしくないのだ。本当に不調なのに、不調を装っているブラフだと思わせるような、ブラフのブラフ。鷲巣巌が思いつく事ならば、小瀬川白望ができないわけがない。小瀬川白望の親まで後一局。そういった意味では、今和了ったのが親の宮永咲で助かったと言えよう。

 

 

 

 

『何を考えてるんだ……こやつは一体…………クソッ……!優位なハズじゃろ……!本来ならば……わしらが…………!』

 

 

 

 

「…………」

 

 

 

 

『……殺す。絶対に殺してやる…………アカギ……ッ!!』

 

 

 


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