宮守の神域   作:銀一色

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第454話 二回戦大将戦 ㉓ 会合

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視点:神の視点

東二局 親:永水 ドラ{南}

姫松  91500

永水 123400

清澄  80500

宮守 104600

 

 

 

 

「……ふむ。如何に思う?純」

 

 

 

 

 

 

 

 大沼秋一郎と別れた天江衣と井上純は、同じ龍門渕の仲間やインハイの予選で決勝戦を戦った鶴賀や風越のメンバーがいる場所へと戻っている最中、天江衣は壁に貼り付けられているモニターで大将戦の様子を見ながら隣を歩く井上純に向かってそう訊くと、足を止めた井上純は天江衣が何に対して言っているのか分からず、少し困ったような表情を浮かべて「如何にって……何がだ?」と聞き返す。

 

 

 

 

「……咲も姫松の大将も、先程までとは別人、奪胎したように見える。……あの極小な時間の中で、咲達に何があった……?」

 

 

 

 

「そうか?オレには宮守と永水の方しか目が行かなくて分かんなかったけど……」

 

 

 

 

「いや、確かに変わっているぞ。前半戦の南場の時の咲達に比べれば一目瞭然。何があったかは分からないが……何かはあったはずだ」

 

 

 

 天江衣がそう言うと、井上純は顎に手を添えて「でもそうなると……よっぽどの事があったと考えるべきか……」と考えを巡らせる。確かに前半戦の特に南場では、宮永咲も末原恭子も、まるで生気が感じられないほど精神をやられているというのが、誰の目から見ても丸わかりだったほど落ち込んだはずの二人だ。ちょっとやそっとの事では、ここにきていきなり復調するなどという事は起こらない。それほど人間の精神力は、一度崩れると脆い。そこからの回復は余程の事でない限り望めない。ということは、宮永咲と末原恭子は休憩時間中にその余程の事があったに違いない。

 

 

 

 

「合点はいかないが……まあ、ここで考えていても二進も三進も行かない。とりあえずとーかの所へ戻ろ……」

 

 

 

 

「……どうした?衣?」

 

 

 

 

「あれはもしや……」

 

 

 

 

 そして再び皆のもとへ戻ろうとした矢先、天江衣は何かを見つけたようで、いきなりあらぬ方向へと飛び出して行った。井上純はそんな後ろ姿について行きながら、(やっぱり……側から見れば衣がオレとタメとか普通分かんないよな……)と、口頭で言えば確実に天江衣に怒られそうな失礼極まりない事を考えていると、天江衣は急にスッと物陰に隠れた。井上純もそれに合わせて物陰に隠れようとすると、天江衣の視線の先には見覚えのある人物が二人立っていた。

 

 

 

 

「あれって……チャンピオンと、臨海の辻垣内?」

 

 

 

 

「何やら御饒舌中のようだな。これまた傑物揃いだ」

 

 

 

 

 天江衣は少し冷や汗を額に垂らしながらそう呟く。今井上純の目の前にいる天江衣も十分相手にするとなれば冷や汗ものなのだが、その天江衣が冷や汗をかいているという事実に、井上純は改めて視線上にいる宮永照と辻垣内智葉がいかに規格外な化け物であるかを気付かされる。天江衣が咄嗟に物陰に隠れたのも、そういった理由があったからだろう。もし彼女らが天江衣よりも格下であれば堂々と名乗りを上げただろう。それができないというのは、少なくともあの二人は天江衣と同等、それ以上という事だ。まあこの様子を見るに、天江衣よりも格上という事が分からなくもないが。

 そうして二人は聞き耳を立てていると、宮永照と辻垣内智葉の会話が断片的ではあるが聞こえて来た。

 

 

 

 

『それで、妹との話は済んだのか?』

 

 

 

『うん……まあ、そんなに会話は交わしたわけじゃないけど、一先ずは解決した……はず』

 

 

 

 

(おい、衣……妹ってまさか……)

 

 

 

(紛うかたなき、咲の事だろう……やはり王者が姉だったか)

 

 

 

 辻垣内智葉の口から出た「妹」というワードに反応した井上純と天江衣が小さな声で会話を始める。それと同時に、宮永照と辻垣内智葉の会話もどんどん進んでいく。

 

 

 

 

『……にしても、意外とすんなりいったものだな。シロに背中を押されてから、何も進展せずに何年も経ったものから、そんなにすぐ解決するもんじゃなかったと思ったんだが……』

 

 

 

 

『やっぱり、妹が傷ついている所は見たくはない。その相手が例え白望でも』

 

 

 

 

『素晴らしき姉妹愛と言ったところか……まあ、何はともあれ上手く行って良かったじゃないか』

 

 

 

 

 そこまで言った辻垣内智葉は大きく溜息をつく。今までの会話の流れからして不自然な溜息だ。一体何だと井上純と天江衣が気になりながら覗き見をしていると、こちら側に振り向いた辻垣内智葉と井上純の目線が合った。目が合った井上純は条件反射的に天江衣の事を押さえつけ、相手側から何も見えぬ様に物陰を背にして口を閉じる。

 

 

 

 

「おい、何をしている。人の話を盗み聞くとはいい度胸だな」

 

 

 

 

 

(やっべ〜…………バレてた…………!)

 

 

 

 

 

 遠くから辻垣内智葉に声をかけられた井上純は血の気が引き、一瞬走馬灯のようなものが浮かんだが、押さえつけていた天江衣が物陰から飛び出して「……盗み聞きの件はすまない。たまたま通りかかったら二人が見えたのでな」と言う。あくまで余裕は崩さない天江衣だったが、実際彼女の足は少し震えていた。

 

 

 

 

「……ん、お前、龍門渕の天江か?」

 

 

 

「天江さんって……去年のインハイでMVPの」

 

 

 

「……だけど、今年は出場できなかった。王者の妹の所為で」

 

 

 

 

 天江衣がそう言うと、辻垣内智葉の眉がぴくりと動いて「チッ……やっぱりその部分が聞かれてたか」とドスを効かせた声でそう呟く。しかしそれを制止するように宮永照が口を開く。

 

 

 

「別にいいよ。辻垣内さん。メディアとかに口外さえしなければ」

 

 

 

「まあそれもそうか……」

 

 

 

「それにしても、二人は如何にして会合を?」

 

 

 

 

「ああ、それは宮永に永水の石戸の能力を聞きに来たんだ。さっきの会話はそれのついでさ」

 

 

 

 

「あ、そうだったんだ」

 

 

 

 

 辻垣内智葉が天江衣に返答すると、天江衣は宮永照に向かって「し、知っているのか?あの摩訶不思議な能力を!?」と食いつくように尋ねる。天江衣に揺さぶられるようにされた宮永照は天江衣を引き剥がし、「まあ……ここで立ち話もなんだし、どこかゆっくり話のできる場所で話そう」と提案する。

 

 

 

「それなら、衣についてくるがいい!其方たちの願いに応えれるはずだ!」

 

 

 

「……どうする?辻垣内さん」

 

 

 

「……まあ、別にいいだろう。人目につかないところといって選んだこの場所も、格別良いというわけではない。……ここじゃ対局も見れんしな」

 

 

 

 

 宮永照と辻垣内智葉が天江衣の誘いを承諾すると、井上純が「い、いいのか?同じ高校の奴らとか、いるんじゃないのか?」と、仮にも強豪校を牽引する宮永照と辻垣内智葉に向かって心配の声をかけるが、宮永照は「私、部長じゃないし……菫が何とかしてくれるから多分大丈夫……」と、辻垣内智葉は「まああいつらなら大丈夫だろ。私がいなくてもしっかりやってくれるさ」と、互いに楽観的な発言で返す。井上純はこの時、(……麻雀を打たせれば化け物のはずなのに、なんていうかな……ポンコツっていうか……少なくとも家事や雑用はオレの方ができそうだな)と思っていると、いきなり辻垣内智葉から声をかけられた。

 

 

 

 

「おい、龍門渕の先鋒の」

 

 

 

「は、ハイッ!?」

 

 

 

「……口には気をつけておけ」

 

 

 

 この時、井上純の血の気が再び引いて、心の底から辻垣内智葉に対しての恐怖心を植え付けられたのは言うまでもなかった。

 


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