宮守の神域   作:銀一色

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第452話 二回戦大将戦 ㉑ 雌雄を決する時

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視点:神の視点

前半戦終了時

清澄  81200

宮守 101900

姫松  92800

永水 124100

 

 

 

 

 

「……咲ちゃんは結局戻ってこなかったけど、大丈夫なんかじぇ?」

 

 

 

「咲のやつがここに来ないのは何かしらの理由があってだと思うんじゃが……心配じゃけん」

 

 

 

 

 大将戦の後半戦が始まるまで、実に後二分。そんな中清澄の控え室では、前半戦と後半戦の間にあるこのインターバルに姿を見せる事のなかったチームの大将、宮永咲について心配の声が上がっていた。前半戦では最初の方は怯えながらも、なんとかしようという感じではあったが、東四局の鷲巣麻雀からは完全に調子は右肩下がり。調子もそうだが、それ以上に精神的ダメージが大きい事を鑑みると、この休憩時間は非常に大切な時間であり、調整にはうってつけだったのだが、結局宮永咲はここへは戻ってこなかった。

 竹井久は片岡優希達の会話を耳に通しながらも、(迷子って事もないだろうし……)と心の中で自分なりに色々な要因を考える。が、まさか宮永咲が麻雀部に入った目的であり目標としていた自身の姉と再会し、そこから和解に至っていたなどとは考えが及ぶわけもなかった。

 

 

 

 

(咲の事だし……責任感じちゃってるのかしら)

 

 

 

 

 そんな事なら自分が宮永咲のところへ出向いてやればよかったと後悔の念を抱く竹井久だったが、今更悔やんでももう遅く、後半戦が始まるまで二分も残されていない。今更言っても閉め出されるのがオチである。

 

 

 

 

「大丈夫ですよ、咲さんなら」

 

 

 

「和……」

 

 

 

 竹井久が葛藤に苛まれている中、原村和は冷静な瞳ではっきりとそう言った。もちろん、明確な根拠などあるわけがない。だが、その言葉にはどこか物を言わせぬ強さがあった。言い換えるとするならば、それほど彼女は宮永咲に信頼を寄せていることの表れとも言えよう。そして何より、チーム内で混乱が起きているこの状況で憶測など必要なく、冷静に構えることのできる原村和の『強さ』に竹井久は感服した。

 

 

 

(……和がしっかりしてるのに、私がこんなんでどうするのよ)

 

 

 

「そうね、和の言う通りだわ。私たちが今ここで不審がっていても仕方ない。今私たちにできることは、まず咲の事を信じること。外野の私達がうだうだ言ってても何も変わらないわ」

 

 

 

 

「……そうじゃのお。全くもって正論じゃ」

 

 

 

 竹井久の鶴の一声により、どよめきに包まれていた控え室が一気に落ち着きを取り戻す。竹井久は原村和に驚かされ、感服してばかりだと感じていたが、それと同時に原村和も竹井久のチームを動かす指揮、統率力に感嘆していた。自分にはできぬ舵取り。竹井久もまた、誇れるだけの『強さ』を持っていた。

 

 

 

 

 

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『カカカカカ……!逃げずに戻ってきたか……』

 

 

 

 

 所変わって対局室。先に到着していた石戸霞と鷲巣巌に続くように、他の三人が対局室に入ってくる。それを鷲巣巌は半分冗談混じりに、半分本気で三人に問いかける。無論、インターハイという大会である以上逃げるという選択肢はない。これはさも当然のことだ。だが、鷲巣巌は知っている。逃げられない、退くことのできない勝負だというのにも関わらず、恐怖のあまり逃げようと、逃れようとする不届き者がいるという事を。かつて鷲巣巌が葬ってきた者は、大抵死が訪れようとすると喚き、苦しみ踠き、逃げられないと分かりながらも逃げようと足掻いていた。

 確かに今この試合は、何も命を賭けているというわけではない。そうかもしれないが、雀士としての誇り、今まで麻雀に費やした命の時間を賭けた勝負といっても過言ではない。そういった意味では、臆する事なくこの場に戻ってこれたというのは、それだけで評価に値しよう。

 

 

 

 

『……ほう。どうやら、ただ殺されに来た愚図というわけではないようだな……』

 

 

 

 そしてそれと同時に、鷲巣巌は末原恭子と宮永咲の表情の変化に気付く。前半戦の時のような死んだ魚のような光の無い目とは違い、しっかりとした意思を感じる。ただ、苦痛を、恐怖を耐えるために来ているわけではない。恐怖に打ち勝つ、この勝負に勝利するために来たのだという彼女達の気持ちの変化を感じ取った。それに感心しながらも、鷲巣巌は『結構結構……!キキキ……!まあ、それが果たしてどこまでもつか……見ものじゃの……』と笑い飛ばし、ゆっくりと小瀬川白望の方に視線を移す。もちろん良い意味で、彼女は前半戦から変わっていない。変わっているといえば、彼女がより一層鷲巣巌の事を意識しているということか。

 鷲巣巌としても、変わらないで結構。そのままで良いと言いながらも、彼女に映るアカギしげるの面影を見て、憎き宿敵に向かって恨みを込めて舌鼓をうつ。そして小瀬川白望にこう告げた。

 

 

 

 

『ククク……これまでの闘いにおいて、貴様もわしも、結果を見て勝ったと満足できた事はない…………これ以上の引き分け、痛み分けは御免願う……そろそろ雌雄を決する時としようじゃないか……アカギッ…………!』

 

 

 

 

「……当然。そのためにここに来ている……」

 

 

 

 

 鷲巣巌と小瀬川白望は短い会話を済ませた後、さっそく場所決めを開始する。そんな中で、末原恭子は牌を取りながら、小瀬川白望と石戸霞の方を見て溜息を吐く。明らかに、この中でキーとなっているのは小瀬川白望と鷲巣巌の力を借りた石戸霞の直接対決。自分は完全な傍観者だ。そんな疎外感に悪態を吐くように心の中で呟く。

 

 

 

(……分からんわ。鷲巣とかいう奴も、なんで白望が赤木って名前で呼ばれてんのかも、何から何までこの二人のことは全然分からん。……多分、あの二人には、ウチのことなんて見えてへん。完全に蚊帳の外や)

 

 

 

(せやけど……そんなもん御構い無しや。蚊帳の外やろうが何だろうが、麻雀は二人でやるもんやない……そろそろ混ぜてもらうで、あんたらの世界に……!)

 

 

 


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