宮守の神域   作:銀一色

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第451話 二回戦大将戦 ⑳ 不安

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視点:神の視点

 

 

 

 

 

「……お、お姉……ちゃん……?」

 

 

 

 宮永咲は思わぬところで半ば絶縁状態と言っても過言ではなかった自身の姉、宮永照が目の前にいる事に、驚きを通り越して言葉を失いかけていた。今の今まで散々小瀬川白望に痛めつけられ、末原恭子と同じく傷心気味であった宮永咲だったが、その嫌な辛い記憶がいっぺんで吹き飛ぶほどの衝撃を受けるほど、それほど今自分の目の前に宮永照がいるという事態は異常を極めているのだ。

 一瞬、これは夢かと勘繰りそうになるが、間違いない。これは現実で起こっている。確かに今宮永照が自分の目の前にいる。そう確信すると、自然と宮永咲の瞳から涙が溢れて出てきた。長い年月、若い宮永咲からしてみれば人生の多くを、姉の宮永照とは別の世界で、同じ空間ではない場所で過ごしてきた。幼少期の確執をきっかけに、東京と長野、近いようで遠い、互いに別々の世界で生きてきた。そして常に、この時が来ることを望んでいた。しかしそれと同時に、もう二度と、共に時間を過ごした頃のようには戻れないのではないかと、少なからず心の何処かにはあった。そういう不安、葛藤のせいで眠れぬ日々も多々あった。今流している涙は、嬉しくて流しているのか、それとも、不安が払拭された事に対する安堵かは分からない。だが、少なくとも、不快を表す涙ではないというのは明らかだろう。

 

 

 

 

「……ごめん」

 

 

 

 

 そして宮永照も、宮永咲と同じように目を潤しながらゆっくりと宮永咲に近づくと、震える声でそう呟いて優しく抱擁した。一瞬、もしかしたら、この手を跳ね除けられるのではないか。自分が過去にやったように、拒絶されるのではないかと、不安が彼女を襲った。正直、躊躇いもあった。あれだけ冷たく接した自分が、今更このような事をして許されるのか、許される権利が果たしてあるだろうか。できることなら、少しでもこの不安から遠ざかりたい。そう思っていた。大将戦が始まるまでは。

 だが、大将戦の宮永咲が苦しんでいる姿を見て、その気持ちは変わった。過去に何度か経験したことのある宮永照だからこそ、その苦しみ、不安、恐怖、焦り……そういった感情の痛みがよくわかる。その痛みに苦しんでいる宮永咲の姿を見て、居ても立っても居られなくなったのだった。今度は、自分の番だと。過去に宮永照が助けられたのと同じように、今度は自分が宮永咲の事を助けなければ、力とならなければいけない。そう感じた。

 

 

 

 

「咲……ごめん…………不安にさせて……」

 

 

 

 

「ううん……お姉ちゃん、私こそごめん……」

 

 

 

 

 両者は両者に向かってそれぞれ謝罪をすると、二人はそのまま抱き合って二人だけの時間をぐっと噛み締めていた。互いに離叛していた二人の心を深く繋ぎ止め、もう離れる事のないように馴染ませるように、しばらくその状態が続いた。数年ぶりに互いに時間を共有することとなったが、不思議と会話は多くはなかった。声に出すよりも、体で感じるこの温もりだけで、彼女らは十分通じ合えたのだ。故に、会話など必要なかった。

 もちろん、宮永姉妹はこの場に二人しかいないと思ってその状態を続けているのだろうが、大星淡からしてみれば気まずいなどという話ではないわけである。宮永姉妹にどういう事情があるのかは彼女には分からないが、二人の様子を見るに、壮絶な過去があったことだろう。弘世菫の指示は宮永照を連れ戻すことであったが、流石にあの二人の間に割って入るほど無頓着、ドライな人間ではない。そうして結局その場にいられなくなったのか、大星淡は音を立てずにゆっくりとその場を後にした。当然、戻った後に弘世菫から「淡、照は見つかったか?」問いただされはしたが、大星淡は「大丈夫」と返した。

 

 

 

 

「はあ?大丈夫って、何が?」

 

 

 

 

「大丈夫だよ。テルーならもう、大丈夫だから」

 

 

 

 

「……?大丈夫ならいいが……」

 

 

 

 

 

 

 

 

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(……すごい場面に出くわしたなあ)

 

 

 

 

 そして大星淡が去ってからそのすぐ後に、宮永姉妹が抱き合っているシーンを小瀬川白望が偶然にも見つけてしまう。小瀬川白望も大星淡と同じように曲がり角で壁を背にし、彼女たちから見えないところで覗き見ていた。

 

 

 

 

(危なかった……気付かずに普通に通るところだった……)

 

 

 

 

 宮永家の事情は宮永照から聞かされ、解決の糸口を共に見出そうとしていた小瀬川白望にとっては、今の場面をとても他人事とは思えなかったが、小瀬川白望もまた、彼女らの空間に水を差すことはできなかった。あくまでも自分は第三者。姉妹の時間を奪うことは誰だろうと許されない。そう配慮した結果、声を掛けるという選択肢はなかった。

 熱りが冷めた頃合いを見計らって話しかけようかとも思ったが、宮永照はともかくとして宮永咲とは今闘っている最中だ。決してこの時間は停戦期間などではないとし、小瀬川白望は諦めて遠回りする事とした。

 

 

 

 

(……前に照がしていた事が、咲にもできるんだとしたらそれはダルい。でも、照ができて咲ができないという事は考え難い……今の後なら尚更)

 

 

 

 

 宮永照が過去に引き起こした、宮永咲の力や能力をリンクさせたあの現象。あれを妹でもある宮永咲ができるとしたらそれは脅威である。恐らく意図して発動することは無いだろうが、発動したとしたら厄介な部類に入る。そのまま宮永照と闘うようなものだ。細かな違いはあれど、ほぼそれに近い状態だろう。

 何にせよ、今の一件で宮永咲が一歩成長するというのは間違いは無いだろう。今の宮永咲には、宮永照がついている。頼れる人物が、大切な人物が側にいるだけで、人は力を得る。何の根拠もない精神論だが、確実にそういうことで生まれる力というものは存在する。それは、宮永照と闘って明らかになった。きっと精神的にも丈夫になって戻って来るはずだ。だが、小瀬川白望に恐れの文字はない。むしろ、逆。その真の力。宮永咲の、宮永姉妹の真の力を心待ちにしていた。

 

 

 

 

(……なら、引き出さないと…………宮永姉妹の絆、その力の全て……)

 

 

 

 

(あとは……霞のアレか)

 

 

 

 そして残される問題が、石戸霞が東四局に見せた鷲巣麻雀。小瀬川白望も赤木しげるから聞かされていたから、鷲巣巌の恐ろしさというものはよく知っている。東四局も、その話通りの豪運を見せつけられた。だが、彼を打破せずに、この二回戦を突破することはできないだろう。となれば、勝つしかない。まさかあの一局限りというわけでもないだろう。またどこかで必ず出てくるはずだ。

 

 

 

 

(次こそ……勝つ……私が赤木さんの無念を晴らし、その先へ進む……)


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