宮守の神域   作:銀一色

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第450話 二回戦大将戦 ⑲ 楽しむ

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視点:神の視点

前半戦終了時

清澄  81200

宮守 101900

姫松  92800

永水 124100

 

 

 

 

 

 運命のBブロック二回戦第一試合大将戦。その前半戦が終わり、現在トップを走るのは東四局で親の三倍満を和了り、それによって得た点差を守り抜いた永水。そして二位は親番で怒涛の和了を見せた宮守と、大将戦が始まる前は三位四位と敗退の危機に晒されていた二校が逆転し、逆に副将戦までは上位だった清澄と姫松が三位以下に転落という、大波乱の末前半戦は終了した。

 

 

 

 

(……あかん。せっかくトップで繋いでもろたのに、前半戦が終わってウチらは三位……ただでさえバケモノだらけのあの卓で、一度沈んだら早々這い上がれない……)

 

 

 

 

 前半戦だけで二万点近くの点棒を失い、一位から一気に三位まで順位を落としてしまった末原恭子は、後半戦までのインターバルの間、控え室に戻るわけでもなく、廊下で一人項垂れていた。歯が立たないという事は言うまでもなく分かりきっていた話だが、ここまで何もできないとなると、末原恭子の精神では耐えきることができなくなりつつあった。

 

 

 

「……なーに財布落としたようなツラしとんねん、恭子」

 

 

 

 

「洋榎……」

 

 

 

 

 そんな傷心気味の末原恭子の元に、愛宕洋榎がわざわざ控え室からやってきた。末原恭子は愛宕洋榎の名前を呼ぶと、それに応えるように「そうやで。この愛宕洋榎が恭子のためにやってきたんやで」と冗談っぽく言うと、末原恭子のすぐ隣まで来てこう言う。

 

 

 

 

「どうしたんや、恭子。……シロちゃんの最初の親番の時、あん時の恭子の顔、めっちゃよかったのに……特に南場から、一体どうしたんや」

 

 

 

「そ、それは……」

 

 

 

 末原恭子が口籠もりながらも言おうとするが、言おうとした直前で愛宕洋榎は末原恭子の口を右手で塞いで「言わんでもわかっとる。永水のアレやろ?」と言う。

 

 

 

 

「確かにアレは半端ないわ。シロちゃんも役満を抑えるので一苦労って感じやったし、恭子が何もできんかったのも仕方ない。ウチもあそこにいれば絶対恭子と同じ感じになっとるわ」

 

 

 

 

「せ、せやけど……仕方ないって言っても、三位になったんは事実やし……気にするなって方が難しいやろ」

 

 

 

 

「はあ?なに言っとるんや、恭子?」

 

 

 

 愛宕洋榎はきょとんとした表情で末原恭子そう言うと、末原恭子は「は、はあっ?」と言い返す。続けて「洋榎こそ、何言うとるんや?これはウチら姫松の準決勝進出がかかってる、大事な試合なんやで?それで気にするなって、どんだけ精神図太いねん……」と言うと、それを聞いた愛宕洋榎は思わず笑い出してしまった。

 

 

 

「なっ、何がおかしいんや!」

 

 

 

 

「い、いや〜。何を言い出すと思えば、そんな事考えて打ってたんか?恭子」

 

 

 

 

「そ、そんな事って!」

 

 

 

 末原恭子が声を荒げると、愛宕洋榎は末原恭子の口に指を添えて「なあ恭子……自分は何のために麻雀打ってるんや?」と問いかける。一瞬、彼女の問いの意味が分からず黙りこくるが、即座に「何のためにって……そりゃ、勝つためやろ」と返す。それに対して愛宕洋榎は「まあ、確かに勝ったら嬉しい……それは一理あるわ」と言うと、続けざまにこう言い放った。

 

 

 

 

「……恭子、面白いか?」

 

 

 

「はあ?」

 

 

 

「恭子、あれやろ。お前、『自分は大将だから〜』とか、『一位で渡されたから〜』とか……そういうのしか考えてへんから、楽しいと思って打てておらんのやろ」

 

 

 

「勿論勝つ事も大事や。そりゃあ負けるよりも、勝てた方が嬉しいし面白い。……せやけど、勝ちを拘りすぎて、麻雀が楽しめんくなったら麻雀やっとる意味がない」

 

 

 

 

「ウチもチームの事を思って打ってるは打ってるけど、最終的には自分。自分なんや。自分が楽しめるかどうかが問題なんやで。恭子は変に責任を負い過ぎとるんや。もっと、自分にわがままになったらええ。そこからウチらの事を考えや」

 

 

 

 そこまで言うと、愛宕洋榎は末原恭子の肩をポンと叩いて「……人生最後のインターハイ、打ってるウチらが楽しまないで、一体誰が楽しむんやっての」と言い、鼻歌を歌いながらその場を後にしようとする。言いたい放題言われた形となった末原恭子は愛宕洋榎の去り際に「……洋榎」と名前を呼んで引き止めると、こう口にした。

 

 

 

 

「……悪かったな。ガラにもない説教させて」

 

 

 

 

「……なんのことか知らんわ。はよう行きいや」

 

 

 

 

 愛宕洋榎は照れ隠しするように、そう言った後は振り返らずにダッシュで走って行った。そんな彼女を微笑ましく眺めるほどの余裕が生まれた末原恭子は、顔をパシッと両手で叩くと、(……行くか)と呟いて、対局室へと向かって行った。

 

 

 

 

 

 

 

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「……結局、あの訳のわからん奴は東四局だけのようだな」

 

 

 

 弘世菫はホッと一息つきながら、緊張に濡れた手をハンケチで拭いながらそう呟く。おそらく自分が試合に出ている時、もしくはそれ以上の緊張感の中で握り締めていた手は潤っていた。

 

 

 

 

「にしても、何だったんでしょうね。あれ……」

 

 

 

 

「さあ……幻覚ならその一言で片付くが、我々虎姫全員が見えているとなればそうも言ってられんだろう。となると、あの卓にいる誰かが引き起こした事だと思うが……」

 

 

 

 亦野誠子の問いに対して弘世菫はそう呟くと、チラリと隣にいるはずの宮永照に話を伺おうとした。だが、隣の席には宮永照の姿は無く、弘世菫は驚いて「……て、照は何処に行った!?」と思わず叫ぶ。

 

 

 

「テルーなら前半戦が終わってから直ぐにどっか行っちゃったよ?」

 

 

 

 

「何故それをすぐに言わない!?」

 

 

 

 

「いや……トイレかな?って……いつになくテルー焦ってたし……」

 

 

 

 大星淡が少し困惑したような表情を浮かべてそう呟くと、弘世菫の頭の中にはある可能性が思い浮かんだ。「……焦って……?まさか……!」と言うと、立ち上がって大星淡含む他の虎姫メンバーに向かって「照を探し出すぞ!」と言い、全員急いで宮永照の捜索へと向かって行った。

 

 

 

(あの馬鹿……何も今じゃなくても良いだろう!)

 

 

 

 

 

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(はあ……テルーがいなくなったからって、そんなに焦る事なのかなあ?確かにテルーは方向オンチだし、すぐにどっか行くけど……)

 

 

 

 

 大星淡が愚痴を漏らしながら虱潰しに会場内を歩き回る。無論、弘世菫がどうしてあんなに切羽詰まった状況になっていたのかも知る由もなく、ただ漠然と弘世菫の言われた通りに行動する他なかった。

 

 

 

(後半戦までに間に合えばいいけど……ミヤモリの大将もそうだし、色々気になる事沢山あるから見逃したく無いんだけど!)

 

 

 

 

 そんな事を呟いていると、視界の直線上に偶然にも宮永照らしき後ろ姿を見つけた。やはり、何か焦っているような表情を浮かべたまま、キョロキョロと首を振りながら、どこかへ走って行く。

 

 

 

 

(うーん……やっぱり只事じゃなさそう?)

 

 

 

 

 そう思いながら大星淡は悟られないようにそっと宮永照の後をつけていく。大星淡としては完全に刑事ドラマ気分であり、(アンパンでもあれば雰囲気出るんだけどな……)と言い出す始末であるが、当の宮永照は楽観的な大星淡とは対照に、深刻な表情を浮かべている。

 そして、ようやく宮永照の足が止まったのを確認すると、大星淡はそっと廊下の角のところから顔を出して覗き見る。すると止まった宮永照の向こう側には、驚きのためか声を失っている清澄の大将、宮永咲がいた。

 

 

 

(あれって……()()()()()!!名字が同じだからまさかと思ったけど……やっぱり姉妹だったんだ!)

 

 

 

 

(あれ?そうするとなんでテルーは妹なんていないって言ってたんだろう……?あんまり、仲が良くない感じ?でも、そしたらなんでテルーは会いに……わけわかんない!)

 

 

 

 大星淡が頭を悩ませているのをよそに、宮永照は自身の妹である宮永咲の事を目の前にして、色々な思いが頭の中を駆け巡る。この瞬間をずっと待ちわびていた。だが、どこかで避け続けていたのもまた事実。拍動する心臓とは裏腹に、息が止まりそうになりながらも、声を震わせながらその名を呼んだ。

 

 

 

 

「……咲」

 

 


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