宮守の神域   作:銀一色

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第440話 二回戦大将戦 ⑨ ベタ

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視点:神の視点

東三局 親:姫松 ドラ{2}

清澄  92500

宮守  98400

姫松 112200

永水  96900

 

 

 

 

 

(……信じられない。世界のプレイヤーでも見たことない、初めて見たタイプだ、あの子……一体、何者なんだろう……)

 

 

 

 永世七冠、国内無敗。人呼んで最強と称される事も少なくない小鍛治健夜は相方のアナウンサーである福与恒子と共にテーブルを囲みながら、試合が始まる前から何かと話題に上がっていた二回戦Bブロック第一回戦、その大将戦を見ていた。小鍛治健夜はコップに注いでおいた水を一口飲むと、テレビの向こう側にいる小瀬川白望の事を興味深そうに見ていた。それに気づいた福与恒子は冷やかすように冗談混じりにこう問いかける。

 

 

 

「ん、どしたのすこやん。そんなにガッツリ見て。好みの子でもいた?」

 

 

 

「違うよこーこちゃん……そんなわけないでしょ」

 

 

 

「まあそれもそうだよね……流石に二十歳差だしね」

 

 

 

「十歳差だよ!?」

 

 

 

 恐らく彼女達の実況解説や、ラジオを聴いたことのある者なら何度も聴いたことのあるだろうやりとりをオフの今も行うと、小鍛治健夜は即座に「まあそれはどうでもよくて……いや、良くないんだけど。あの子だよ、あの子」と言って小瀬川白望に向かって指を向ける。

 

 

 

「あー、小瀬川選手ね。噂の」

 

 

 

「知ってるの?こーこちゃん」

 

 

 

「知ってるも何も……世間には回ってないけど、結構有名人なんだよあの子。なんでも、県予選では記録を片っ端から塗り替えたらしくて、トッププロでも遜色無い……っていうかそれ以上に強いって聞くし」

 

 

 

 それを聞いた小鍛治健夜は「そうなんだ……なんか県予選で凄い記録を出した子がいるっては聞いてたけど、まさかここまでなんて……」と驚きの声を上げる。小鍛治健夜が心の底から驚いているという事実を受けて、福与恒子が事の重大さに気付いたのか、小鍛治健夜に「え……もしかしてすこやんでも勝て無さそう?」と聞く。

 

 

 

「……実際打ってみないと分からないけど、勝てるかと言われれば言えないかな……見たことが無いタイプだし、運が良かったから勝てたとか……運が悪かったから負けたとか、そう言う感じじゃないと思う」

 

 

 

「二十年間国内無敗のすこやんが、そこまで言うなんてねえ……これがオフレコじゃなかったら大騒ぎだよ」

 

 

 

「だから十年間だって……多分、打ち方自体はそんなに最近の物じゃないと思う。麻雀が普及するよりもっと前の時代の物……しかも、その精度は本当に高いよ。今と昔、両方の時代を合わせて比べても、片手で収まるくらい……」

 

 

 

「成る程……じゃあすこやん、嫁に貰われたら?」

 

 

 

 今までの真剣な会話、少し緊張感のあったムードを一変させるように、与恒子がそう呟くと、小鍛治健夜は口につけていた水を噴き出した。さっき年の差が如何の斯うの言っていた福与恒子が一転してそういう発言をすると、小鍛治健夜は少し噎せながら「こ、こーこちゃん……さっき自分で……」と言う。

 

 

 

「いや、だってさ。あの子、見た感じクールでカッコいいし……すこやんのストライクゾーンかなって」

 

 

 

「はあ……テレビで見ただけでとか、会って初日でとか……一目惚れみたいなそんなベタな展開、そうそうあるわけがないよ……」

 

 

 

 

 まさかそんなベタな話ある訳がなかろうと思って呟く小鍛治健夜だが、彼女は知らない。既にこのインターハイの出場者の中に、その『ベタな展開』で落とされている者が何人もいるということを。そして小瀬川白望が囲んでいる卓にもいるということを、知る由もなかった。

 

 

 

 

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『……なんとか凌いだ、生き残ったという感じじゃな』

 

 

 

 そしてようやく小瀬川白望の親を蹴ることに成功した石戸霞に、鷲巣巌が語りかける。先程から殺気を放っていた石戸霞も(ええ……ようやく、ね)と、ここで安堵したい気持ちも山々だというのに、その感情を強引に抑えてそう返す。鷲巣巌はそれを聞いて『カカカ……!』と高笑いすると、こう続けた。

 

 

 

『貴様もだんだんと分かりつつあるようじゃな……アカギに対しての心構えの基本……!』

 

 

 

(……骨身に沁みるわよ、全く)

 

 

 

『そうじゃ……!油断、安堵、驕り……ありとあらゆる感情を殺せ……!奴は人間の「当然」を操ってくる……ならばこちらも常軌を逸しなければ……ッ!必要とされしものは狂気、殺気、そして豪運……これで十分……ッ!他は足枷……ッ!感情など、枷でしかないわ……ッ!』

 

 

 

(……そう言ってるあなたが一番感情的じゃない)

 

 

 

 石戸霞が鷲巣巌に向かってツッコミを入れると、鷲巣巌は『黙れ……ッ!確かにわしはそのせいで何度も奴に足をすくわれた……正に足枷……ッ!が、その足枷を物ともせず、無力にできるほどの豪運、これがわしにある……ッ!故に、貴様のような凡人が闘うにはそうでなくてはならんという話……同列に扱うな、馬鹿者……ッ!』と若干理不尽な事を石戸霞に言うが、確かに彼の豪運に匹敵する者はいないだろう。理屈どうこうよりも説得力のある実力がある。鷲巣巌の言うことは正論だ。

 

 

 

(分かってるわよ……そうでもしなきゃ、同じ土俵すら踏めないって事くらい)

 

 

 

『分かっとるなら最初からやれ……ッ!奴の連荘を見て悪い気分になるのは貴様だけじゃ無いんだ……今でも思い出す……ッ!』

 

 

 


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