宮守の神域   作:銀一色

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第439話 二回戦大将戦 ⑧ 変化

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視点:神の視点

東二局四本場 親:宮守 ドラ{東}

清澄  93600

宮守 100100

姫松 114300

永水  92000

 

 

 

 

姫松:十巡目

{三四六八①①⑥⑦⑧678東}

ツモ{七}

 

 

 

 

(……よし、ええ感じに入った……っ!)

 

 

 

 これで五回目となる小瀬川白望の親、東二局四本場では、石戸霞の殺気が新たに場に加わる事で、場の空気が一層緊張感を増し、ピリピリと張り詰め、今までとはまた一段と違った雰囲気が蔓延っていた。そんな中で、末原恭子は思いがけずに十巡目、三色同順を確定させると同時に聴牌に至る。本来ならば宮永咲に槓をさせて和了らせる算段だったのだが、貼ってしまったものは仕方ない。小瀬川白望が張っているのかどうかは判断できない、というより捨て牌だけで判断は危険だと感じているが故に分からなかったが、ともかく和了れるチャンスがあるものなら是が非でもモノにしたいものだ。ただでさえ宮守との点差が縮まっている今、ここで和了れるのはかなり大きい。それは確かなのだが、末原恭子は此の期に及んで決断を下す事ができずにいた。

 

 

 

(聴牌を取れるもんなら取りたいのは山々なんやけど……死ぬほど邪魔やな……これ……)

 

 

 

 末原恭子の頭を悩ませる抗原、それはドラの{東}であった。このドラの{東}さえ切れば聴牌に至れるのだが、肝心要この{東}が末原恭子にとってはとてもではないが切り難い、切れるものではなかった。もしもこの{東}が二枚……いや、一枚でも場に置いてあったらここまで悩む事はなかっただろう。しかし、今末原恭子から見た視点では、この{東}は生牌なのだ。小瀬川白望にとってダブ東であり、尚且つドラであるこの{東}。明確な理由や、判断基準などあったものではないが、あらぬ予感、起こるはずがないだろうという妄想、しかしそれらは末原恭子を苦しませるには十分すぎた。

 

 

 

 

(……仕方あらへん。ここで万が一振り込んだら、ほぼ確実に逆転される……)

 

 

 

 結局、末原恭子は{東切り二五}待ちを諦め、先に対子になっている{①}を切った。これならば危険な{東}を一先ず切らずに済むし、{二五}が来れば単騎待ちにする事も、先に対子にして先ほど諦めた両面待ちに戻る事もできる。既に三色同順が確定しているため、{東}が対子であろうが{①}が対子であろうがそんなに大差はない。むしろ、ドラを抱えると同時に危険因子を摘むことができる{東}の方が願わしいか。

 そんな現状を打破せんという意志と期待を込めて切った{①}であったが、ここで永水の石戸霞が「チー」と鳴きにでる。それを見た末原恭子は少し顔を顰める。石戸霞はこの局に入ってから急に雰囲気を変えた張本人とも言える人物。そんな石戸霞がここで仕掛けてくるという事は、何かしら彼女に企てがあるに違いない。末原恭子の第六感がそう告げいた。もはや当初計画していた『宮永咲に槓をさせて小瀬川白望よりも早く和了らせる』作戦は原型を留めてはおらず、各々が各自に和了を目指す形となってしまったが、末原恭子はそれを仕方ないと事とした。どれだけ結託を深めようとも、最終的には敵対をしなければならない。それはこの場に小瀬川白望がいようともいまいとも同じ事である。

 

 

 

(……むしろ、三体一の方が白望にとってはやり易いのかもな。全員が全員同じ事を考えとるから)

 

 

 

 そう言い、末原恭子は宮永咲の様子を伺う。急に結託を無かった事にしてしまったため些か酷なことをしたかと少しばかり自身の罪悪感に傷つけられていた末原恭子であったが、宮永咲を見る限りどうやら末原恭子が考えていることは感じ取っていたらしく、末原恭子の心配とは裏腹に結構大丈夫そうであった。

 

 

 

(ま、情はこれまでや。……取り敢えず、ウチはウチのやり方で白望の親を蹴らせてもらうわ。……一応、一位で渡されたバトンやしな。このまま易々と抜かれるわけには行かへんのや……!)

 

 

 

 末原が心の中でそう吼えると、次巡、まるで運命が末原恭子を後押ししているかのように危険かつ好機の二面性を持つ悪魔の牌、{東}を引き当てることに成功した。これで、三色同順ドラ2が確定し、{二五}待ちで聴牌となった。

 

 

 

「リーチや!」

 

 

 

姫松

打{横①}

 

 

 

 そして迷わずにリーチをかけた。一巡一巡の遅れが命取りとなってくるこの瀬戸際の勝負、決断はできるだけ先の方がいい。カードを残しておくと逆に不利になる、いや、そう誘導されるのが関の山だ。そういったことを容易にやってのけるのだ。小瀬川白望という化け物は。

 

 

 

 

(恭子、成る程……)

 

 

 

 そんな末原恭子のリーチを受けて、小瀬川白望は彼女がこのリーチに至った経緯、裏側の事情を全て把握する。三体一でなくなりはしたが、彼女のやることは基本的に変わらない。あくまでも、本気で捻り潰すのみである。

 

 

 

(……だけど、それ以上に……流れが来ている……霞に……)

 

 

 

 しかし、それ以上に今流れが好調なのは末原恭子ではなく石戸霞であった。彼女が明確に殺意を抱いたこの局から、徐々にではあるが、流れが傾いている事に小瀬川白望は気付いていた。流れは必ずしも、強者に傾くということではない。何かしら変化を起こした者、現状を変えた者を強く後押しする傾向がある。石戸霞の殺意は、あくまでも鷲巣巌が強引に引き出した、言ってしまえば仮初めのものでしかすぎず、自発的なものではない。が、確実に場の雰囲気、空気を変えた事には変わりないのだ。

 故に吹いた。石戸霞を助ける強風、追い風が吹き上げた。小瀬川白望の親という不動の状態を突破するべく、更なる変化を求めて風が吹いた。小瀬川白望ばらばこの不利な状況でも駆け引きによって相手を下ろす事も可能であろう。実際、何度もそれによって乗り越えてきた場面もあった。が、今の石戸霞は本気だ。本気で殺しにきている。その執着は本物であろう。

 そして尚且つ、彼女のバックには鷲巣巌がいる。小瀬川白望も気付いてはいないが、彼女が今駆け引きをしているのは、表面上は石戸霞に見えるが、実質的には鷲巣巌との駆け引きとも言える。鷲巣巌は過去にアカギにそういった妨害、駆け引きによって何度も煮え湯を飲まされてきた。故に分かっている。小瀬川白望に、赤木しげるに乗らされてはいけない。今好調なのは己であるという事。その確信を持っている。その確信さえ揺らいでいれば十分駆け引きに持ち込めるが、鷲巣巌は流れが変わるだろう、そう確信して石戸霞に変化を促した。鷲巣巌ともあろう者が、あの時のように何回も何回も裏目を引かされ、極度のプレッシャーと裏目による嫌な記憶を媒介とした幻惑を仕掛けられているわけでもないこの状況で見誤るはずがない。

 そして、石戸霞が山から牌をツモってきたかと思えば、とうとうゆっくりと手牌を倒した。長きに、五局に渡る小瀬川白望の親。一度一度の和了はそこまでもなかったが、気がつけばいつのまにか二位に浮上するという大躍進。そんな辛い時間に終止符を打ったのだ。

 

 

 

「……ツモ」

 

 

 

 石戸霞がそう宣言すると、石戸霞はゆっくりと深く息を吐いた。ようやく終わった。そういった安堵の表情を浮かべるが、それも一瞬。石戸霞は……いや、その裏にいる鷲巣巌は知っているからだ。親を蹴ったところで、脅威は変わらない。むしろ、蹴った後が本番。今度は突き崩さねばならないのだ。小瀬川白望を。

 そして一方の小瀬川白望は、親を蹴られたのにも関わらず、平然とした表情で石戸霞の方を見る。どういうわけかは小瀬川白望には分からないが、何故か石戸霞は今恐れていない。下手な駆け引きは通用しない。ならば、こちらも其れ相応の策で応戦するだけだ。

 

 

 

(……恐れがない。確信している。己が優位……この局における好調。……故に恐れない。なるほど……面白い)

 

 

 

 

 

 

 


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