宮守の神域   作:銀一色

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第437話 二回戦大将戦 ⑥ 別次元

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視点:神の視点

東二局三本場 親:宮守 ドラ{⑨}

清澄  94400

宮守  97700

姫松 115100

永水  92800

 

 

 

 

(……槓で嶺上牌をツモらせるとは言っても、席順的にその恩恵は少ないわね)

 

 

 

 永水の大将である石戸霞は、前局、末原恭子が清澄を利用して……いや、どちらかというと協力してやろうとしていた意図を汲み取りながら、その作戦の効果を頭の中で勘定をする。確かに石戸霞の言う通り、末原恭子が宮永咲に大明槓をさせても小瀬川白望のツモ番が飛ぶという事はなく、結局は変わらないのだが、一つだけ例外がある。それは、大明槓後の暗槓、加槓などによる連続ツモ。これならば小瀬川白望よりも一回多くツモをする事ができる。多ければ最高三回もツモができる。たった一〜三回と侮るなかれ。小瀬川白望を相手にしての一回多くのツモというだけで、それだけで値千金と言っても差し支えない

 しかし、これを先ほど末原恭子と宮永咲がやろうとしていたのにも関わらず、結局最後のところで小瀬川白望に潰されてしまったのだ。という事はつまり、端的に言ってしまえば筒抜け、看破されていたという事だ。

 かと言って、今のところこの方法しか作戦らしい作戦は存在しない。宮永咲と小瀬川白望の席関係が良ければ槓だけで小瀬川白望のツモ番を飛ばせるのだが、今の席順ではそれは不可能。ならばどうするか、そう、宮永咲の切った牌を鳴いてどうにかしてでも小瀬川白望にツモ番を渡さない事。それしかない。

 

 

 

(ツモれなければいくらシロでもどうにもできない……その前に張られてたらどうしようもないけど、張る前に実行できるのを祈るしかないわね……)

 

 

 

 

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(流石、と言ったところか……あの中では敵無しか……少なくとも、今のところは)

 

 

 

 大沼秋一郎は小瀬川白望の映っているモニターを見ながら煙草を一本取り出すと、それに火を着けようとしたが、後ろから「あれっ、大沼プロ……珍しいねぃ……そんなところでじっと見て……誰か可愛い子でもいたかぃ……?この私を差し置いて……」という声が聞こえ、ライターにかかっていた手を止めた。大沼秋一郎が振り返って、呆れた風に「……一応これでも結構歳食ってんだ。今更そんなもんに興味なんてねえし、お前にも興味はねえ。……ていうか、年上相手に使う最低限の敬語くらい覚えてこい」と三尋木咏に向かって言う。

 

 

 

「いや〜、これ、直そうと思って直るもんでも無いからねぃ……なんつーか、身体に身に染みてるっていうか?知らんけど」

 

 

 

「……お前、プロになれてよかったな。一般企業じゃ、まずクビを切られて終わりだ」

 

 

 

 大沼秋一郎が自身のクビを切るジェスチャーを三尋木咏に向かってするが、「おお、貫禄があるねぃ……」と返すあたり、三尋木咏は大沼秋一郎に言われた事を改善する気は無いようだ。生意気なやつだ、よく相方のアナウンサーは愛想を尽かさんな、と大沼秋一郎は彼女の相方である針生えりの事を少し感心していると、三尋木咏のちゃらんぽらんとした態度が一変し、急に真剣な声色で「……あの宮守の子かい?」と耳打ちする。

 

 

 

 

「……知ってるのか?あの小瀬川白望ってやつを」

 

 

 

「いやいや!ただ、あんたが気になってる奴がいるってのを耳にしてねぃ……ただ、あのあんたが気になるってんだ。どんな奴だろうと思ってチラッと見たら、なんとびっくり、馬鹿みたいに強いじゃねーの……!」

 

 

 

 三尋木咏は少しほど震える声でそう言う。彼女自身、今まで数多くの強敵と闘ってきており、また自分もそれに連れて強者の位置にいるという自負もトッププロとしてあった。しかし、そんな彼女でさえも思わず震えてしまうほどの圧倒的な強さには直面した事はなかったのだろう。初めて遭遇したのだ。小瀬川白望という圧倒的強者に。

 三尋木咏はいつもふざけた態度を取っているという印象が強かった大沼秋一郎は、そう呟く彼女を見て、まあそれもそうだろうと、ある意味納得していた節もあった。当然のことだ。いくらトッププロとはいえ、小瀬川白望が打っている麻雀は上手い下手の問題では無い。異次元なのだ。考え方そのものが別空間。そんな異常に相対すれば、当然恐怖を覚えるだろう。

 

 

 

「……そうだな。確かに、アレはバケモンだ」

 

 

 

「アレを初めて見たときは本当に参っちまったよ……わっかんねー。本当にわっかんねーってね。私史上、一番わっかんなかったかもねぃ……」

 

 

 

「……同じく、全く分かんなかったさ。ありゃ理解する方が難しいってもんだ。多分、根本的な考え方が違う」

 

 

 

 大沼秋一郎が三尋木咏に向かって言うと、三尋木咏はモニターの方をチラリと見て、「……あの子、卒業後はどうするんだろうねぃ……もう三年なんだろ?プロ入りとかになったら、本当に大変なことになるねぃ……勘弁してほしいよ」と自分の思いを交えながら吐露する。

 

 

 

「……どうだろうな。俺ら凡人には、分からねえ領域だ」

 

 

 

「うっは〜!言うねぃ……大沼プロ。あんたで凡人じゃ、一体どれだけの人が凡人扱いなんだか……」

 

 

 

「……仕方ねえだろ。俺だって自分に酔っていたいさ。……だが、どうしても認めざるを得ないんだ……上には上がいるって事をさ。これで二度目だ、畜生が……」

 

 

 

 大沼秋一郎がそう呟くと、モニターからはまたしても小瀬川白望が『ツモ』と発した声が聞こえてきた。これで親番が小瀬川白望に回ってから四連続目。またしても点数はそんなに高くは無いが、徐々に徐々に姫松との点差を縮めていた。

 

 

 

「うわぁ……エッグい事してるねぇ……」

 

 

 

「……もはや、あいつを止める勝負みたいになってきたな」

 

 

 

「そりゃあ、他の子からしたらそうなるだろうねぃ……まあ、私はそろそろ戻るけど、大沼プロは?」

 

 

 

「……どうせやる事もねえんだ。ここで黙って見てるよ。さ、散った散った」

 

 

 

「ふふ、手厳しいねぃ……」




なかなか展開が進みませんね……

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