宮守の神域   作:銀一色

447 / 473
第435話 二回戦大将戦 ④ 複雑

-------------------------------

視点:神の視点

東二局 親:宮守 ドラ{①}

清澄 104000

宮守  82700

姫松 117800

永水  95500

 

 

 

 

(……咲)

 

 

 

 強豪と呼ばれる高校の猛者どもと時を同じくして大将戦を見ていた、既に準決勝進出を一足先に決めていた白糸台のメンバーは張り詰めた空気の中、静かに勝負の行方を見守っていたが、チーム虎姫の大エース宮永照だけは、少しばかり心中は穏やかではなく、心配かつ複雑そうな表情で見ていた。

 

 

 

(照……まあ、仕方ない……か。こればっかりは……)

 

 

 

 隣で見ていた弘世菫は、感情的か感情的でないかは別として、あまり感情は表に出さないクールな宮永照が、重苦しそうな表情を浮かべるのを見て思わず名前を口に出し、声をかけてしまいそうになるが、ここはぐっと堪えて心の中に内包する。彼女からしてみればこれほど居た堪れない事はないだろう。自分の最大の敵であり想い人でもある小瀬川白望と、自分の妹であり半ば絶縁状態とも言える宮永咲が、宮永照の目の前で卓を囲んでいるのだ。上手く言葉では言い表せないが、少なくとも快い光景ではないのは確かだろう。

 そんな事を思いながら、宮永照の心情を汲み取って何も喋らないでいた弘世菫は、取り敢えず宮永照をそっとしておこうと視線をモニターへと戻す。前局の東一局では小瀬川白望が手牌がバラバラなのに三度鳴いた挙句、姫松に振り込むという相変わらず訳の分からない事をやっていたが、ともかく東二局は小瀬川白望の親。前局の支払いでトップとの点差が三万五千点ほど。そろそろ仕掛けてきてもおかしくないところである。

 

 

 

(姫松の末原とは何度か打ったのを見かけたが……なんというか、いかにも努力家というような麻雀だったな。それに比べ……なんなんだ。永水の大将は……気味が悪いな)

 

 

 

 弘世菫は永水の大将、石戸霞の事を見ながら露骨に不快な表情を浮かべる。彼女が『絶一門』を使っていない事が、その大きな原因であった。余程のことで無い限り、石戸霞は出し惜しみをせずに使ってくるものだと思っていた弘世菫にとってみれば不可解だった。もっとも、石戸霞は出し惜しみをしているわけではなく、『絶一門』よりも条件が厳しい鷲巣巌の力を使っているからであったのだが。

 兎にも角にも、弘世菫視点から見ればまた他の何かを隠しているのは明らかだった。少なくとも、『絶一門』よりも強い何かを。

 

 

 

『ロン、3900』

 

 

 

 弘世菫が不快感を表している一方で、小瀬川白望は軽やかに和了を決めていた。挨拶がわりの一撃を、清澄の宮永咲から出和了る。この間僅か五巡。いくらあの天才宮永照の妹である宮永咲だとしても、異常なまでのこの速度には対応しきれていなかった。

 それを見ながら弘世菫は(……始まった、か?)とボソリと呟く。言うまでもなく、小瀬川白望と打つときに一番留意せねばいけない時間は彼女が親番の時である。これは誰に対しても言える話かもしれないが、小瀬川白望の場合は特にである。心してかからなければ、その親番で勝負が決まってしまうこともある程に、彼女の親というものは危険なのだ。弘世菫が彼女と打った時は『連続和了』を発動していた宮永照のお陰で早々に親を流す事に成功していたが、あれが無ければあの後果たしてどうなっていただろうと思うと、少しばかり寒気が走る。

 

 

 

(可能性があるとすれば、姫松の末原か……?速さに特化……とまでは行かずとも、得意分野な筈だが……)

 

 

 

 誰が小瀬川白望を止める勇者となるか。見入っている弘世菫がそういった予想を立てているのに対して、渋谷尭深は弘世菫とは別の意味で見入っていた。彼女からして見れば、初めて小瀬川白望が麻雀を打っているところを見ることができたのである。牌譜からも、弘世菫や宮永照などといった、小瀬川白望と打った事のある者達からもその凄さ、恐ろしさといったものは承知していたが、実際こうして見た渋谷尭深は、小瀬川白望の麻雀に対して感動していた。神々しい、とでも言うのだろうか。小瀬川白望に対しての好意もあってか、彼女が光り輝いて見えた。

 

 

 

(……ああ、なんて美しいのか……)

 

 

 

 渋谷尭深が詠歎の声を心の中で上げていると、大星淡はそれを見て若干ビックリしていた。そして渋谷尭深に声をかけようとしたが、それを隣にいた亦野誠子がすんでのところで阻止する。大星淡が亦野誠子に小さな声で(……亦野センパイ!何するのさ!)と言うと、亦野誠子は少し額に汗をかきながらこう言った。

 

 

 

(あまり『あの状態』の尭深を刺激しないでくれ……本当に怖いんだから!)

 

 

 

(……『あの状態』?どういうこと?)

 

 

 

(お前は知らないだろうが……去年、よく白望さんが原因で宮永先輩と渋谷尭深の仲が拗れてたんだよ……宮永先輩もそうだけど、宮守の大将が関係している時の二人には触れちゃダメだ……恐ろしく怖いから……!これが白糸台の鉄則……!)

 

 

 

 小声で大星淡に言い聞かせていた亦野誠子だったが、渋谷尭深に話し声が聞こえていたのか、視線を変えないまま亦野誠子に向かって「……何か言った?誠子ちゃん、淡ちゃん」と、凍てつくような声のトーンで質問した。亦野誠子も思わず、背筋をピンと張ってカタカタと震える。隣にいた大星淡も豹変した彼女を見て、気がつけばそれにつられるようにして亦野誠子に抱きついていた。

 すると、上手いタイミングで『ツモ、2700オール』と、小瀬川白望がツモの宣言をして和了った。渋谷尭深の意識がそちらの方に流れたのを見てから、二人は安堵の溜息をつく。

 

 

 

(……これで分かっただろ)

 

 

 

(うん……さっきのタカミー、本当に怖かった……)

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。