宮守の神域   作:銀一色

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第433話 二回戦大将戦 ② 槓

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視点:神の視点

東一局 親:清澄 ドラ{8⑦}

清澄 104000

宮守  86600

姫松 113900

永水  95500

 

 

 

永水:七巡目

{六八③④⑦⑧1366789}

 

 

宮守:七巡目

{裏裏裏裏裏裏裏裏裏裏} {横四四四四}

 

 

 

 東一局、七巡目に小瀬川白望がまず挨拶代わりといった風に宮永咲の切った{四}を大明槓し、さっそく仕掛けていく。槓を宣言された瞬間は自分の十八番である嶺上開花。それをしかも責任払いで決められるかもしれないと思っていた宮永咲であったが、小瀬川白望は和了には至らない事を確認して露骨に安堵した。

 が、しかし。嶺上開花の責任払いという最悪の事態を避けられたとしても、今度はその手牌に疑念が残る。宮永咲は嶺上を司る能力を持っている故に、彼女には嶺上牌がくっきりと見えている。つまり、今小瀬川白望が嶺上牌でツモった牌も分かるのだ。小瀬川白望が先ほどツモったのは{三}。だが、その事実はかえって宮永咲を非常に悩ませた。{三}が、それの隣の牌である{四}を明槓しても尚入ったのだ。どういった手の形かは分からないが、恐らく{一二}の搭子があったか、もしくは{三}がもう一、二枚あるのは確定だ。しかし、そうなると宮永咲視点から見る限りではあの状況でわざわざ{四}を大明槓するという事に必要性は無かったように見える。

 という事は、小瀬川白望の狙いは最初からツモ和了や手を進めようというわけでは無い。それは恐らく間違ってはいない。だが、その後が分からない。新ドラを増やしたかったのか、それとも別の狙いがあるのか。

 

 

 

(宮守の人がツモったのは{三}のはず。でもそれが手牌に入るって……どういう手牌の状態でカンしたんだろう……)

 

 

 

 考えてもキリがないという事は十分承知しているのだが、小瀬川白望という化け物を相手に、不確定要素を残したまま立ち向かおうとして良いのだろうか。小瀬川白望と闘った事のない宮永咲であったが、彼女の本能がそう叫ぶのであった。

 そういった葛藤……己の恐怖心との闘いに苦労させられていた宮永咲であったが、次のツモで{2}が四枚重なると、宮永咲の眼の色が変わった。確かに気掛かりな点は存在する。が、それで足踏みをしているようではいつまでも和了には向かえない。宮永咲は迷いを振り切らんと四枚重なった{2}を晒し、攻めに転じようとする。

 

 

 

「カン!」

 

 

清澄:八巡目

{赤五六②③⑧⑧⑧79西} {裏22裏}

 

 

 

新ドラ表示牌

{3}

 

 

 

 

(まだ聴牌できてないけど……これで一向聴……!)

 

 

 

 宮永咲が心の中で呟きながら静かに嶺上牌をツモると、その牌は{8}。ちょうど{79}の嵌張のど真ん中を引き当て、一向聴とする。小瀬川白望が今聴牌しているのかは謎だが、まだ十分間に合うはずだ。そう宮永咲は思っていたのだが、その次巡、九巡目に宮永咲に揺さぶりをかけるかのように小瀬川白望がまたも動く。

 

 

 

「チー」

 

 

 

宮守:十巡目

{裏裏裏裏裏裏裏裏} {横八七九} {横四四四四}

打{西}

 

 

(萬子の七八九……もしかして清一色なの……かな……?だとしたらさっきの{三}も分かるけど……)

 

 

 

 小瀬川白望の鳴きを見て思考を走らせる宮永咲。確かに清一色を目指しているのならば例え{四}を槓して四枚見えた状況でも、繋がりにくい{三}を優先的に保持するのは当然のことだ。そういう風にどうにかして先ほどの行為と結びつけようとするが、それも無駄となってしまう。その同巡、小瀬川白望はまたしても宮永咲の予想を裏切るように鳴きを入れたのだ。

 

 

 

「ポン」

 

 

 

宮守:十一巡目

{裏裏裏裏裏} {44横4} {横八七九} {横四四四四}

打{5}

 

 

 

({4}……って事はもしかして……)

 

 

 

 そう、{4}鳴きから分かるように、小瀬川白望は清一色を目指しているわけでもなかった。が、同時にようやく明かされる事となった。

 

 

 

(三色同刻……!?)

 

 

 

 彼女の目指す道、三色同刻。それだけならまだ良い。しかし、宮永咲は思わぬ形で敵に塩を送ってしまっていたのだ。今小瀬川白望が鳴いた{4}。それはよもや宮永咲の暗槓によって増えた新ドラだったのだ。つまり、仮に三色同刻だと仮定すればこの時点で既に五飜。満貫が確定する。

 

 

 

(ドラ3……まさか私のカンを見越してわざわざ三色同刻に……?)

 

 

 

 一体、どこからどこまで自分の行動を見切られていたのかと驚愕する宮永咲であったが、次巡のツモでその驚愕は絶望へと変わる。宮永咲はツモってきた牌を、手を震わせながら手牌に置くと、ゆっくりと小瀬川白望の手牌を見た。

 

 

 

清澄:十二巡目

{赤五六②③⑧⑧⑧789} {裏22裏}

ツモ{三}

 

 

 

({三}って……もうこれしか……)

 

 

 

 宮永咲がツモってきたのは{三}。数巡前に、宮永咲を苦しませ、悩ませた元凶とも言える{三}。そんな悪魔ともいえる牌を宮永咲は必死に寄せ付けないように距離を取っていた。が、それがここに来て宮永咲を本格的に追い詰める。小瀬川白望が嶺上牌から{三}をツモってきてから、彼女はそれを捨ててはいない。つまり、まだ小瀬川白望の手中にあるのだ。一枚は確実に。そして彼女が張っているとしたら、彼女の手牌予想図はこの一つしかない。

 

 

 

宮守:手牌予想図

{三④④④} {44横4} {横八七九} {横四四四四}

 

 

 言うまでもなく、彼女の待ち、和了牌は{三}。これしか存在しないのだ。故に、この牌。絶対に切れるものではない。彼女が張っているという根拠は無い。が、手を崩す事になろうとも、その結果親を流される事になろうとも、絶対に切ってはならないのだ。切れば当たる。宮永咲は手の震えを抑えようと、ギュッと右手を握りしめる。

 

 

 

(これは切れない……絶対に和了られる……)

 

 

 

清澄

打{③}

 

 

 

 そうして結局、{③}を切って手を崩すまではいかなくとも、受けを一つ減らす事となった宮永咲であったが、小瀬川白望はその様子を見て(……なるほど)と呟く。そうして笑みを浮かべながらチラリと自身の手牌に目を向ける。

 

 

 

宮守:十二巡目

{三九①北} {44横4} {横八七九} {横四四四四}

 

 

 

 

 そう、バラバラ……!小瀬川白望の手は三副露しても尚バラバラのままだったのだ。というより、元より彼女はこの局、和了るつもりはなかった。宮永咲が暗槓をするのも、それで生まれる新ドラが自分の手のどれかには乗るであろうという事も感じていた小瀬川白望であったが、ここは敢えて和了には向かわなかった。宮永咲という雀士の、牌譜だけでは見えてこない深層心理、限界に追い込まれた時の、状況に応じた心の揺れを、改めて見定めるために。

 

 

 

(これで『支点』が分かった。後は、その天秤を傾けるだけ……)


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