宮守の神域   作:銀一色

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第431話 二回戦B編 ㊵ 因縁

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視点:神の視点

宮守  86600

姫松 113900

永水  95500

清澄 104000

 

 

 

 

 

 

 

(一番乗りか……?いや、もう誰かおったか……)

 

 

 

 末原恭子は大将戦が始まる前から緊張、プレッシャーに心を縛られ、少しおっかなびっくりな状態になりながらも、ゆっくりと対局室のドアを開けて中に入る。どうやら先に来ていた清澄の大将、宮永咲も緊張のせいか、少し体を震わせているようで、それを見ていた末原恭子は若干シンパシーを感じる。

 先鋒次鋒と他校の猛攻をなんとか凌ぎ、中堅のエース愛宕洋榎が逆転して首位に躍り出て、副将では実力というよりも時の運、理論では語る事のできない勝負の綾に絡救われていたものの、首位を守り切って任されたこの大将戦、末原恭子にとっては荷が重いどころの騒ぎではない。いくら最大の脅威宮守が最下位とはいえ、点差は三万点もない。相手が小瀬川白望であるということを考えると、心許なさは果てしないだろう。そう考えているうちに、今、末原恭子は小瀬川白望を始めて想い人ではなく、最大最強の敵として認識していたという事に気付く。しかし、やはりそれも仕方のない事だろう。相手も知り合いという情を持って来るほど甘くはない。故に、自分もまた、小瀬川白望を倒すべき相手として認識しなくては、勝負の土台にすら立てない。

 

 

 

(……というか、白望のことやしウチ以外にも大将で知り合いがいるんかな。……分かってはいるけど、なんか複雑やわ……)

 

 

 

 

 そうして小瀬川白望と永水の大将の石戸霞を待っている最中、末原恭子は全国各地を飛び回ってはその度に新たな人を誑し込む小瀬川白望に対して呆れた感じでを文句のようなものを呟く。……いや、本人には誑し込むだのといった、そのつもりが無いのは分かっているし、かくいう自分もそれによって心を落とされた者の一人なのだが、それでもやはり納得できるものではなく、モヤモヤとしているのだ。だが、それを今ここで小瀬川白望に向かって言っても何も変わらないだろう。

 結局、この事については諦める形となった末原恭子は気持ちの切り替えとして息を深く吐く。言いたい事は全て言えた、と少し満足しながら『敵』である小瀬川白望を待つ。すると、どっしりと構えた矢先に対局室の扉が開いた。末原恭子は一瞬、小瀬川白望が来たかと思って身構えそうになるが、ちらりと見えた巫女服を見て違うと確信する。だが、今度はその者に対して末原恭子は身構えた。

 

 

 

(あれが訳の分からん巫女集団の大将……石戸……!)

 

 

 

「あら、まだシロは来ていないのね?」

 

 

 

 石戸霞が呟いた名前にピクリと反応した末原恭子が、「……なんや、知っとるんか」と少し声を強張らせて石戸霞に問いかける。すると石戸霞は「……知っているも何も、ねえ?」と、若干挑発するように末原恭子に返す。

 

 

 

「成る程な。あんたも『因縁』持ちってことか」

 

 

 

「まあそうなるけど……『因縁』と言ったら、私よりも根深い人がいるわよ?」

 

 

 

 末原恭子が濁すように表現した『因縁』という言葉を、石戸霞が鷲巣巌が抱いている『因縁』そのままの意味で返すが、末原恭子には伝わってはいないようで、(……なんや。洋榎みたいな立ち位置なんか……?)と頭の中で考えていた。

 

 

 

 

「……と思ったら、噂をすればなんとやらね」

 

 

 

(ッ……白望……!)

 

 

 

 何かを察したような石戸霞の言葉に合わせて、末原恭子は石戸霞の奥の方に位置する対局室の扉を見つめる。その直後、対局室の扉が静かに開いた。そこには、やはり予想通り小瀬川白望が立っていた。末原恭子は彼女の静かな、それでいて迫力のある登場に息を呑んでいた。

 

 

 

「……あ、あっ……!?」

 

 

 

 すると、小瀬川白望の姿を認識した清澄の大将、宮永咲がまるで死神でも見たかのような絶望の声を漏らした。開会式の直前にすれ違ったあの時の恐怖が、未だに脳裏から離れられなくて苦難していた宮永咲を、追い詰めるかのようなこの仕打ちに足を震わせる。できることならば、二度と開いたくないと願った相手が、よもやこんな場所で、こんな状況で再開するという事実を受け入れられず、恐怖に打ちひしがれていた。末原恭子はそんな尋常ならざる怯え方に(……清澄も清澄で、一体何があったんや……?)と疑問に思っていたが、今目の前にいる小瀬川白望を見れば、少しばかりその気持ちも理解できた。明らかに今まで見てきた小瀬川白望の表情、雰囲気とは違かった。そのギャップに心構えをしていた末原恭子でさえも戸惑う様子であったが、石戸霞は動揺する様子もなく、小瀬川白望に向かって声をかける。

 

 

 

「久しぶりね、シロ」

 

 

 

「霞……久しぶり」

 

 

 

 素っ気なく答える小瀬川白望を見て、鷲巣巌が石戸霞の脳内に向かって《来たな……ガキ……いや、『アカギ』……!この瞬間を、何度……何度待ちわびたか……ッ!この生涯が果てて尚……懇願、願い続づけた……!そして実った……!直接でないにしろ、実った……!さあ来い……来い……ッ!》と歓喜の声を上げる。石戸霞は(まだ対局も始まってないのに、そんなに張り切って大丈夫?)と鷲巣巌に返すと、鷲巣巌は《ハッ!》と吐き捨ててこう続けた。

 

 

 

《張り切る……?馬鹿言え……ッ!当然じゃ……当然……ッ!儂が何年、何十年この苦しみを……この屈辱を味わって来たと思っとる……ッ!今度こそ、思い知らせてやる……どちらが勝るか……此の世を統べる王と……それに刃を向け、叛旗を翻す博徒……どちらが此の世の頂点か……ッ!》

 

 

 

 

 眼球を血走らせながら意気込む鷲巣巌に対して、まさか鷲巣巌が石戸霞のバックについているなどと夢にも思っていない小瀬川白望は、席決めを行なった後、石戸霞の方をチラと見て(……絶一門でくるか……それとも全く知らない何かでくるか……)と心の中で呟く。

 

 

 

(どちらにせよ、私には関係ない……)

 

 

 

 

(そう思ってるんでしょうけど……関係大有りよ。あなたに……いや、あなたの師匠に……ね)


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