宮守の神域   作:銀一色

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第423話 二回戦B編 ㉜ 優しさ

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視点:神の視点

東四局 親:宮守 ドラ{中②七}

姫松 120600

清澄 106100

永水  63600

宮守 109700

 

 

 

 

永水:八巡目

{裏裏裏裏裏裏裏} {横北北北北} {東横東東東}

 

 

 

 薄墨初美の『裏鬼門』が発動される、それだけで大きな転換点となるこの東四局、薄墨初美は原村和の協力もあってか『裏鬼門』のキーとなる{東}と{北}を鳴くことに成功したが、そうは問屋が卸さないと言わんばかりに臼沢塞が薄墨初美を『塞ぐ』。それにより、『裏鬼門』は発動されず、場は導火線に火がついているにも関わらず膠着したままだった。

 そんな場の停滞を感じながら、辻垣内智葉はこの状況を生み出した、破天荒原村和の事を素直に評価する。後にも先にも、彼女の『裏鬼門』をよもや利用した人間はいないだろう、と。

 

 

 

「……清澄、なかなか面白い事をやってるじゃないか」

 

 

 

「面白いコト……ですカ?」

 

 

 

 メガン・ダヴァンは辻垣内智葉に言われて初めて、卓の状況に注意深く目を向ける。臼沢塞が薄墨初美の『裏鬼門』を封じているという事は言わずとも分かっていたが、辻垣内智葉が言うことには面白い事が起こっているという。メガン・ダヴァン以外のメンバーもじっくりと清澄を始めとした卓のあらゆる状況に目を通す。すると、ネリー・ヴィルサラーゼが何かに気付いたのか、モニターを指差して「あ……」と呟く。

 

 

 

 

「ネリー、何に気付いたんですか?」

 

 

 

「いや……あのピンクの子から、攻めようっていう意志が感じられない……手牌も、和了に向かうように整理されてないし……」

 

 

 ネリーがそう呟いた後、改めて原村和の手牌に目を向けた雀明華が「成る程……言われてみればそうですね。でも、攻めようという意志が無いというよりかは……」とまで言うと、横から辻垣内智葉がこう続ける。

 

 

 

「和了る気が無いんだろうな。そもそも」

 

 

 

「デスが、それに何の意味ガ?永水は和了れませんシ、宮守も連荘になるから和了らないでショウ。大きなチャンスじゃないんですカ?」

 

 

 

 

「……簡単に言えば、あいつは宮守を潰す気なんだ。潰すというか潰させるというか……まあそこはどうでもいい。あいつは態と局を遅らせる事で、宮守の()()()()を狙ってるんだろうな。一位の姫松には見向きもしてない。まあ、賢明といえば賢明な判断だ」

 

 

 

「つまり……今現在のチャンスよりも、後の大チャンスに賭けた、というところでしょうか」

 

 

 

 郝慧宇がそう言うと、辻垣内智葉は「ああ、まあそんなところだな」と返す。一度分かって仕舞えば単純な話ではあるが、標的である臼沢塞からはそんな作戦だという事など知る由もなく、ただ『とんでもない事をしでかした』といった恨みにも似た激情を散らしていたのだが。

 

 

 

 

(あの感じだと……後半戦の南場……多分崩れる。そうなれば順位は荒れるだろうな。副将戦は順当な結果になると思ってたんだが……)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「……まずい」

 

 

 

 宮守の控え室でも、原村和が何をしようとしているのか気付いた小瀬川白望は若干前のめりになりながらそう言葉にする。まだ理解が追いついてない他の者を代表して、熊倉トシが「何かあったのかい?」と、若干冷や汗をかきながら小瀬川白望に問う。あの彼女が「まずい」とまで表現したこの事態、深刻な事が起こっているという事は容易に想像がついていた。

 

 

 

「清澄に狙われてる。……塞が」

 

 

 

「清澄だって?」

 

 

 

「はい……『裏鬼門』を利用して、塞に能力を対局の最初から最後までずっと使わせる気です……」

 

 

 

 小瀬川白望が簡潔に一文で纏めてそう発言すると、熊倉トシは「……何か策はあるのかい?」と尋ねるが、小瀬川白望の表情は暗いままであった。

 

 

 

「いえ……今のように、塞に能力を無理矢理使わせるような作戦で来られると流石にどうしようもない……一応の策はあるにはあるけど……今の塞の配牌じゃ厳しい……」

 

 

 

 彼女の言う一応の策というものは、四開槓による流局もしくは他者に差し込んで早急に終わらせるというものであったが、臼沢塞の手牌は縦に伸びる気配はなく、あと二つの槓子を作るのは困難である。もう一方の差し込みの方はというと、まずこれを企てている原村和は論外とすると、残りは愛宕絹恵のみとなるのだが、仮に愛宕絹恵が張っても臼沢塞は差し込みは厳しそうな手牌であるため、これも厳しそうだ。

 そして何より最後の希望である愛宕絹恵も、原村和が要所要所の牌を切らずに抱え込んでいるため、なかなか和了に迎えない様子であった。これも、原村和が途中で局を終わらせないように、流局まで持っていくために意図的に切らないでいるのだろう。抜かりのない作戦だ。

 

 

 

「……それか、能力を解除して『裏鬼門』を発動させるか。点棒は減りますが、その分塞の負担は減る……最悪、そうするしかない……」

 

 

 

 そう言う小瀬川白望であったが、姉帯豊音は若干たじろぐように「で、でもー、そしたらシロがー……」と言う。が、即座に小瀬川白望は「……構わない」とだけ答えた。

 

 

 

「でも、塞がそうするとは思えないよ……?」

 

 

 

 しかし、鹿倉胡桃が小瀬川白望の案に意を唱えると、小瀬川白望は「……それなら、私が休憩時間の間に言ってくる」と返す。すると、熊倉トシがそれに待ったをかけて「いや、あんたは行かない方が良いかもしれないよ」と言う。もし彼女が臼沢塞の所まで行ってそのアドバイスを伝えても、恐らく臼沢塞は素直に従わないだろう。臼沢塞のプライド、そして小瀬川白望に迷惑をかけたくないという責任感が臼沢塞をきっと突き動かすだろう。だが、小瀬川白望は反論した。

 

 

 

「駄目……私が行かなきゃ、私が伝えなきゃ……駄目だ」

 

 

 

 この時、彼女にしては珍しく、感情的な発言をした。恐らく、今の発言はギャンブラー、雀士、神域としての小瀬川白望としてではない。臼沢塞の友達、親友、仲間としての()()()()()が言ったものだろう。そんな彼女は、臼沢塞が辛そうにしている姿を見て、耐えきれなくなったのだろう。それを理解した熊倉トシは溜息を吐きながらも、「……()()()()()()()()()()、あんたがそこまで言うなら仕方ないね。私は止められないよ」と言う。

 

 

 

「……だけど、しっかり伝えてくるのよ。塞のためにも、あんたのためにも」

 

 

 

「……分かりました」

 

 

 

 一方で、今までの話を聞いていた赤木しげるは誰にも分からぬよう小さく笑うと、心の中でこう呟いた。

 

 

 

【(やはり、俺には持っていないものを持っているな……優しさ、というか何というか……人間の真に暖かい部分……俺にはないもの……)】

 

 

【(まあ……その優しさが、時には節介、裏目になる場合も当然存在する……仇とならなきゃいいが……な)】

 

 

 

 

 

 




途中で書いてて、「随分と人間らしい事言うなあ」とか思いながら書いてましたね。ただ優しいだけだから……(震え声)

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