宮守の神域   作:銀一色

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第422話 二回戦B編 ㉛ 対策と作戦

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視点:神の視点

東四局 親:宮守 ドラ{中}

姫松 120600

清澄 106100

永水  63600

宮守 109700

 

 

 

 

(さァ……来るがいいよ……!)

 

 

 

 臼沢塞は場の空気の淀み、どこからともなく流れてくる不穏な雰囲気を感じながら不敵な笑みを浮かべる薄墨初美の事を見つめる。彼女のバックには何やらおどろおどろしい、この世のものとは思えぬ物が漂っていたが、今更そんな事に怯える臼沢塞ではなかった。

 

 

 

(残念だけど、あんたの手の内は皆知っている……あんたがそれ(裏鬼門)を発動させるには、自力じゃないと無理……!)

 

 

 

 彼女にとっての『裏鬼門』の対策は、何も『塞ぐ』だけではない。未然にある程度……というか確率上大体は阻止できるはずなのだ。{東}と{北}さえ槓子にさせなければいいのだから、薄墨初美が{東}と{北}の計八枚を全て独占しているという馬鹿げた場合でさえ無ければ必然的に、そして確実に防ぐことができるのだ。これは真っ当至極当然で、対策以前の話かもしれないのだが、それも勿論、『裏鬼門』という能力がどういうものかを分かってさえいればという前提の元で成り立っている。しかし、逆に言えば知ってさえいれば、確実にとまでは行かずとも、『塞ぐ』ことなくやり過ごせる。

 そして何より、『裏鬼門』の回数が減るというのは、彼女にとってこれ以上に無いほど有り難い事であり、今までの話を見ればそれもそこまで非現実的な話ではないようにも見える。が、

 

 

 

(だけど、そう上手くはいかない……それで潰せるのは多くても二回かそこら……)

 

 

 

 そう、それはあくまでも確率通り……上手く事が進めばの話である。地方大会の牌譜を見れば、先ほど前述し、馬鹿げた場合と評した『薄墨初美が{東}と{北}を独占している場合』というのが頻繁に起こっていたのだ。確率という壁を優に超えて。二回に一回、もしくはそれ以上は確実に『裏鬼門』が来ると考えても良いだろう。言ってしまえば、今までの対策はあくまで保険程度の気休めでしかないという事。どこまで対策を積み重ねても、あくまで臼沢塞の本命は『塞い』で封殺、完封することだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

(配牌は……あまりこういう事は言いたくはないんですが、()()()なら、『天が味方している』とでも言うんでしょうか。この場合)

 

 

 

 一方、何やら事を企てている様子の原村和は自身の配牌を見ながら、彼女らしからぬオカルティックな事を他者を介してではあるが、心の中で呟く。

 そしてそこまで呟いて、ハッとした原村和は雑念を取り払おうとするかのように頭を振って、急に我に返り、同時に溜息をつく。数年前まで、オカルトなど非科学的、ただの牌の偏りだと頑なに一蹴してきた自分も、小瀬川白望という人物に会う事によって、随分と丸くなったというか……寛容になったものだと回想する。未だに、オカルトを否定する自分と受け入れようとする自分とのギャップに困ってはいるのだが。

 

 

 

 

(まあ……少なくとも、()()()と会わなければ、こんな作戦思いつかなかったでしょうね……)

 

 

 

 そんな事を呟きながら、ようやく第一ツモが原村和に回って来る。原村和は山から一枚、牌をツモってくると、それが何かを確認するよりも先に手牌から即座に一枚切った。その瞬間、臼沢塞と愛宕絹恵の表情が緊迫から驚愕へと一転する。

 

 

 

「……ポン!ですよー」

 

 

永水:一巡目

{裏裏裏裏裏裏裏裏裏裏裏} {横東東東}

 

 

 

 

(なっ、何……何?清澄、何で……!?)

 

 

 

 

 

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『……わざと、裏鬼門を発動させるですって?』

 

 

 

『ええ。そうです。それも、できるだけ早い段階で』

 

 

 

『……それに何の意味が?』

 

 

 

『……宮守の副将の方は、そう何度もオカルトを塞げません。それは、過去の牌譜を見れば明らかです。……それも、ただ単に回数制限があるからという理由ではなく、何かを代償としているから何度も使えない、そういう理由のはずです。……代償の例えとすれば、自身の体力とかでしょうか』

 

 

 

『成る程……でも、一歩間違えば和が危ないのよ?』

 

 

 

『大丈夫です、宮守がちゃんと塞いでくれますから。むしろ、そうして貰わないと成立しないので』

 

 

 

 

 

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(……さあ、第一ラウンドの開始ですよ)

 

 

 

 原村和は一層笑みを浮かべる薄墨初美と、未だに現状の理解が追いついていない臼沢塞とを見ながらそう言う。薄墨初美にわざと『裏鬼門』を早く発動させ、臼沢塞に早急に塞がせるという、作戦は一先ず好調に進んでいる。

 

 

 

 

 

 

(な、何で一打目から{東}……?いくら最初に切るのが一番安全だからって言って、折角『裏鬼門』を発動させない事ができるチャンスなのに……)

 

 

 

 よもや、自分が標的となっているとも思わない臼沢塞はまさか原村和は『裏鬼門』の事を知らないのかという事まで考えるが、そんな彼女の推察をよそに、薄墨初美は次巡のツモで{東}を加槓し、嶺上牌をツモって手牌に取り込む。着々と『裏鬼門』の発動へと突き進んでいる。

 そして原村和はそんな彼女を後押しするように二巡後に打{北}。これを薄墨初美は大明槓し、{東と北}を鬼門に置くことに成功した。それと同時に、辺り一面の空気が一変する。現世とはかけ離れたというか、悍ましいというか、そういった嫌な雰囲気を醸し出す。そう、この瞬間、『裏鬼門』が発動したのだ。

 

 

 

 

({東}に{北}まで……!?予想以上に清澄がダメすぎる……!)

 

 

 

 そして対する臼沢塞は、本来なら必要がなかった自身の能力を行使する羽目になり、清澄に向けて悪態を吐きながら薄墨初美の事をキッと睨みつける。すると辺りの悍ましい雰囲気は一気に搔き消され、元の空気感に戻る。薄墨初美もいつもの感じでは無くなったという事に気付いたのか、嶺上牌が{南でも西}でも無い事を確認して、この異常の中での異常、それの元凶である臼沢塞の方を見る。

 

 

 

 

(この人……早速容赦無いですねー!)

 

 

 

 

(……みたいな事言ってそうな顔してるわね。生憎こっちも、想定外の事態なのよ…!容赦なんてしないわよ……!)

 

 

 

 

 

 

(どうやら、上手くいってくれているようですね)

 

 

 

 

 

 原村和は取り敢えずは成功といった風に視線を先ほどの二人から、今度は愛宕絹恵の方へと向ける。この作戦の核は、いかにして早く『裏鬼門』を発動させ、臼沢塞に想定の数倍長く、多く能力を使わせるかということ。そういった観点から見れば、一先ずは作戦は上手くいっていると言えるだろう。

 流石の臼沢塞と雖も、局の初っ端からフルで能力を使えばその負担は甚大ではない。ただでさえ、原村和によって二回程度だと思われていたのが少なくとも四回は発動されるのがほぼ確定的となり、そして強力な能力なのだ。使用時間が長くなればその分彼女に負担は積み重なっていく。

 そして更に、この作戦をより効果的にするための隠し味が存在する。それは、誰にも和了らせずに流局まで局を引き延ばして粘る事。局の最初から最後までぶっ通しで能力を使用させる事が、勝利への近道であった。薄墨初美は塞がれて和了れないし、臼沢塞は親故に和了ることはできない。よって、今の状況で厄介なのは愛宕絹恵。彼女に動かれると結構厄介であった。

 

 

 

(姫松の方に意図を汲み取って貰うのが一番手っ取り早いんですが、まあ、相手から見れば今の私はただの愚か者ですし……今は無理そうですかね)

 

 

 

 

 一番警戒されるはずの『裏鬼門』を逆手に取り、宮守にぶつけるという奇抜、奇想天外の原村和の作戦が実行され、更に混沌とした東四局は、まだまだ序盤であった。

 

 

 

 




完全に和がぐう蓄と化してますねえ……

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