宮守の神域   作:銀一色

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第420話 二回戦B編 ㉙ 二者択一

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視点:神の視点

東二局 親:清澄 ドラ{①}

姫松 124500

清澄 101300

永水  68400

宮守 105800

 

 

 

 

 

姫松:捨て牌

{西九6発⑧三}

{横五}

 

 

 

 

(これを一体どう処理するか、困ったわね……)

 

 

 

 ツモ牌を指で弄びながら、臼沢塞は少しばかり打牌に迷うフリをして、愛宕絹恵と思われる能力をどう対処するかを考える。無論、臼沢塞が愛宕絹恵の事を『塞げ』ばそれで終わりの至極単純な話なのだが、そうも言ってられないのだ。彼女の能力には具体的な回数は決まっていない。が、回数制限が存在しているのだ。後一、二回しか使えない状況まで追い込まれれば流石に残った体力で残り回数は把握できるが、この時点では後何回使えるかは体感的には分からず、それ故に無駄な消費はしたくは無いのが本音である。

 しかし、ここで愛宕絹恵に和了られてしまえばせっかく前局で原村和が削ってくれた5200も一気に吹き飛んでしまう事だってある。ただでさえ親番時には薄墨初美の『裏鬼門』がある故に連荘が望めないというのに、ここでまた点差を離されてしまうのは不芳な話である。

 

 

 

(せめて、能力の詳細が分かれば良いんだけど……)

 

 

 

 臼沢塞の言う通り、愛宕絹恵の能力が一体何なのかを知ることさえ出来ればここまで悩む必要はないのだ。その能力が、どれだけの害を与える危険性を内包しているのか。それを知れるだけでも大きく変わるのは、その詳細を知れるのは恐らく前半戦が終わった後からになるであろう。故に、彼女が下せる決断は二つ存在する。

 一つは体力の消耗を覚悟して愛宕絹恵を『塞ぐ』事。こうすれば少なくとも姫松に離される心配はないが、だがその事による弊害……体力を浪費したツケは後半戦辺りに響いてくる恐れがある。

 二つ目は一つ目と正反対で、臼沢塞は能力を使わずに愛宕絹恵と闘うという選択。能力を使われているため、まともに闘っても競り負けるだろうが本命の薄墨初美の『裏鬼門』に万全の状態で備える事ができる。まさに二者択一の状態であったが、臼沢塞はようやく答えを出し、手牌から一枚、牌を切り出した。

 

 

 

 

(……シロの目の前で大口叩いた私が、弱気でどうすんのよ!)

 

 

 

 

 臼沢塞が下した決断は、愛宕絹恵を『塞い』で封じ込めるという決断。無論、体力消耗のリスクは承知である。だが、それを分かった上でこれ以上点差を広げられるわけにはいかないのだ。後ろには小瀬川白望が控えているが、彼女に頼られっぱなしではいられない。そういった激情が彼女を突き動かした。

 モノクルの位置を若干ほど調節した臼沢塞は、愛宕絹恵の事を睨みつけるようにして見つめる。この瞬間、愛宕絹恵が能力を行使する事は少しもできなくなった。その証拠に、先ほどまで視界を遮っていたモノクルの曇りが段々と消えていくのが分かる。

 

 

 

(……{赤五}。なんや、いつもの感じとは……っ!)

 

 

 

 そして直後の次巡、愛宕絹恵は{①}を絡ませているというのに和了れなかった事に違和感を覚えるが、直ぐにその違和感の理由は、この違和感の出所は宮守の臼沢塞からであるという事が分かった。突如愛宕絹恵の周りの景色が忽然と変貌する。愛宕絹恵の両側には彼女の身長とは比べる事のできないほど大きな岩が存在しており、気が付けば彼女はその岩と自分の両腕を縄によって縛られていた。

 

 

 

 

(……宮守……っ!!)

 

 

 

 縛られている愛宕絹恵は目の前で、何やら豪華で気品溢れる装束を身に纏い、腕組みをしながら自身の事を睨む臼沢塞の事を睨み返す。だが、睨み返そうにも、彼女から発せられる強烈な圧力を感じて思わず辟易して目線を逸らしてしまう。そしてそれと同時に、先程は自分の能力が発動しなかったのではなく、この臼沢塞によって押さえつけられているという事に気付いた。

 

 

 

 

(……自由には、させないわよ。大人しくしてる事ね)

 

 

 

 

 リーチをかけているため、これで完全に身動きを封じ込めた愛宕絹恵にそう嗜めるように心の中で語りかけると、着々と自分の手を進め始める。この時、原村和には二人の間でどんな事があったのかはさっぱりではあったが、『臼沢塞が何かをして愛宕絹恵を封じた』という事は理解できていたようで、(……ここは、私に付け入る隙は無さそうですね)とし、潔く退いて現物を叩く。

 

 

 

(……なんとか、追いついたわね)

 

 

 

宮守:十四巡目

{一二四六六②③④⑥⑦678}

ツモ{三}

 

 

 

 そして終盤十四巡目に、臼沢塞がようやく聴牌して愛宕絹恵に追いつく。一方の愛宕絹恵は、六巡目にリーチをかけているのにも関わらず、臼沢塞のせいで全く和了ることができないという珍しい状況であった。臼沢塞は{一}を叩いて聴牌を取ると、その直後に愛宕絹恵は{赤⑤}をツモってくる。愛宕絹恵はこの牌が怪しいと踏みながらも、リーチをかけているが故に切らなくてはならない。愛宕絹恵が苦虫を踏み潰したような表情で{赤⑤}を切る。勿論、臼沢塞は牌を倒して申告する。

 

 

 

「ロン、3900」

 

 

 

 

 

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「……厳しいな」

 

 

 

 

 臼沢塞が和了ったのを見ていた小瀬川白望は、若干心配そうに口籠る。彼女の上に乗っていた鹿倉胡桃も「塞の能力を使わされちゃったからね……」と言うと、熊倉トシが小瀬川白望にこう問いかけた。

 

 

 

「……打つ手はないのかい?」

 

 

 

「前半戦が終わらないと、どうにもできない……まあ、正直収支の方はどうだっていいです。最悪、役満の一発や二発は覚悟してますから……問題は塞が無理をして能力を使うような状況になる事……」

 

 

 

 

 そう小瀬川白望は言うが、熊倉トシはそんな小瀬川白望に向かって、(やっぱり、あなたは相変わらずね……点棒よりも先に、塞の心配かい……素晴らしい絆じゃないか)と褒めると、(……この様子なら、点棒に関しては大丈夫そうだね)とし、再び視線をモニターの向こう側に向けた。

 

 

 

 

 


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