宮守の神域   作:銀一色

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第418話 二回戦B編 ㉗ 不慣れ

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視点:神の視点

東一局 親:姫松 ドラ{8}

姫松 129700

清澄  96100

永水  68400

宮守 105800

 

 

 

 

 二回戦Bブロック第一試合も遂に終盤になり、副将戦に突入する。現在トップを走っている姫松は、姉の愛宕洋榎からバトンを受け取った愛宕絹恵は、この点棒を守り抜き……いや、むしろ更に点差を広げる勢い。そうでないと、いくら大将の末原恭子と雖も、小瀬川白望相手にこの点差は心許ない。どうにかしてでも点棒を増やして大将に回さんとす、そういった意気込みを他人からも分かるほど示していた。

 だが、どれだけ意気込みを示見せていたとしても、愛宕絹恵にとっては難関な道筋であることは間違いなかった。まず、宮守の防御の要でもある臼沢塞。彼女を切り崩さずして点差を広げることはできないのだが、その彼女の防御力が恐ろしいのだ。対能力者はもちろん、対非能力者に関しても鉄壁とも言えるほどの強固な防御力である。そんな彼女を相手するだけでも大変であるのに、それに加えて厄介なのが永水の薄墨初美だ。彼女の裏鬼門は仮に留意し、完璧に立ち回ったとしても防げない時もある。そういった意味では親の時に永水が北家である席順でないどころか、宮守がその状況であるということはかなり大きい。

 

 

 

(『鬼門』がどうとか末原先輩は言っとってたけど……とにかく、永水が北家の時、気を付けんとあかんな……)

 

 

 

(点差は一位とは六万点ですかー……本来なら前半戦が終わる頃には吹っ飛ばせる点差ですが、果たしてそれを宮守が許してくれるかですねー……)

 

 

 

 そんな前途多難な勝負が予想される愛宕絹恵の親で始まるこの副将戦前半戦、豪華なメンツの割には立ち上がりの東一局は意外と緩やかなものであった。もともと、姉帯豊音やエイスリンが稼いだ点棒を守り抜いて小瀬川白望に渡すという役目を請け負うという事を想定して抜擢されていたはずである。それ故に完全防御型である臼沢塞にとってはビハインドでの攻めというものは想定されてない、不慣れなものということもあり、なかなか思うようには立ち回れずにいた。

 

 

 

(親は一位の姫松。ここはツモでも和了りたいところだけど……どうしたものか……)

 

 

 

 しかし、穏やかとはいっても波はやって来る。東一局、最初の和了を果たすことができたのは原村和であった。愛宕絹恵が意図せず切った{⑧}を狙い撃ち。愛宕絹恵からしてみれば、難攻不落である臼沢塞と、裏鬼門の薄墨初美しか見えていなかった為、この和了は彼女の思考の外からの襲撃であった。

 

 

 

「……5200です」

 

 

 

 

(清澄ッ……!)

 

 

 

 トップを走る愛宕絹恵から直撃を取った原村和は、まるでこれが先のエトペンの借りを返したと言わんばかりに点数を申告する。いや、それはあくまでも愛宕絹恵から聞いたらそう聞こえただけであって、実のところ、原村和は今はそんなことは何も気にしている様子はなく、ただ『首位を走る姫松を削る』という至って合理的な判断故の直撃であった。

 

 

 

(姫松もそうですけど、問題は宮守……あれをどうやって削るかが問題ですね)

 

 

 

 点棒をしまいながら原村和が臼沢塞の捨て牌をチラと見ながら、そう考える。今捨て牌を少しみただけでも、上手く攻めに転じることはできてはいないようだが、それでも明確な隙や迷いは感じられず、完全無欠の要塞を目の当たりにしているような錯覚を受ける。

 

 

 

(……それに、無限とはいかずとも、ある程度までならオカルトを封じることもできるんだとか……私のような雀士からしてみれば目に余るものが減って良いんですが……まあそれもオカルトですしね)

 

 

 

 オカルトを封じるという、オカルトに悩まされてきたデジタル打ちの原村和からしてみればある意味救いとも言える事であるのだが、それもまたオカルトによって生まれる話であるというジレンマめいたものに少し苦悩していた原村和であったが、ついさっき心の中で呟いていた事を思い出し、(無制限に使える、というわけではない……)と、ここである考えが頭の中に思いついた。

 

 

 

(なるほど……それならば、多少リスキーでもやってみる価値はありそうですね……オカルトを認める前提の話ですので、あまり気は進みませんが……)

 

 

 

 心の中でそう決心していた原村和であったが、一方その時臼沢塞はモノクルをしきりに気にかけながら、(……攻めはあまり得意じゃないで、済まされる話じゃないなこりゃ)と、先ほどの東一局の立ち回りを振り返りながら自戒する。いくら姉帯豊音とエイスリンが先鋒次鋒に、そして自分の前に鹿倉胡桃がいるからといって、今回のようにビハインドで回ってくる可能性はこれからも十分にある。

 故に、『防御型だから』という理由はこの場において、到底通用するわけがなく、もはや理由でもなんでもなく、ただの言い訳である。この場に来る前、小瀬川白望に向かってあんな事を言ったのにも関わらず、薄墨初美の『裏鬼門』と関係ない場面で普通に稼ぎ負けるというのは些か格好がつかないのだ。

 

 

 

(苦手分野だろうと……不慣れだろうと……関係ない。本気でいかせて貰うわよ……)

 


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