宮守の神域   作:銀一色

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第416話 二回戦B編 ㉕ 心配と責任

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視点:神の視点

中堅戦終了時

宮守 105800

清澄  96100

姫松 129700

永水  68400

 

 

 

「全く!姫松のあの人、何なのよもう!『ちっこいの』って言ってくるし、麻雀はめちゃくちゃ強いし……信じらんない!」

 

 

 

「……」

 

 

 

 

 あの後、鹿倉胡桃は同じくその場に取り残された竹井久と滝見春と別れて今度こそ控え室に戻ってきた。対局による疲れと、先ほどの一件による精神的疲労が積み重なった鹿倉胡桃は戻ってくるなり小瀬川白望の上に乗り、『充電』を行う。そして充電をして行くうちに疲労が本当に取り除かれていくのか、戻ってきたときはクタクタだった彼女も、今や元気に愛宕洋榎に対して愚痴を吐くことができるほど回復していた。

 

 

 

「……まあ、洋榎に結構削られたからね」

 

 

 

 小瀬川白望は目の前にいる鹿倉胡桃に、彼女が一番気にしていたことを言い放つと、鹿倉胡桃は「……っ!気にしてるんだから言わないで!」と後ろを振り向いて小瀬川白望に向かって言う。

 

 

「……それはごめん」

 

 

 

「ともかく!前半戦と後半戦の合間、何だかんだ言って充電できなかったんだし、たっぷり『充電』させてもらうからね!」

 

 

 

「だ……「だるいって言わない!」……なんでもない」

 

 

 

 

(充電してなかったって言っても……今こんなんだし、案外燃費良いのかな……)

 

 

 

 小瀬川白望は体力が有り余っているようにも見える鹿倉胡桃を上に乗せながら、まるで車の性能を見るかのように心の中で呟いていると、臼沢塞がモノクルを右目に掛けて「じゃあ、そろそろ言ってくるわね」と言って立ち上がる。

 

 

 

「塞ー、頑張ってねー!」

 

 

 

「サエ、ファイト!」

 

 

 

 姉帯豊音とエイスリンの声援を受けた臼沢塞は小瀬川白望の目の前で立ち止まると、小瀬川白望の方を向いてこう言った。

 

 

 

「気をつけるべきは、永水が北家の時……だったわよね?」

 

 

 

「うん……初美が北家の時、鬼門の{東と北}を鳴いたら、裏鬼門が来る。要はその時塞げばいいんだけど……何度も言うけど、無理はしないでね」

 

 

 

「だったら何度でも言ってあげるわ……」

 

 

 

 小瀬川白望に心配の旨を伝えられると、臼沢塞はフッと笑ってこう口を開く。「……シロ、あんたに心配されちゃおしまいよ。それに、一体……何度私がシロの事心配したと思ってんのよ」と返す。

 

 

 

「……何回?」

 

 

 

「数えられないくらいよ。それに比べれば、一度の心配……安いものでしょ?」

 

 

 

「塞……」

 

 

 

 小瀬川白望は臼沢塞の名前を呼ぶが、臼沢塞は再び足を進め、振り返らずにドアの前に行く。そしてドアノブに手をかけた瞬間、「ま、任せておきなさい。絶対に倒れたりなんてしないから」と言い残して控え室から出て行った。そして臼沢塞が居なくなってすぐに、鹿倉胡桃が心配そうにそう呟く。

 

 

 

「塞、大丈夫かな……」

 

 

 

「……大丈夫だよ」

 

 

 

 あれだけ心配していたのにも関わらず、小瀬川白望は意外にも即答でそう答えた。誰かがその即答の理由を問う前に、小瀬川白望はこう続ける。それは、長年付き合ってきた二人の中だからこそ通じるものがあった。

 

 

 

「塞が私に約束したことは、絶対守ってくれるから……私は、何回も破った事があるけど……塞は無いから……」

 

 

 

 

「……そういうことじゃあ、大丈夫そうだね?」

 

 

 

 

 熊倉トシがそう言うと、先ほどまで流れていた心配という名の緊張感も緩和される。臼沢塞なら何とかやってくれるだろう。そう信じて彼女を送り出す。そういった雰囲気へと変貌した。

 

 

 

「……でも、約束は破っちゃダメだよー?」

 

 

 

「それは申し訳ないと思ってるけど……」

 

 

 

 

 

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「部長、お疲れ様です」

 

 

 

「和……」

 

 

 

 竹井久が控え室に戻ろうとしていると、原村和は休憩室らしき場所から出てくる。竹井久が原村和の名前を呼ぶと、原村和は「咲さんなら、あそこで仮眠中ですよ」と、聞かれてもないのに宮永咲の所在を話す。

 

 

 

「え?ああ……分かったわ」

 

 

 

「では、私も行ってきます」

 

 

 

「……あとは、任せたわよ」

 

 

 竹井久が原村和の肩を叩くようにして押し、対局室側に送り出すと、原村和は「任せて下さい……色々と遺恨のある相手もいますしね」と呟き、対局室に向かって行った。竹井久はこの時、原村和の言っている意図はよく分からなかったが、何やらただならぬ気配というか、彼女からは想像できないほどの恐ろしさをが感じて背筋を凍らせていた。

 

 

 

(責任を取ってもらいますから。絶対に……あれだけの衝撃を私に与えて、逃げようたって許しませんから……)

 

 

 

(……優希が言ってた通り、たまに怖くなるわね……あの子)

 

 

 

 原村和の恨み、というか怨念にも似た、『デジタルであった自分をあらぬ方向へ捻じ曲げられた』ということに対しての激情は結局は小瀬川白望自身に向けることはできず、臼沢塞に八つ当たりという形でぶつかる事となるのではあるが。

 無論、彼女が完全なデジタルの道から小瀬川白望が外したお陰でオカルトをある程度受け入れる事のできる(彼女の口では否定しているが)精度の高いデジタルになった事で成長したのは間違いはないのだが、彼女にとっては正直デジタルだとかそういう事よりも、自分を、デジタルという自分の身体の一部とも言えるものを曲げられた、介入された、その事に対しての激情であった。

 そしてその恨みや怨念に、小瀬川白望に対しての恋心を混ぜることによって今のような彼女の心理状態、片岡優希曰く『怖い』状態になるのであった。もちろん、小瀬川白望はこの事を知っているわけもなかった。

 

 

 

 

 

 

 

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「……あれ、もう行っちゃったの」

 

 

 

 一方、滝見春が控え室に戻ってくると、既に薄墨初美の姿は謎の仮面とともにいなくなっていた。滝見春がそう呟くと、石戸霞は「お帰りなさい。姫松の愛宕さん相手によく頑張ったわね」と労いの言葉をかける。

 

 

「でも……姫松とは六万点差、宮守とも、四万点近くある……」

 

 

 

 滝見春が申し訳なさそうにそう言うと、鷲巣巌が『構わん』と自信ありげに答える。石戸霞は「ほら、こういうことらしいわよ?」と、滝見春に向かって言う。

 

 

 

『儂の力を持ってすれば、六万点差など容易い……問題はあのガキのいる高校、宮守との点差だ』

 

 

 

「鷲巣さんの力を使っても、五分五分……でしたっけ」

 

 

 

 狩宿巴が鷲巣巌に向かってそう言うと、若干「鷲巣"さん"」呼びに対して眉を細めるが、それは口に出さずに『如何にも……奴の麻雀のセンス、牌に対する嗅覚……それに関しては奴が上手と言わざるを得ん……いくら儂の力で豪運となったとしても、点差が開いてしまえば、奴の技術と、狂気で跳ね返される……』と言う。

 

 

『……だが、二位につけるのなら何の問題も無い。それで十分だと言うなら、宮守とは何点離されても問題ない……が』

 

 

『儂の力を使って二位に甘んじるというのは到底許される事ではない……例え貴様らが喜んでも、この儂が許さん……分かっとるじゃろうな?』

 

 

「ええ、もちろん。あなたの力を使う以上、シロに勝つ気でいくわ」

 

 

 

『当然じゃ……』


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