宮守の神域   作:銀一色

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第414話 二回戦B編 ㉓ 悪待ち

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視点:神の視点

東二局 親:清澄 ドラ{⑤}

宮守 113200

清澄  92100

姫松 128100

永水  66600

 

 

清澄:五巡目

{六①②②②赤⑤⑥⑦⑧⑨} {白横白白}

 

 

清澄:捨て牌

{7東三⑨⑥}

 

 

 

 トップを突っ走る姫松の愛宕洋榎と、永水や宮守に持ち上げられた清澄の竹井久の一騎打ちという構図になった東二局。竹井久は愛宕洋榎に追いつかれる前に速度の利を生かしてどうにか和了に向かいたいわけだが、それで易々と和了らせるほど愛宕洋榎は甘いわけではない。

 だが、この時愛宕洋榎は竹井久の手を見抜き兼ねていた。確かに先ほどの{⑨⑥}打ちは明らかな煙幕であることには間違い無いのだが、その更に裏の可能性が彼女には見えていたのだ。

 

 

(……本筋は筒子の染め手、それは間違いない。……せやけど問題は()()()()()()()()()()()()()()()()手っちゅうパターンや)

 

 

 事実、愛宕洋榎のこの予想は核心に迫っており、竹井久はまさにそれを狙おうとしていた。下手な煙幕を打って、筒子の染め手と確信させた後に萬子の{六}で討ち取ろうという裏の裏戦法。目的は勿論愛宕洋榎から直撃を取る事。だが、それは殆ど出来ないだろうというのは嫌でも彼女は痛感させられている。だが、それでも尚やるしかない。可能性がゼロの筒子の混一色よりも、一か八かに賭ける方を選ぶ。それこそが自分らしい麻雀であり、竹井久の鬼気迫るものが感じられた。

 が、その思い切りが功を奏す事となる可能性も十分高いのが現状であり、今、風は間違いなく竹井久に向かって吹いている。故に、直撃が取れなくてもツモれる可能性が高いというわけだ。そして何より、セオリーを外れた{六}単騎待ちはまさに竹井久の十八番である悪待ち。彼女の意識しないところでも、好条件は揃っていたのだ。それに加えて、今の愛宕洋榎はとてもじゃないが竹井久に追いつくための闘う手牌ではない。柄にもなく、彼女はそうした不安を胸に抱く。

 

 

(くそっ、間に合わんかもなこれは……)

 

 

 するとそこまで考えて、愛宕洋榎は悔しさを滲ませながら少しほど強く右手を握りしめる。常人にとっては既に数万点稼いでトップを突っ走っている状況故に本当に小さな、瑣末な事に見えるのかもしれないが、彼女にとっては違う。小さくとも、瑣末であろうとも、敗北は敗北だ。それ以上もなければそれ以下もない。そしてその敗北こそが、彼女にとってはとても許すべからざる事なのだ。

 

 

 

 

(……流石に間に合わないとは思うけど。これで間に合ったら本当に手が付けられないよ……!)

 

 

 そして先ほどまで今の竹井久の立ち位置にいた鹿倉胡桃は、そんな二人を傍観しながら心の中で呟く。もちろん、今の状況で一番面白くない結果は愛宕洋榎が和了ること。そして次点で竹井久がツモ和了ることなのだ。親のツモ和了では自分と愛宕洋榎との点差は縮まらないため、できる事ならば直撃が好ましいのだが、そう言ってられないという事を鹿倉胡桃も重々承知していた。

 

 

 

(……聴牌、ね)

 

 

清澄:七巡目

{六①②②②赤⑤⑥⑦⑧⑨} {白横白白}

ツモ{⑦}

 

 

 そんな中、先手を取ったのはやはり竹井久であった。{⑦}をツモってこれで聴牌としたが、竹井久は迷う事なく{①}を打って単騎{六}待ちをとった。混一色も変速待ちも全て投げ捨て、{六}勝負にでた。

 

 

(やっぱり、この『悪待ち』じゃないと落ち着かないわね……)

 

 

(来たか……清澄の、『悪待ち』……!せやけど、そんなんには引っかからんわ!)

 

姫松

打{2}

 

 が、もちろん愛宕洋榎はそれに引っかかるわけもなく、あっさりと躱されてしまう。しかしながら、前述した通り、今風は竹井久に吹いている。仮令当初の目的が外れようとも、ある程度はリカバリーが効くのだ。ツモ和了するくらいならば。

 

 

 

(……{白}、ね。宮守には悪いけど……ここで決めるわ。今は愛宕さんが要注意なのは確実だけど……宮守とは大将戦までに一点でも点差を詰めておきたいからね)

 

 

 その証拠に、愛宕洋榎に早々に躱された直後の九巡目にて、愛宕洋榎は明刻となっている{白}の最後の一枚を引き当てる。竹井久はその{白}を倒して晒すと、加槓を宣言する。

 

 

「カンッ!」

 

 

清澄:八巡目

{六②②②赤⑤⑥⑦⑦⑧⑨} {白白横白白}

 

 

新ドラ表示牌{⑥}

 

 

 この竹井久が{白}を加槓する事によって生じた新ドラはなんと{⑦}。つまり、混一色を捨てたはずのこの手が、帳尻を合わせるがごとく混一色と同じ価値の二飜を得たのだ。

 そしてまだ終わりではない。まだお待ちかねの嶺上ツモが残っているのだ。絶好調の竹井久は嶺上牌から牌をツモると、それをゆっくり盲牌し、確信する。

 

 

(……二回目、行かせてもらうわよ)

 

 

 心の中でそう呟いた竹井久は、ツモってきた牌をコインを弾く要領で指で上方目掛けて牌を打ち上げる。その淀みのない動作に、鹿倉胡桃が遅れて「ちょ、ちょっと!またやる気!?」と、指で弾いた後に言う。しかし、竹井久には聞こえていなかったようで、竹井久は地球の重力によって引っ張られてくる牌を加速させるように思いっきり卓へ叩きつけた。もちろんその牌は、竹井久の待ち牌の{六}。

 

 

 

「ツモ……嶺上開花、白、ドラ4……6000オール!」

 

 

 竹井久はこれ以上ないくらい清々しく点数を申告し、ゆっくりと背凭れに寄りかかるが、先ほどの行動を遠慮がなくなった鹿倉胡桃が見過ごすわけもなく、竹井久を指差してこう言う。

 

 

「……ねえ。……ねえ!」

 

 

「は、はいっ!?」

 

 

「『はい?』じゃなくて!なんなのよ、さっきの!」

 

 

 鹿倉胡桃がそう言うと、竹井久はキョトンとした顔で「え……一回目は何も言ってなかったじゃない?」と弁解するが、鹿倉胡桃はそれをバッサリ切って「そういう問題じゃないから!とにかく、叩きつけないで!牌が可哀想!」と説教する。

 

 

「そ、そうね……分かったわ」

 

 

「全く……!」

 

 

 そういうやり取りをしていた竹井久と鹿倉胡桃を見ていた愛宕洋榎は、(楽しそうに麻雀しとんなこいつら……まあ、二人にとっては最初で最後のインハイ。楽しまんと損やしな)と心の中で言うと、今度は口に出してこう続けた。

 

 

「でも、勝敗はつけさせてもらうで!」

 

 

「な、何いきなり!?」

 

 

「いいから!ほら、次や次!次は止めたるで、清澄!」

 

 

「……ええ、こっちも全力で行くわよ!」


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