宮守の神域   作:銀一色

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第413話 二回戦B編 ㉒ 毒薬

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視点:神の視点

東二局 親:清澄 ドラ{⑤}

宮守 113200

清澄  92100

姫松 128100

永水  66600

 

 

清澄:二巡目

{六①②②赤⑤⑥⑥⑦⑨⑨} {白横白白}

 

 

 始まって間もないというのに、当事者たちのボルテージは最高潮に達していた東二局。竹井久は永水の滝見春から持ち上げられるようにして渡された{白}を刻子にできるという特急券を得て、スピードという観点からいえばリードしている状況だ。しかし、まだ安心できる局面ではないという事を戒めるかのように心の中で自分に向かって語りかけていた。

 

 

(っていうより……このメンツ相手に安心できる時なんて無いでしょうけどね……)

 

 

 そう、彼女のいう通りで、この卓で本当の意味で安心できる局面など存在するわけがないのだ。仮に安心した、と思ってもそれは安心と言っても、厳密には気の緩み、油断とほぼ同義であるのだ。故に、言ってしまえば安心は敵。自らを破滅させる劇薬なのだ。いや、劇薬ですらない。毒薬。ほんの少量でも致死量に達する毒薬と言っても差し支えないだろう。

 

 

清澄:四巡目

{六①②②赤⑤⑥⑥⑦⑨⑨} {白横白白}

ツモ{⑧}

 

 

 僅かでも気の緩みが生じないように注意を払いながら、通常では考えられないほど気を張り詰めていた竹井久を後押しするかのように、四巡目、手牌に進展が生じる。{⑧}をツモった竹井久の手牌はまだ聴牌までには至ってはいないものの、これで手牌全てが筒子で埋まる事となった。

 

 

(……喜ぶのはまだ早いわね)

 

 

 が、それを受けて彼女は冷静に判断して、手牌から{六}ではなく、筒子の{⑨}を切り飛ばした。

 

 

清澄:捨て牌

{7東三⑨}

 

 

 

({三}の次は{⑨}……もう張ったんか?いや、それとも……どうとも取れるな)

 

 

 

 愛宕洋榎はその行動に対して二つ以上の可能性を頭の中に思い浮かべていたが、観戦室では一部騒然としていた。実況の佐藤裕子も信じられないといった感じで『た、竹井選手。{六}を捨てずに{⑨}を捨てました……』とマイク越しに言う。が、隣にいた戒能良子はその意図が分かっているようで、『メイビィ(多分)……相手からの視線を筒子から遠ざけようというインテェント(意図)があったのでしょう。{三}を出した後で{六}を直ぐに先に出すor一旦待って後に出すか、一見些細な違いに見えますが、意外と変わったりするものですよ』と解説を加える。

 

 

『はあ……つまり、相手からの視線を筒子から遠ざけるという事は、既に相手は竹井選手が染め手である事を読んでいるということですか?』

 

 

『ええ。プロバブリィ(十中八九)そうでしょうね。それも、第一打の{7}打ちから。……まあ、{六}を残したリーズンはまだありそうですが』

 

 

 戒能良子が意味深そうに言っていると、次巡の五巡目で竹井久は{②}をツモってくると、またもや{六}を残して{⑥}を河に叩きつける。

 

 

清澄:捨て牌

{7東三⑨⑥}

 

 

 

(……成る程な、そういうことか。確かにそれをやられれば、ウチには何もすることができんわ)

 

 

 と、この時愛宕洋榎は竹井久の狙いに気付いたようで、竹井久の事を見ながら微笑する。が、それと同時にこの時中堅戦で初めて手に汗を握っている。

 

 

(偶然にしろそうで無いにしろ……そういう分布でこられると色を絞るのは不可能や。最初は索子、次は萬子……そして最後に筒子。そいつらを河に置けば決定的な判断材料が無くなり、絞る事は不可能になるってわけか……)

 

 

 愛宕洋榎は竹井久の策に感心しながら、山から牌を掴み取ってくる。今の竹井久のような、染め手であると推理された上で、捨て牌に三色全てあるという状況は非常に色が判断し難いのだ。これが十巡目で起こったとなれば当然迷う事なく照準を変える事はないのだが、今のようにまだ序盤も序盤の五巡目にそれが起こってしまえば話は変わってくる。つまり、筒子萬子まで絞られ、中でも筒子が怪しいと思われても、決定的な判断材料が無くなってしまったが故に索子までも候補に挙がってしまうのだった。下手に動けば危ないこの状況で、何の推理も無しに向かうのはいくらなんでも無謀過ぎる。そういった煙幕効果を期待して竹井久は仕掛けたのだが、どうやら作戦に効果……というほど顕著なものではなかったが、愛宕洋榎を立ち止まらせる事ができたようだ。

 が、その煙幕も直ぐに雲散霧消し、愛宕洋榎は(……まあ、そういう事を期待しとったんやろうけど。あいにくウチは止まれって言われたら止まりたくなくなるタチや……俗に言う、天邪鬼ってやつやな)と言って当初の推理を破棄せず、そのまま適用して手牌を進めていく。

 

 

(やっぱり、一巡も稼ぐ事はできなかったわね……)

 

 

 あっさりと煙幕を躱されてしまった竹井久だったが、彼女には未だ焦りは見られない。むしろ、愛宕洋榎がその煙幕を無視して……というより見破ってくるのは想定内と言わんばかりに落ち着いていた。それを見越して、彼女にはまだ残された策が存在しているのだ。あくまで{六}を残しての筒子連打による錯乱は表の顔。この{六}残しには、染め手であると思っている愛宕洋榎を迎え撃つための裏の顔が存在していたのだ。

 

 

(一か八かだけど……やるしかないわね……!)


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