宮守の神域   作:銀一色

424 / 473
第412話 二回戦B編 ㉑ 認識

-------------------------------

視点:神の視点

東二局 親:清澄 ドラ{⑤}

宮守 113200

清澄  92100

姫松 128100

永水  66600

 

 

 

(絶対潰す……)

 

 

 

(かかってこいや……)

 

 

 鹿倉胡桃と愛宕洋榎は互いに対面にいる互いを睨みつけるように、目線で火花を散らしながら牌を中央の穴へと入れる。そんな二人の啀み合いとも言えるやりとりを横から見ていた次局、東二局の親の竹井久は二人に押されて水を差すことができず、少し賽子を回すのを躊躇っていたが、鹿倉胡桃から視線を離した愛宕洋榎が竹井久に目で『早く回せ』と軽く促すと、竹井久はハッとしてすぐに賽子を回す。

 そして促されるがままに行動した、というよりさせられた竹井久は、カラカラと音を立てて回る赤と白の賽子を見つめながら心の中で呟き始める。

 

 

(って……何怖気付いてるのよ私……せっかくの親番なのに!)

 

 

 いくら今の……というよりインターハイ中の彼女の心理状態は極度のプレッシャーから不安定とはいっても、いくら何でもあっさり弱気になり過ぎである。これでは、せっかく見返した愛宕洋榎にまた『木偶』と評されてしまう。何よりこの東二局、残り二回のうち一回という貴重な親番なのだ。

 故に、もっと堂々とした、強気の姿勢で臨まなければならない。もっというなら、今火花を散らしている二人が思わず怯んでしまうくらいの勢いで立ち向かわなくては、あっさりと蹴られて次局に、という事になる可能性だってある。というか、十中八九なるであろう。

 

 

(やってやるわ……!)

 

 

清澄:配牌

{三六①②②赤⑤⑥⑥⑦⑨⑨7白白}

 

 

 そんな彼女の意志に呼応するかのように、彼女の配牌も『攻め』を意識した偏りとなっていた。一枚でドラ二つ分の効力を持つ魅惑の{赤⑤}を十分に活用することができる筒子の混一色が見えるこの配牌、今の竹井久にとっては理想的な陣容であった。

 

 

清澄

打{7}

 

 

(ん……清澄、お前もか)

 

 

 

 対局の始まりを告げる親の第一打。これを受けて愛宕洋榎は、竹井久の『やる気』を感じ取り、瞬時に判断する。竹井久は、本気で来るのだということを。そう判断した愛宕洋榎は竹井久の{7}打ちの意図をもう一度読み取りに行く。

 

 

(……染め手か。そんならドラが絡んどる筒子の方があり得るか?何しろ、早目に阻止せんと止まらんな)

 

 

 初手が一九字牌ではないことから察するに、タンピン系ではないという事は容易に想像できた。既に手が仕上がっているという事も考えられたが、そうだとしても中軸の{7}が切り出されるのは不自然だと考え、その線は除外。そうすると現実的なところで言えば染め手が怪しいという所に思考は進む。そしてそれを悟られてまで進もうとしているのは、高得点が期待できる余程の勝負手。そうなるとドラが絡みやすい筒子での染め手の可能性が高く、またその手も恐らくもって十巡には和了られるだろう。

 竹井久の第一打から自分がツモ牌を確認するまでの、ほんの一瞬でそう予測した愛宕洋榎であったが、(これがシロちゃんとかだったらもっと疑うんやけどな……見かけで判断する、そういうところも反省点やな)とそこまでの推理ができて尚自分に喝を入れる。

 

 

(問題はこれに宮守と永水が気づいとるかどうかやけど……)

 

 

 そうして愛宕洋榎が字牌の{西}を切ろうとして、鹿倉胡桃と滝見春に目を向ける。するとどうやら何方も愛宕洋榎ほどの推理はできてはいないが、竹井久に好調な風が吹いているという事には気づいているようで、(……宮守はともかく、永水も気づいとったか。流石戒能プロの従姉妹やな……)と心の中で呟きながら、{西}を叩きつける。

 

 

(ま、それに気づいてんのならそれで十分や)

 

 

 認識のズレが無いことを確認した愛宕洋榎は取り敢えず一安心して周りの様子を伺っていたが、このとき実は皆の認識は違っていた。愛宕洋榎が気付かなかったというよりかは、愛宕洋榎がズレていたために気付くことができなかったのである。

 当然ながら、愛宕洋榎にとって一番、今乗せてはいけないのは竹井久である。いくら清澄とは点差が離れたといっても、まだまだ逆転し得る可能性がある点差である事は否めない。その状況で今竹井久に好著の兆しが見えたのなら、あと親が一回しかない鹿倉胡桃よりも、要注意せねばいけない人物は竹井久となるのは至極当然の話である。

 が、他の三人……今の話で言えば鹿倉胡桃と滝見春の二人の認識はそうではない。今一番乗せてはいけない人物は、前も今も変わらず愛宕洋榎ただ一人である。ただでさえ前半戦、三対一という数的有利な状況でもあの成績を叩き出した化け物を、竹井久が好調であるからという理由で警戒しないわけがない。むしろ、愛宕洋榎が警戒するほどの好調ならば、三対一……というよりかは竹井久を持ち上げて愛宕洋榎にぶつけた方が早い。そう、彼女ら二人は竹井久を言葉を悪く言えば利用しようとさえ考えているのだ。

 

 

({東}は無いけど……これなら……)

 

 

永水

打{白}

 

 

(あっ、なっ、永水……アホ……!)

 

 

「ポン!」

 

 

 そうなれば、皆そのことを認識はしているものの、その捉え方にズレが生じてしまうのは当然の話である。滝見春が切った{白}を竹井久が鳴き、ただでさえ速く和了に向かえる事の出来る彼女に特急券が行き渡った。

 それを見ていた愛宕洋榎は(何でや……今危ないのが分かっとるなら、初手役牌はアカンやろ……染め手やっちゅうのに……)と疑問に思っていたが、次第に自分と周りの境遇の違いから、再び三対一のような状況が作られた事に気付く。先ほどまでの鹿倉胡桃との応酬からその結束を放棄して殴り合いに来たと思っていた愛宕洋榎であったが、どうやらそれに若干足をすくわれる形となってしまった。が、それに気付いた愛宕洋榎の判断は迅速であった。

 

 

(……結束とまではいかんでも、あくまでも共通認識としてウチは敵ってわけか。前半戦の三対一の時点でそう結論付けるべきやったな。一時的なもんやと読んでたウチのミスや)

 

 

(まあ、そんなら話が早くて助かるわ。そっちがそういう認識なら、ウチが全員叩き潰せばええってことやろ……?)

 

 

 

 そう意気込む愛宕洋榎であったが、同時に三人にそういう共通認識といてそう思われている事が嬉しかったようで、少し上機嫌であった。

 

 

(なんか……シロちゃんみたいな扱いでちょっと嬉しいな……)


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。