宮守の神域   作:銀一色

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第408話 二回戦B編 ⑰ 間一髪

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視点:神の視点

東一局一本場 親:姫松 ドラ{白}

姫松 102300

永水  79700

宮守 119800

清澄  98200

 

 

 

 東一局、挨拶だと言わんばかりに満貫を和了った愛宕洋榎の親は続き、連荘、東一局一本場となる。一つの判断ミスによって手痛い失点をしてしまった竹井久は手でスカートをギュッと握りしめながら、深く深呼吸をする。そう、通用しないのだ。目の前の相手は、愛宕洋榎は言わずもがな常識の通用しない相手である。竹井久の答えを先送りにしようなどという如何にも凡庸、凡人の考えそうな発想では太刀打ちなどできるはずがなかったのだ。

 恐怖を打ち消すかの如く気を落ち着かせようとしている竹井久ではあったが、内面焦りが芽生え始めているのも事実。先ほどの和了で姫松が清澄を抜かしてしまい、清澄は三位に転落してしまったのだ。未だ点差は4000程と、一度の和了で取り返すことのできる点差ではあるが、中堅戦開始時は二万点ほど姫松を離していた点差を一発でひっくり返されたことと、相手が愛宕洋榎という事を考えると心の負担は大きい。

 

 

清澄:配牌

{三七八九③④⑦⑧19東西西}

 

 

(チャンタ寄りにできればもちろんそれで良いんだけど……問題は愛宕さんよりも速く仕上げれるかね……)

 

 

 東一局一本場の竹井久の配牌は前局に比べれば幾分かはマシになっており、チャンタに手を寄せていく事が出来ればそれなりに良い手に仕上がりそうではあるが、今重要なのはスピードである。どんなに高い攻撃力を持ったとしても、相手より先に攻撃できなければ無力に等しい。故にこの状況では竹井久は自身の得意とする『悪待ち』に拘らずに、とにかく和了りに向かいに行った。

 

 

 

(これ以上親番を続けられたらどうしようもない……潰す……!)

 

 

 同じく鹿倉胡桃もまた、愛宕洋榎の連荘を危険視していた。彼女の親をどうにかしてでも蹴らなければ、ジリ貧どころか一方的に毟られるだけである。しかし、あまり鹿倉胡桃の配牌が良いとは言えない。そこで、鹿倉胡桃はチラリと永水の滝見春の方に視線を向けて意思疎通を試みる。すると滝見春が鹿倉胡桃の視線に気がついたようで、コクリと頷いて返答した。

 

 

 

(……良いよ。互いにこのままの状況は良くないし)

 

 

 

(そうこなくちゃ……姫松を潰したいのはそっちも同じだしね)

 

 

 そうして鹿倉胡桃は攻めから永水を和了らせるための戦略にシフトし、鳴けそうな牌を次々と切り出す。そしてそれに応えるように滝見春が鳴きを入れる。まだ序盤ではあるが、この時点でもう二副露と、即興の結託ではあったが中々上手く機能している。

 その光景を見ていた愛宕洋榎は心の中で(……ほーん。取り返しの付かなくなる前に早めに潰しておくってわけやな)と二人が繋がっている事に気付きながらも、(ま、そっちが何しようとウチは和了るだけや。駆けっこといこうやないか)とむしろ受けてたとうといった感じで気にも留めていない様子であった。何故なら、もう既に愛宕洋榎は張っていたからである。

 

 

 

「いくで……二連続リーチや!」

 

 

姫松:捨て牌

{中一東7横⑤}

 

 

 

 しかし、鹿倉胡桃と滝見春の二人掛かりでも先手を取ったのは愛宕洋榎で、今度は七巡目(鳴きで二度ツモを飛ばされて実質五巡目)にリーチをかけてくる。驚異のスピードに打ち拉がれそうになる鹿倉胡桃であったが、どうやらギリギリ間に合ったようで、滝見春が同巡のツモによって聴牌することができた。

 

 

(間に合った……後は、任せた……)

 

 

永水:七巡目

{裏裏裏裏裏裏裏} {⑧⑧横⑧} {南南横南}

 

 

 これで滝見春のできることは無くなった。後は鹿倉胡桃がこれに差し込むだけなのだが、任された側の鹿倉胡桃は責任重大である。いくらある程度予測できるとは言っても、このチャンスを逃せば恐らく愛宕洋榎が一発でツモって終わりであろう。そのワンチャンスが、鹿倉胡桃を追い詰める。失敗は許されない。が、何が正解なのか確信がないというのも事実だ。もしかしたら今の自分の手牌では差し込むことができないのではないか。そういった雑念が一瞬頭の中をよぎるが、負のスパイラルに陥ってはいけないと、鹿倉胡桃は意を決したようで、思い切って{①}を叩きつける。が、その瞬間愛宕洋榎が手牌を倒そうと両手を手牌にそえた。鹿倉胡桃はその動作を見るよりも前に、河に置いた瞬間に感じた雰囲気で悟る。

 

 

(あ……これ、ヤバい……!?)

 

 

 一瞬、走馬灯のようなものが鹿倉胡桃の眼前に展開されたが、それは思いもよらぬ事によって掻き消される。それは、愛宕洋榎ではない。思いもよらぬ人物、竹井久であった。

 

 

「ロン……!頭ハネよ……!」

 

 

清澄:和了形

{七八九①⑦⑧⑨123西西西}

宮守

打{①}

 

 

「……2600の一本場!」

 

 

(あ、危ない……!助かった……清澄!)

 

 

 愛宕洋榎に当たっていたと思われた{①}はどうやら竹井久にも当たっていたようで、間一髪のところで愛宕洋榎の和了を阻止できた。鹿倉胡桃は脱力して清澄に感謝しながら点棒を渡す。今のは和了った竹井久もヒヤッとしていたそうで、鹿倉胡桃は竹井久が手を湿らせていたのが点棒を渡す時に気付いた。

 一方で、竹井久の和了が無ければ和了れていたはずの愛宕洋榎は悔しさを募らせるよりも優先して、しばらく竹井久の捨て牌を凝視していた。

 

 

(清澄の……宮守と永水とは組んでいなかったはずや……ちゅうことは今の和了は偶然か?いや、ちゃうな……偶然やあらへん。清澄、これを狙っとったな……ウチのにも当たっとるとは思っとらんかったようやけど……)

 

 

 直前に河に置かれた捨て牌の{③}を見て、竹井久が今の和了は故意で行ったものであると判断した愛宕洋榎は、感心して竹井久の事を賞賛する。てっきり先ほどの直撃で萎縮していたと読んでいた愛宕洋榎からは、竹井久は死角だったようで、今の和了に少しほど驚いていた。

 

 

(今のは読めへんかったなあ……クソっ、やるやんけ清澄!)

 

 

 が、完敗だったと確信しても尚やはり悔しさよりも楽しさの方が優っているようで、愛宕洋榎は笑顔を浮かべながら竹井久の方を見る。やはりこうでないと面白くないと言わんばかりに。そして一方の和了った竹井久は一安心といったところで胸を撫で下ろすと、鹿倉胡桃に視線を向けて心の中でこう呟いた。

 

 

(危なかった……ギリギリ、ってところね。感謝しなさいよ、宮守)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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