宮守の神域   作:銀一色

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第407話 二回戦B編 ⑯ 保留

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視点:神の視点

東一局 親:姫松 ドラ{②}

姫松  90300

永水  79700

宮守 119800

清澄 110200

 

 

 

 辻垣内智葉が『ここで決着がつく可能性がある』と言ったBブロック準決勝第一試合の中堅戦が始まり、東一局が親番となった、つまりは起家となった愛宕洋榎は指を折り曲げてパキパキと音を鳴らしながら、配牌を取って行く。そして揃った配牌に目を通しながら、心の中でポツリと呟いた。

 

 

(……まあまあ、って言ったところか)

 

 

姫松:配牌

{一三六九九②⑥⑦788西中中}

 

 

 役牌である{中}が対子となっているため、鳴いて和了に向かうこともできれば搭子の多さを活かして門前のまま進めることもできる。ドラである{②}が孤立しているのは気になるが、速さという観点からして見れば愛宕洋榎の『まあまあ(良い)』と言った感想が妥当だろう。

 

 

(宮守との点差がだいたい三万点か……)

 

 

 愛宕洋榎は{西}を一番最初に切り出しながら、頭の中で現在の点棒状況を確認する。数字だけ見れば三万点なのかもしれないが、相手には鹿倉胡桃と、『木偶』でなくなった竹井久がいる。そう考えれば実際の点棒よりも大きく見えるだろう。だが、それはあくまでも常人から見た場合の話だ。少なくとも、愛宕洋榎は大した点差ではないと感じている。

 その上、実際のところトップを走る宮守の鹿倉胡桃はこの姫松との三万点差は決して大きいと感じているというわけではなく、むしろ小さい。小さすぎるといったのが正直なところであった。

 

 

(六年前の時しか見たことないけど……あの時点でとんでもなかったのに、絶対あの頃よりとんでもなくなってる!)

 

 

 鹿倉胡桃は手に汗を握らせながら対面にいる愛宕洋榎の事を見る。最後の記憶が六年前に見たあの頃以来ではあったが、六年前の時点でも鹿倉胡桃の記憶には十分刻み込まれるほど、衝撃的だったのは間違いない。というか、六年前の決勝戦にいたメンバーは総じて常識という物差しでは到底測ることのできない化け物、というのが彼女の評価であるのだが。

 だからこそ、当然不安もある。小瀬川白望とまともに闘うことのできた愛宕洋榎と、自分では果たして勝負になるのだろうか。という不安が。

 

 

 

 鹿倉胡桃が危険視している一方で、当の愛宕洋榎は着々と聴牌へと手を進めていた。彼女のそのスピードはこの卓にいる四人の中で群を抜いて速く、追いつくとか、追いつかないとかそういうレベルの話ではなかった。その証拠に、気がつくと愛宕洋榎は既にゴールテープの手前まで歩を進めていた。この時未だ五巡目の話である。

 

 

(おー……幸先ええな)

 

 

姫松:五巡目

{一二三九九②④7888中中}

ツモ{③}

 

 

 愛宕洋榎はツモってきた牌を{②④}の搭子の間に入れ、面子を構成させると今度は{7}を手に取ろうとし、ピタッと手が止まる。その不自然な動作に彼女以外の三人が気付くが、彼女側からはそれに気が付いておらず、心の中でこの手はリーチでいくか否かを思案していた。

 

 

(……ま、景気良く行っとくか)

 

 

 色々考慮した末、愛宕洋榎はリー棒を取り出そうとする。その動作に三人は動揺を隠せず、驚きの目で見つめていたが、彼女はそんなこと御構い無し、気にも留めないといった感じでリー棒を置くと、「出鼻挫きリーチ!」と声を掛けて牌を横に曲げた。

 

 

 

(はやい……対応ができない……)

 

 

 永水の滝見春は愛宕洋榎の異常な速さに対応が追いつかず、困り顔になりながらも安牌の{⑦}を切る。最下位の永水としては早く点棒を取りかしたいところではある。とはいえ、ただでさえ格上の相手に、しかも五巡目の親リーに対して不利な状況下での勝負は選択できなかった。期待できる手でもないのでここはオリが賢明な判断だったのだが、竹井久と鹿倉胡桃にとってはそうはいかなかった。

 

 

(分かってはいたけど、それにしても五巡目……キッツイわね)

 

 

清澄:五巡目

{四五八②③⑥⑨11赤5東東中}

ツモ{中}

 

 

 同巡、竹井久は{中}をツモって一歩前進する。が、とは言っても未だ三向聴。それに比べて愛宕洋榎はもう既に張っているのだ。普通ならば永水と同じくオリを選択するのが賢い選択なのだろう。が、永水とは状況が違うのだ。

 永水は追う側であるから無理はせずとも時期を見計らうことができる。が、追われる側の竹井久にとっては違う。ただでさえ相手は数段上手のバケモノである。そんな相手に易々と先手を与えることは許されない。これで連荘などということになれば、それこそ先の次鋒戦、或いはそれ以上の独壇場となりかねない。故にここで断ち切りたいのだが、いかんせん手が芳しくないのもまた事実。ここで勝負を仕掛けるのは些か無謀と言えるだろう。

 そういったジレンマに悩まされる竹井久であったが、仕方なく決断を下し、愛宕洋榎の捨て牌の方をチラと見ながら、今対子となった{中}に手をかけた。

 

 

姫松:捨て牌

{西六⑦⑧横7}

 

 

 

(……ここは一旦様子見。安牌無いし……まさかダブ東の{東}は切れないし……これが最善だわ……)

 

 

 いや、正確に言えば竹井久の下したそれは決断とは似て非なるものであった。

 確かに、彼女の下したものは一見理にかなっていると思われる。というか、彼女は実際そう思っている。だが、それは少し違う。彼女の様子見はいわば、保留。決断を迫られたのにも関わらず答えを先送りにする保留と言っても過言では無かった。安牌が無いこの状況ではあるが、オリでもなければ攻めでも無いどっちつかずな一打。{中}の対子落としにでた。これならばオリにも行けるし攻めにも行ける。まさに暁光への道。一石二鳥の一打。そう思って放った一打であったが、そんな幻想から覚まさせるかのように愛宕洋榎は手牌を倒した。

 

 

姫松:和了形

{一二三九九②③④888中中}

清澄

打{中}

 

 

「悪いな……リーチ一発中ドラ一。12000や」

 

 

(そんなっ……!?)

 

 

「木偶じゃなくなったようやけど、それじゃまだまだ甘いわ……ウチの親を蹴ろうと思ってんのなら、死ぬ気で来た方がええで……?」

 

 

 

 

 

 


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