宮守の神域   作:銀一色

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第405話 二回戦B編 ⑭ 戦意喪失

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視点:神の視点

東一局 親:清澄 ドラ{2}

清澄 124900

永水  82100

姫松  92900

宮守 100100

 

 

 

 

「……しっかし、ホンマなのか?さっきのは」

 

 

 二回戦Bブロック第一試合、次鋒戦の後半戦が始まった。姫松の控え室では、末原恭子が前半戦と後半戦のインターバルで愛宕洋榎が真瀬由子に話していた事について本当なのかどうか尋ねていた。それを聞いた愛宕洋榎が「ん?そりゃあ……なんでウソを言わなあかんねん」とさも当たり前のことのように返す。

 

 

「いや……にしても、信じられへんよ。『前半戦での留学生の打ってた麻雀は忘れろ』って言われても……」

 

 

「……まあ、ウチも前半戦が終わる直前まで悩んでたけどな。でも確実や。確実に前半戦のあの留学生の麻雀はワナやな。ハメにきとるわ」

 

 

 愛宕洋榎はそう言うが、未だにその言葉に納得できていない愛宕絹恵が「そう言うてもなお姉ちゃん……理由はあるんか?」と問うが、そう聞かれた愛宕洋榎は「そんなんあらへん。勘や、勘」と答えた。その答えを聞いた皆は呆れ顔で「はあ!?」と言うが、愛宕洋榎は「なんや、ウチの勘が信じれへんのか?」と逆に質問する。

 

 

「いや、そう言うてもですね……」

 

 

「というか、そんな一々根拠を待ってたら置いてかれるで?相手はあの留学生なのは間違いないけど、視点を変えれば実質シロちゃんみたいなもんなんや。シロちゃん相手にそんな証拠やら根拠、理由を待っとったら確実に勝てへん。そんななら、まだ直感に身を任せた方がマシや。それに、今回のは確実に当たっとる。せやから安心しいや」

 

 

 そう愛宕洋榎が熱弁していると、モニターに映る対局室では早速勝負が動きはじめた。エイスリンがリーチを宣言して牌を曲げるのを見た末原恭子は「ほ、ホンマや……戻っとる……!変わってなかったんや……やっぱり……!」と、エイスリンの手牌と捨て牌を見ながら驚きの声を上げる。他のメンバーも、驚いたような表情でモニターを見つめ、その後愛宕洋榎の方に視線を向けた。

 見事に直感が的中した愛宕洋榎は少し誇らしそうな顔で「な?言った通りやろ?」と言う。愛宕洋榎の麻雀以外の面を日常的に見てきた姫松メンバーは心のどこかで若干忘れかけていたが、愛宕洋榎もまた侮る事のできない正真正銘のバケモノなのだということを再認識させられた瞬間であった。

 

 

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視点:神の視点

東一局 親:清澄 ドラ{2}

清澄 124900

永水  82100

姫松  92900

宮守 100100

 

 

 

宮守:和了形

{二二二三四五六七八赤⑤⑥⑦7}

ツモ{7}

 

 

「ツモ!1000-2000デス!」

 

 

 

(は……!?)

 

 

 同じく対局室でも驚きの表情を浮かべている者がいた。それは言うまでもなく染谷まこの事であり、染谷まこはエイスリンの和了形と捨て牌を照らし合わせると、ようやく事態を理解できた。前半までエイスリンは完全に牌効率を、いわばデジタルに徹した打ち方を続けてきた。当然、染谷まこはそれに照準を修正したのだが、なんと言うことだろうか。今和了った形は牌効率でもなんでもない。デジタルのデの字も無いような一直線な和了。牌効率を無視した、最高速度で駆け抜けていったのだ。

 その衝撃の事実に気づいた染谷まこは当然、困惑する。なぜ、牌効率を無視しているのだ、前半戦までの打ち筋は一体なんだったのか、もはや困惑を通り越して混乱していた。一体何をどうすればいいのか、頭が正常に働かない。真っ白なまま染谷まこは点棒を払い、東二局となるが、今の彼女は若干戦意を喪失していた。今まで自分が収集してきたデータを積み重ねて自分という雀士を構成している彼女にとって、この裏切りは果てしないものであった。

 まさか、自分は今までトリックにはめられていたのか。……そう気がつくことができれば、いや、一瞬でも頭の中に思い浮かぶことができればまだ楽だったのかもしれない。だが、彼女の思考はそこに行き着く前に墜落してしまった。どうすればいいのか、何をしたらいいのかグチャグチャになってしまい、挙げ句の果てには自分の手牌で何を切るかにすら悩む始末であった。

 

 

(これは……恐ろしい。もはや競技じゃないですね……言うなれば戦闘。本気で潰しにかかってきてますね……)

 

 

 正常に闘うことができなくなる程にまで追い込まれた染谷まこを見て、狩宿巴はゾッとする。エイスリンに対してでは無い。こんな恐ろしい事を企てたのが一体誰かなのは容易に想像がつく。やっていること自体はそんなに恐ろしいものではない。だが、それを一番ダメージが入る相手に、的確なタイミングで仕掛けること。これが一番恐ろしいのだ。凡人なら何気ない事でも、彼女の手にかかれば人を狂わせる武器へと変貌する。その事に対して驚きや感嘆を通り越して、底知れぬ恐怖を全面的に感じていた。それはそうだ。隣にいる人間が目の前で心を叩き折られている姿を見れば、誰でも恐ろしいと感じるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

「……始まった」

 

 

「始まった?」

 

 

 そしてその様子を見ていた小瀬川白望は笑みを浮かべながらそう呟く。臼沢塞は何が始まったのか小瀬川白望に尋ねると、小瀬川白望は「……ここからは、エイスリンの独壇場だよ」と返す。するとエイスリンは怒涛のような和了を繰り返し、遂に二万点ほどあった清澄との点差をゼロにし、一位を奪還した。結局、終わってみればエイスリンの一人浮きで、姉帯豊音の無念を晴らすことができたと言える内容だった。エイスリンは意気揚々と控室に戻ってくると「トヨネ!カタキ、トッテキタ!」と姉帯豊音に向かって言う。

 

 

「うんー……ありがとうー……で、でも……」

 

 

 姉帯豊音が何か言いたげにしていると、小瀬川白望は疑問そうに「……どうしたの?」と問う。

 

 

「染谷さんが……少し可哀想だったかなー……なんて」

 

 

「ああ……まあ……それはね」

 

 

 鹿倉胡桃がそう呟くと、臼沢塞と顔を合わせる。流石に戦意を喪失していた染谷まこを見ていて優しい姉帯豊音の心にくるものがあったのだろうか、ちょっと申し訳なさそうにする。が、小瀬川白望は「まあ……仕方ない。ああでもしないと相手は降りないから……」と付け加える。容赦のない小瀬川白望を見て自分に刻み込まれた小瀬川白望のトラウマを思い出したのか、姉帯豊音は少し背筋を凍らせていたが、そんなこと小瀬川白望には通じるわけもなく、中堅戦に出る鹿倉胡桃に対して「……相手はあの洋榎。小細工は通用しないと思うけど、頑張ってね」と告げていた。

 

 

 




次鋒戦はあまりというか殆ど描写がなく終わってしまったですね……

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