宮守の神域   作:銀一色

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第404話 二回戦B編 ⑬ 照準

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視点:神の視点

南二局 親:清澄 ドラ{⑧}

永水  83600

清澄 121800

宮守 102500

姫松  92100

 

 

 

 激戦走る対局から少し所変わって比較的穏やかな観戦室では、並みいる強豪校が挙ってBブロック二回戦第一試合の次鋒戦を観戦していた。そしてその中で臨海女子のメガン・ダヴァンが試合を見ていて疑問に思ったのか、隣で腕を組んでいた辻垣内智葉にコソッと周りに漏れぬよう小さな声でこう喋り出した。

 

 

「アノ留学生の子……牌譜の時とは違う打ち筋ですネ……シロサンの策でしょうカ?」

 

 

「ん?ああ……あれはブラフだよ」

 

 

 辻垣内智葉がそう呟くのを聞いていたのか、仰天していたメガン・ダヴァンを差し置いて『留学生の子』ことエイスリンと同じ次鋒を任されている郝慧宇が「ブラフ……どこでそう思ったんですか?」と問う。

 

「よく考えてもみろ……あの留学生はここまでで和了ったのは一度だけ。まだたったの一回しか和了ってないんだ。地区大会ではあのインハイチャンプ(宮永照)を抜いて和了率一位のヤツが、インハイで急に和了れなくなったなんて話あるわけないだろう。それがシロのチームメイトなら尚更だ」

 

 

「……ということは、わざと変わったように見させてるのでしょうか?」

 

 そう郝慧宇が思考を回転させながら呟くと、辻垣内智葉は「だろうな。ちょうど『打ち方が変わった』って思うような引っかかりやすい奴でもいるんだろ」と肯定する。そんな話を聞いていたメガン・ダヴァンは辻垣内智葉の考察を聞いて(ヤハリ、サトハは恐ろしい……味方ながら末恐ろしいデスネ……)と心の中で感嘆していた。確かに、辻垣内智葉の言っていることはごもっともな話である。辻垣内智葉に言われた後では、確かにエイスリンの打ち筋が露骨に見えなくもない。

 しかし、それはあくまでも知っている前提での話だ。その前提を知らなければ、先ほどのメガン・ダヴァンのように打ち筋が変わったと表面的で捉えても仕方ないだろう。というか、それが普通である。が、辻垣内智葉はそれに惑わされず見抜いた。今起こっている事実を確認した上で、吟味して答えに辿り着いたのだ。その慎重かつ正確な思考に天晴れと思っていたメガン・ダヴァンだったが、それと同時に小瀬川白望に対して底知れぬ恐怖を覚えていた。

 

 

(シロサンも……サトハが気付いていたから良かったですケド、そうじゃなきゃ気付かないですヨ……)

 

 

 何という恐ろしいことをしているのだ。そう考えたメガン・ダヴァンは若干身震いする。一度騙されかけていた彼女だからこそ、その恐ろしさを十分に理解できる。普通、常人だったら気付くわけもない。傍観者から見ても騙されたのだ。今エイスリンの相手をしている当事者達が気づくのはもっと至難の業である事には間違いないだろう。

 

 

「まあ……準決勝が見ものだな。まさか同じ手を使っては来るまい」

 

「そうですネ……」

 

 

 

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視点:神の視点

南四局一本場 親:姫松 ドラ{東}

永水  83200

清澄 120600

宮守 101200

姫松  95000

 

 

「……ツモ、1000-2000の一本場じゃ」

 

 

清澄:和了形

{六七八①①⑥⑦⑦⑧⑧⑨68}

ツモ{7}

 

 

 前半戦のオーラス、南四局の一本場では清澄の染谷まこが三十符三飜をツモ和了って前半戦に終止符を打った。そうして前半戦が終了し、対局室内が光で満たされる。すると終わったやいなやエイスリンがすっと立ち上がると、何も言葉を発する事なく部屋を出て行った。この前半戦で、一回しか和了れなかったことに対して彼女は何も思うところは無いのかと疑問に思っていた染谷まこではあったが、(……正直、皆ガツガツ来なくて穏やかだったから助かったわい……)と安堵する。

 もちろん、小瀬川白望の読み通りこの時既に染谷まこはエイスリンの牌効率重視の打ち筋を再リサーチし終わっており、染谷まこは(……どうやら、和みたいなデジタルよりに変えてきたようじゃの……)と心の中で呟く。実はそれはエイスリンの幻影であり、染谷まこは既に策にはまっているとも知らずに、彼女はホッと一安心していた。

 

 

(あの留学生の子、聞いていた話とは違って、やけに大人しかったですね……)

 

 

(なんか不気味なくらい静かだったのよー……)

 

 

 一方の狩宿巴と真瀬由子も、秘策として打ち筋を変えてきたかに見えたのにも関わらず、エイスリンがいやに静かだった事に対して少なからず疑惑を抱きつつあるが、二人の思考は『エイスリンが何故静かだったのか』という所しか見えておらず、既に『エイスリンが打ち筋を変えた』という前提が構築されてしまっていた。小瀬川白望の狙いはあくまでも染谷まこ一人であったが、物の見事に全員を欺いてみせた。

 

 

「シロ、イワレタトオリニ、シタ!」

 

 

 そして控室に戻ってきたエイスリンが開口一番にそう告げると、小瀬川白望は「お疲れ……ご苦労様」とまず労いの言葉をかける。そうして暫くした後、エイスリンに向かって「じゃあ……後半戦は思い切りやってきていいよ」と言う。エイスリンは「リョーカイ!」と敬礼のポーズを取ると、声高らかにそう言った。

 

 

「でもシロ、そうしたら染谷さんに直ぐに気付かれちゃうんじゃない?」

 

 

 そんな小瀬川白望とエイスリンの間に割って入るように鹿倉胡桃が疑問に思った事を伝えると、小瀬川白望はそれも織り込み済みだと言わんばかりに「大丈夫だよ、それに関しては」と即答した。

 

 

「まず、エイスリンの『理想』には決まったリズムが存在する。……リズムっていうか波長っていうか……とにかく、そういったものがある。それはエイスリンのメンタルにも左右されるけど、まあそれは大丈夫として……さっき言った通り『理外の理』や『セオリー外』からの攻撃によってそのリズムが少しでも狂えばエイスリンの能力はてんでダメになる……だけど、逆にリズムさえ狂わなければどうってことは無い……」

 

 

「染谷さんは対局前まで、そのリズムを妨害できるように照準を合わせていた……だからそれを狂わせた。幻影を追わせることによって……そして狂った照準はそう容易く元には戻らない……戻ったように見えても、正確にエイスリンのリズムを狂わせる事はできない……それほど照準というものは緻密で、繊細なもの……元に戻そうとして元に戻るものじゃない……特に、リサーチに重きを置いてる人ほど、その傾向がある……ちょうど、染谷さんみたいに……」

 

 

 小瀬川白望は淡々と説明する。味方だからこそこうして驚きだけで済んでいるが、これがいざ敵だったら、本気で潰しに来る相手であったらどうだろうか。恐怖、いや、もはや言葉で表すことができない。今の説明を聞いていた者全員が頼もしさを感じる反面、恐ろしさ、恐怖を感じ、相手に対する同情さえ抱いていた。


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