宮守の神域   作:銀一色

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第403話 二回戦B編 ⑫ 見せかけ

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視点:神の視点

東一局一本場 親:永水 ドラ{西}

永水  82300

清澄 122700

宮守 108700

姫松  86300

 

 

 

「……もしかして、エイちゃんって能力使ってない?」

 

 時同じくして、次鋒戦の行方を見守っていた宮守のメンバーである鹿倉胡桃が疑問そうに小瀬川白望の服を掴んでそう尋ねる。小瀬川白望が「んー……?」と若干空返事気味に答えると、先ほどまで泣いていた故に目元を赤くしていた姉帯豊音も「確かにー……なんかエイスリンさんらしくないよー?」と同調する。

 鹿倉胡桃や姉帯豊音、そして今エイスリンと相対してる染谷まこが気付いたように、確かに今の東一局のエイスリンの打ち筋はいつもの物とは異なるものであった。その事に対し染谷まこは『打ち筋を変えた』とし、鹿倉胡桃や姉帯豊音は『能力を使っていない』と考えていた。が、どれも小瀬川白望が打った策とは異なるものであった。

 

 

「……そんな感じ。でも細かい事を言うとちょっと違う。狙いはそんなに変わんないんだけど……」

 

 小瀬川白望がそう言うと、臼沢塞は「……じゃあどういう事?」と聞く。小瀬川白望は椅子に深く凭れかかった状態で「……まず、エイスリンに自分の能力を使わないようにさせるのは無理だった」と答える。

 

「無理だった……?」

 

 

「うん……無理だったっていうか……エイスリンのは能力を『発動する』っていうよりも理想を『描き出している』から、多分無意識にやっちゃうのかも……」

 

 

「でも、エイスリンの打ち筋が変わったのは?」

 

 

 臼沢塞がそう口にした瞬間、小瀬川白望は首を横に振って「違う違う……変わってなんていないよ」と返した。その言葉を聞いた皆の頭の上にはどういうことだと言わんばかりにクエスチョンマークが飛び出ていたが、小瀬川白望はこう続けた。

 

「打ち筋を変えたんじゃない……変えたように見せてるだけ」

 

「変えたように……見せる……?」

 

「うん……私がエイスリンに言ったのは、『前半戦は描いた理想を一切合切無視して、牌効率だけ考えて打ってみて』ってことだけ。それ以外何も言ってないし、何もしてない」

 

 

 それを聞いた姉帯豊音は最初は成る程と納得していたが、すぐに新たな疑問が生まれたのか、「でもー……それに何の意味があるのー?」と小瀬川白望に質問する。

 

 

「良い質問だね……確かに、エイスリンの描く理想は綺麗で華麗だよ。そこに関しては随一だと思う。だけど、それ故にセオリー外……理外の理に弱い。もちろん、エイスリン自身にはそんなセオリー外の攻撃に動じはしないから心配は無いけど、能力は違う。能力はそれで全部ダメになる……だから、打ち筋を変えたように見せる必要があった……もうその手は通用しないって牽制するために」

 

 

「……牽制、ねえ」

 

 

「……それに、嬉しい事にその変化に敏感な人がいるみたいだしね」

 

 

 そう言った小瀬川白望がチラリとモニターの方を見る。その視線の移動に気付いた鹿倉胡桃が「清澄の子?」とモニターに今映っている染谷まこの事を見て小瀬川白望に言うと、小瀬川白望は「正解」と返した。

 

「染谷さんは多分そういう変化に敏感な人。それと同時に、セオリー外の攻撃でエイスリンの能力を封じようとした人でもあると思う。だから、この作戦は実質的に染谷さんだけを狙ったもの……」

 

 

「でも、気付かないものなの?」

 

 

「うん、気付かないよ。染谷さんも『エイスリンが対策を講じてきた』って思ってるだろうし、そう思った瞬間にエイスリンの勝ちだよ」

 

 

「……その事に気づいた染谷さんが次に取る行動、なんだと思う?」

 

 

 小瀬川白望が三人に尋ねると、三人はしばらく考えていたが、臼沢塞が「……新たな作戦を考える?」と答える。小瀬川白望は「まあそれもあるけど……その前にもう一つ工程がある」と返した。

 

「その工程は……もう一度エイスリンの打ち筋を調べ直す。この行動に出る……染谷さんの麻雀スタイルがきっとそうさせる……」

 

 

「調べ直すって……どうやって?」

 

 

「調べ直すって言うよりかは……照準を合わせ直すって言った方が良いかな。打ち筋が変わったエイスリンに。対局しながら、その変わった打ち筋のデータを一度再収集するはず」

 

 

 それを聞いていた姉帯豊音が「でもー……それって」と言うと、小瀬川白望は頷き、「うん……実際は変わってない。染谷さんなら後半戦が始まるまでには照準は合わせ直していると思う……エイスリンの幻影に。だから後半戦に元に戻すよ。そうなれば一気に混乱が生じる……染谷さんはもちろん、他の二人も。その混乱の内に一気に和了を積み上げる……そのために前半戦にエイスリンの動きを制限させた」と言う。

 

 

「そんな事まで……その案はいつ考えたの?」

 

 

「……さっき」

 

 

 小瀬川白望の答えに臼沢塞が「えっ?」と返す。ここまで完璧で、欠点の見当たらない恐るべき作戦が練られたのはきっと何日も前の事で、秘策として考察に考察を重ねられた珠玉の作戦なのだろうと思っていた三人からしてみれば驚愕する事であったが、当の考案者はきょとんとした顔で「いや……本当は他の策があったんだけど、それよりも今思いついた策の方が良かったと思ったから。ただそれだけだよ……」と言う。

 確かに、小瀬川白望の言っていることは至極当然でもっともな事なのだが、それでも何とも言えない感覚に襲われていた三人は唖然としていた。しかし、小瀬川白望は少し険しい表情をしながら「でも……これには唯一拭いきれない問題がある」と言う。一見完璧にも見える作戦であったが、本人曰く欠陥があるようだ。

 

 

「何が?」

 

 

「いや……別に今は問題無いんだけど……問題はその次。この作戦の性質上、同じ手はもう使えないって事……まあ、今そんな話できる状況じゃないけど……」

 

 

 そんな事を小瀬川白望が話していると、エイスリンが断么ドラ1でツモ和了った。小瀬川白望の作戦で、前半戦の和了はあまり関係ないのだが、小瀬川白望はそれを見て「良いね……」と呟く。彼女の言う事には、和了ってくれた方がその分染谷まこや他の二人に打ち筋を追わせやすいという理由があり、点棒よりもその事に対して良いねと評したのだ。そんな彼女のことを見ながら、臼沢塞は呆れたように心の中でこう呟いた。

 

 

(相変わらず、咄嗟によくそんな事思いつくよなあ……凄いっていうかなんていうか……見えてる世界が違うわね……)

 


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