宮守の神域   作:銀一色

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第402話 二回戦B編 ⑪ 対策

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視点:神の視点

東一局 親:永水 ドラ{北}

永水  79400

清澄 125600

宮守 108700

姫松  86300

 

 

(……成る程。おんしがあの例の留学生か……)

 

 次鋒戦が始まる数分前、四番目に対局室にやって来た染谷まこはホワイトボードを首に掛けているエイスリン・ウィッシュアートの事を見据えながらゆっくりと卓の側まで移動する。無論、エイスリンだけではなく、永水の狩宿巴や竹井久が危険視していた姫松の真瀬由子の事も視界に入れながら、(……狩宿さんはともかくとして、真瀬さん……かなり不気味じゃのお。何を考えてるか全く読めんわい)と若干真瀬由子の表情を不気味がっていたが、それは表には出さず心に留めておいた。

 

 

(しかし、留学生の……見かけによらず随分と落ち着いとるな)

 

 

 それと同時に、エイスリンが異様に落ち着いていることに対しても少し彼女にとって引っかかるものであった。見かけ上はか弱い少女なのだが、実際にこうして見るとそういったか弱さは全く無く、寧ろ逆、強者の風格というものを感じられた。が、そこまで考えて染谷まこは思い出す。そうだ、何も不思議な話ではない。そのことは牌譜を見た時から分かっていたはずだ、と。

 

 

「ヨロシクデス」

 

 するとエイスリンはやってきた染谷まこに向かって挨拶すると、染谷まこは若干ぎこちなく「お……おう。よろしくじゃけえ」と返す。慣れない日本語を一生懸命使って挨拶したのだろうか。そこに愛嬌が感じられるものの、しかしそれに騙されてはいけない。もはや今目の前にいるエイスリンと、麻雀打ちとしてのエイスリンは別物として考えてもいいだろう。そんな事を頭の中で唱えながら、席決めを始めた。

 

 

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「……どう思う、恭子」

 

 

 そして姫松の控え室では、椅子に凭れかかっている愛宕洋榎がそう質問すると「どう思うって……そら厄介な相手ですよ。特に宮守の留学生は。それでも、弱点があるわけやないですけど」と返す。それを聞いた愛宕洋榎が「そんなもん分かっとる。問題はその弱点を野放しにしとくかって事や」と言う。

 

「野放しにって……そんなもんどうにかできたら弱点やないやん」

 

 

「まあそらそうや。……せやけど、それはあくまでも本人だけの話や。シロちゃんなら、そんな弱点を野放しにするわけない。何かしら手を打ってきてる可能性があるっちゅうことや」

 

 

「……成る程な。確かに、それはあるな。てか、十中八九そうやろ」

 

 

 末原恭子が納得したようにそう呟くと、愛宕絹恵が「でもお姉ちゃん、そうだったら対策打てへんでこっちは」と愛宕洋榎に向かって言う。確かに愛宕絹恵の言うことは最もであったのだが、愛宕洋榎は以外にも「大丈夫や」と返す。

 

 

「あの留学生の場合……弱点の原因は癖なんかやない。多分能力が関係してると思う。そうだとしたらいくらシロちゃんでも改善はできひん。……だから、根本的に改善したっていう線は無いはずや」

 

 

「だとしたら、何があるん〜?」

 

 

 愛宕洋榎の言葉に対して赤阪郁乃が首を傾げながらそう呟くと、愛宕洋榎は「そう、そこや」と言って指さす。

 

 

「根本的解決以外の方法で、シロちゃんが何をしてくるのかは見当もつかへん。でも、確実に何かはしてくるはずや。それだけは100パーセントや」

 

 

「でも……そんなんにどう対応したら」

 

 

 愛宕絹恵がそう言うと、愛宕洋榎は末原恭子の首に肩を回して「だからそれを、前半戦で見抜くんや。そして考える、対策をな。それがウチらの仕事や。せやろ?」と言って末原恭子に聞く。末原恭子は若干びっくりしながらも、「せやな……しっかり見抜いて、由子の助けにならんとな」と返した。

 

 

 

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「ロン、2900です」

 

 

永水:和了形

{一六七八①②③③④赤⑤} {発発横発} {横879}

清澄

打{一}

 

 

「はい……」

 

 

(……この人も神代みたいな事があるのかは分からんけえ、そう思っとったから迂闊に動けんかった……反省せんとのお……)

 

 

 立ち上がり東一局、染谷まこが打った{一}を単騎で待っていた狩宿巴がロン。発赤1の2900をトップの清澄から直取りし、親の連荘とする。染谷まこは神代小蒔のようなことがもしかしたら狩宿巴にも起こるのかもしれないという未知数な恐怖から、若干後手に回ってしまった自分に酷評を下すが、それと同時に得たものもあった。それはエイスリンの打ち筋が牌譜で見たものと異なっていたということだ。

 理由は定かではなく、尚且つまぐれでないとも言い切れないのだが、恐らく牌譜で見た一辺倒に『理想的な和了』を目指す能力、もしくは打ち筋では駄目だと、竹井久のお墨付きである小瀬川白望が改善させたのだろう。そう考えた染谷まこは面倒な事をしてくれた、そう心の中で呟く。

 つまり、そういう打ち筋に変わってしまったという事は初心者などに対しての策であるセオリー外からの攻撃が対策されてしまったという事を意味する。その案を実行しようとしていた染谷まこにとってみれば寝耳に水の事態であったが、逆に考えれば最初に知れてよかったとも取れる。早い段階で知る事が出来たが故に、再度データを収集し直す時間も相対的に長くなる。その上で再収集したデータをしっかりと精査すれば、後半戦が始まる前には新たな欠陥が見つかるはずだ。いくら噂の小瀬川白望と雖も、初心者の打ち筋を完璧にすることなど不可能だ。付け焼き刃なのは間違いは無いだろう。そう思っていた染谷まこであったが、この時既に彼女は策にハマっているという事は、小瀬川白望以外誰も気付いていなかった。

 

 


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