宮守の神域   作:銀一色

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いよいよ400話です。
しかしサブタイトルが被るという……


第400話 二回戦B編 ⑨ 二度寝

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視点:神の視点

東三局一本場 親:永水 ドラ{白}

宮守 138900

清澄 122700

永水  65600

姫松  82800

 

 

 

(今はまだ寝てないから良いけどー……取り敢えず親番を蹴りたいよねー……)

 

 

 後半戦東三局一本場、姉帯豊音は逐一神代小蒔の様子を伺い、常に注意を払った状態で心の中でそう呟く。問題の神代小蒔の二度寝は小瀬川白望曰く『(小蒔が)寝れば分かる』との事だったため今のところは大丈夫だろうと感じながらも、前兆もなくその時がやって来る可能性はゼロとは言い切れないのもまた変えることのできない事実として存在する。

 よって、ここは神代小蒔の親を長引かせるのは賢い判断とは言えない。できるだけ早く神代小蒔の親を蹴りたいと考えていた姉帯豊音ではあったが、姉帯豊音は自分が和了るよりも、上重漫に和了らせた方が早いと判断し、チラと上重漫の捨て牌に目を向けると、姉帯豊音は{③}を切る。

 

「ポンや!」

 

 

姫松:四巡目

{裏裏裏裏裏裏裏裏裏裏裏} {③横③③}

打{九}

 

 

(ドンピシャだよー)

 

 上手く上重漫の事を鳴かせることができた姉帯豊音は少し口元を綻ばせる。席順の関係でチーをさせる事ができないという融通の利かない状況ではあったが、それでも上重漫が鳴くことさえできれば同時に神代小蒔のツモ番も飛ばす事ができるため、チーをさせる事ができないというのは必ずしも悪い方向に働くとも言えなかった。

 

 

(……なるほどな。ウチが和了って親を蹴れって事か)

 

 

 上機嫌になる姉帯豊音を見て、上重漫は姉帯豊音が何をしようとしているのかを察する。

 この状況において、永水の親が怖いのは姫松だけでなく、宮守もそれは同じである。どうにかして親を蹴りたいと考えるはずだ。しかしだからと言って清澄にも目を向けなくてはならない。そこで姉帯豊音は二位につけている清澄よりも、点差が離れて三位の姫松を利用しようという事だ。それに気づいた上重漫は姉帯豊音に上手く使われているように感じて癪ではあったが、この誘いに乗れば自分は和了れることができ、尚且つ危ない永水の親を蹴る事ができると、良い事づくしである。よってこの誘いを蹴るという選択肢は上重漫の頭にはなく、あくまでも一時休戦、という名目で姉帯豊音の支援を受ける事とした。

 

 

宮守

打{南}

 

「ポン!」

 

姫松:六巡目

{裏裏裏裏裏裏裏裏} {南横南南} {③横③③}

打{六}

 

 

(……今ので張ったかなー?)

 

 一巡おいて姉帯豊音が再び上重漫の事を鳴かせる。上重漫が鳴いた後に切った{六}を見て姉帯豊音がそう呟くと、すぐに差し込みの準備に入る。本音は清澄か永水が振り込むか、姫松がツモってくれるかを期待していた姉帯豊音だったが、悠長にそれを待って神代小蒔に和了られては目も当てられない。よってすぐに差し込みに向かった。

 

(んー……ここかなー?)

 

 

宮守

打{二}

 

 

「ロン!南赤1!」

 

 

姫松:和了形

{一三⑦⑦赤567} {南横南南} {③横③③}

宮守

打{二}

 

 

「2000!」

 

 

 そして姉帯豊音が一発で上重漫に差し込んで和了らせる。結局、上重漫は自風牌と赤ドラ一個の2000点しか和了れなかったが、点数以上に危ない永水女子の親を蹴れたという事実が大きかった。ひとまずはこれで注意すべき事は南場での永水女子の最後の親番だけとなり、あとは神代小蒔の二度寝に備えるだけとなった。

 

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南三局 親:永水 ドラ{三}

宮守 141700

清澄 121600

永水  49400

姫松  87300

 

 

 

「ツモ!1000-2000だじぇ!」

 

 

 今の片岡優希の和了によって先鋒戦も南四局、オーラスに突入することになった。しかしオーラスになろうとする直前の南三局でも、未だに神代小蒔の二度寝は起こらずにいた。その事によって徐々に三人に『もしや不発か』という安心感が生まれ始め、オーラスを前にした今はその安心感が極限になった。もちろんその安心感、安堵感は控え室にも伝播し、鹿倉胡桃が少し杞憂だったと言わんばかりに小瀬川白望に「……神代さん、もしかしてこのまま二度寝しない?」と言う。が、こと小瀬川白望に限りその安堵感には浸らない。小瀬川白望は目を細めながら、こう答える。

 

「……いや、それはない。最後の最後……オーラスに必ず来る」

 

「で、でも寝そうな感じはしな……」

 

 臼沢塞が言いかけた瞬間、画面越しからでも分かるほどに対局室の場の空気が一変する。臼沢塞らは驚いて画面に映る神代小蒔の事を見る。何が変わっているか、と言われれば具体的に答えることはできない。が、明らかに神代小蒔に何か異変が起こっていることは分かった。小瀬川白望は少しほど険しい表情を浮かべながら、心の中でこう呟く。

 

(……オーラスの頭……一番面倒な時に来たなあ)

 

 小瀬川白望の言う一番面倒な時がオーラスである理由は単純で、先鋒戦がそれで終わってしまうからである。これがオーラスで無ければ、姉帯豊音が仮に振り込んだとしても挽回できるチャンスはあるが、オーラスとなればそうもいかない。全体の収支という観点から見て仕舞えばどちらでも変わらないようにも思えるが、実際はオーラスかオーラスでないかで大きく変わって来る。心境的にも、状況的にも影響が出て来るのだ。そういった意味で、オーラスで勝ち逃げのような事をされると非常に面倒なのだ。

 小瀬川白望が前に神代小蒔と打った時は直ぐに二度寝が起こった事から、前半戦が終わった時に姉帯豊音から報告を受けた時点での小瀬川白望はこの展開になる線は薄いと踏んでいたが、実際はこの展開となってしまった。これに関しては明らかなる小瀬川白望の判断ミスではあったが、その可能性を考慮したとしても、どちらにせよ姉帯豊音が使えそうな対策はあるわけもなく、それにもうどうしようもする事はできない。姉帯豊音が上手く立ち回ってくれる事を期待するしかないわけなのだが、

 

 

「ロン……32000」

 

 

 姉帯豊音が捨てた{中}に対して、神代小蒔が……いや、神様は無情にもロンと発声して手牌を倒す。それを聞いた小瀬川白望は顔に手を当てながら溜息をつくと、心の中でこう呟いた。

 

 

(これで二位転落か……やっぱり一筋縄じゃいかない。退屈しないね……)

 

 


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