宮守の神域   作:銀一色

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第399話 二回戦B編 ⑧ 緊張感

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視点:神の視点

先鋒戦前半戦終了時

清澄 111900

宮守 126800

姫松  87100

永水  74200

 

 

「ありがとうございましたー」

 

 

 先鋒戦の前半戦を終え、東場こそ清澄が一位であったが、南場で片岡優希が失速するのに合わせて姉帯豊音が追い上げ、見事首位を奪取して折り返した姉帯豊音は一人意気揚々と挨拶をして上機嫌そうに卓を後にしようとする。それと対照的に、南場で失速した片岡優希と見せ場がなかったどころか宮守と清澄の上二校と点差をかなり離されてしまった上重漫はどこか心が沈んでいるような表情で椅子から立ち上がろうとする。

 するとその時、対局室から引き上げようとした三人の耳に久しく聞いていなかった者の声が聞こえた。それは神代小蒔である。神代小蒔はまるで先ほどまで意識がなかったかのように突然声を上げる。周りから見れば奇妙な事この上ない話ではあるが、神代小蒔は先ほどまで眠っていたので、いつのまにか前半戦が終わっていた事に対して驚くのは仕方のない事だろう。

 

(……点棒、減っていますね)

 

 目が覚めた神代小蒔が不思議そうに自分の点棒状況を確認していると、近くにいた上重漫が「どうかしたんか?神代さん」と声を掛けると、神代小蒔は少し恥ずかしそうに「いえ……少し眠っていたようです……」と答える。その瞬間、神代小蒔以外の者の表情が険しくなる。

 

「……ですが、これからは全力以上で当たらせてもらいます!」

 

 神代小蒔はそう言って両手をグッと握るが、神代小蒔が眠っていたという事実を知ってしまった彼女たちにはもはや聞こえておらず、姉帯豊音も(……これは早くシロに報告しないと行けなさそうだねー?)と心の中で呟くや否や、すぐに対局室から出て行った。

 

 

 

 

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「成る程……遂に寝たのかあ……」

 

「何か対策はあるのかい?」

 

 そうして姉帯豊音が控室に戻ってきて神代小蒔が遂に眠ったという事を伝えると、小瀬川白望は少しほど困ったような表情を浮かべる。熊倉トシが小瀬川白望に何か打開策があるかどうかを尋ねるものの、小瀬川白望は「仏滅が効かないんじゃ……豊音じゃどうしようもないね」と呟く。

 

「そ、そんな……何とかならないの?」

 

 小瀬川白望にしては珍しい諦めともとれる発言に対して臼沢塞がそう言うと、小瀬川白望は「まあ落ち着いて……小蒔のはそう何局も使えるようなものじゃない。一、二局もすれば大人しくなる……」と返した。

 

「それに、真正面から封じ込むことができなくても、逸らすことならできる……豊音、小蒔が二度寝したらあまり下手に動かない方が良い。多分仏滅も効かないだろうし、それにただでさえ今トップなんだから、変に動けばあっちは優先的に狙ってくるはず……」

 

 

「わ、分かったよー……」

 

 

 姉帯豊音にそう助言した小瀬川白望は姉帯豊音を再び対局室へと送り出すと、頭の中で思考を巡らせながら深々と椅子に凭れこむ。それを見ていたエイスリンが「ナニ、カンガエテルノ?」と声を掛けると、小瀬川白望は「あー……いや、別に……」と素っ気なく答える。しかし、小瀬川白望の頭の中はこの先鋒戦、いや、この勝負の行方まで思考を働かせていたのだ。

 

(小蒔が二度寝するとして……豊音に役満直撃とかになったら結構ダルいな……基本的に、永水の皆は何してくるか分からないからなあ……ここで逆転されると後々面倒……)

 

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「参ったわね……」

 

「色々と、マズいことになってきたのお……」

 

 一方、片岡優希から神代小蒔が一度目の眠りに就いたという証言を受け取った清澄の竹井久は少々困ったような表情を浮かべながらそう呟く。事の重大さに気づいていない須賀京太郎が「何がマズいんですか?元々想定内なんじゃ……」と声を掛ける。確かに彼の言う通り事前に神代小蒔の二度寝は確実に来るだろうと予想はしていた。だが、その時期が少々想定外だったのだ。

 

「……後半戦の東風に神代さんの二度寝が来る可能性が高いからよ。そうなった場合、優希の稼ぎ場である東風戦がそれ一発で吹き飛ぶなんて事もあるからね……相当の痛手よ」

 

 

「な、成る程……」

 

 須賀京太郎が納得したようにそう呟くと、竹井久は少し緊張したような顔付きで頭を抱える。そうして吹っ切れたのか、深く深呼吸をすると、「……よし、頑張らないとね!」と、清澄メンバーに向かって言う。それに原村和と宮永咲が応えるように「はい、部長!」と声を出す。それを見ていた染谷まこは、若干呆れたように笑うと、心の中でこう呟いた。

 

 

 

(まったく……本当はガクガクに緊張しとるくせにのお……)

 

 

 

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視点:神の視点

東三局 親:永水 ドラ{⑨}

宮守 130900

清澄 124700

永水  59600

姫松  84800

 

 

(ようやく親番……頑張らないと……皆に迷惑はかけられません……)

 

 

(今んところは静かやな……もっと早めに来るもんやと思っとったけど……)

 

 

 永水女子以外の皆の心配とは裏腹に、後半戦のスタートは随分と穏やかなものであった。いや、穏やかというとそれも少し違う。前半戦のように片岡優希が東風という事で突っ走り、またそれを姉帯豊音が追いかけるという構図は前半戦のままであった。が、三人が危惧していた神代小蒔の二度寝は東三局の今も未だ起こらず、そう言った意味では平穏と言える状況であった。しかし、その中々起こらないというのが逆に三人の緊張を生み、いつ神代小蒔の『二度寝』が来るのかという事で心配していた。

 その一方で神代小蒔は、前半戦終了時から更に削られてしまった事でどうにかしなければいけないと自分を鼓舞し、賽を回す。

 

 

 

 

 

「あ、ツモです!」

 

 

「「「!!」」」

 

永水:和了形

{一二三四五六七八九②②西西}

ツモ{西}

 

「2000オールです!」

 

 

(寝てないのは分かっとるんやけど……分かってても怖いなあ……おっかないわ……)

 

 

 神代小蒔からの発声に若干怯えていた上重漫はそう言って溜息をつく。やはり相当のプレッシャーを感じているようで、彼女の手は少し湿っていた。同じく姉帯豊音と片岡優希も、しきりに神代小蒔の様子を探っている。一方の神代小蒔は、積み棒を置いて意気込むようにこう言った。

 

「……では、一本場、参ります!」


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