宮守の神域   作:銀一色

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第388話 二回戦A編 ㉛ 支配

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視点:神の視点

東一局 親:千里山 ドラ{7}

千里山 185000

劔谷   89100

越谷   32300

阿知賀  93600

 

 

 

(清水谷さんが起家……暴られる前に攻めて流さないと……)

 

 運命の大将戦、前半戦は185100点という驚異の点数を叩き出しているトップの千里山の親から始まることとなった。もちろん、ダントツ最下位の越谷にとっても、あとほんの少し、もう少し点棒を積み上げれば二位浮上することのできる劔谷にとっても、その劔谷と4500点差しかなく、切羽詰まっている状況である阿知賀の高鴨穏乃にとっても千里山の親というものはさっさと流すに越したことはないという共通意識があるのは言うまでもないだろう。強いて言うなれば、清水谷竜華が暴れて唯一得をする可能性があるのは阿知賀ではあるが、そこまで事がうまく進むわけも無い。

 一方の千里山の清水谷竜華も、もはや一位通過はほぼほぼ確定したこの状況下でも尚気の緩みを見せるつもりはなく、まるでギリギリの状態で闘っているのかと錯覚を受けてしまうくらいに圧を発していた。

 

 

千里山:配牌

{一一六六八②⑦⑨349中発発}

 

 

(……確かに、これだけ点差があったらもう前哨戦みたいなもんやけど……気をぬくつもりは毛頭無いで。全力で頑張らんと)

 

 そう、清水谷竜華の言う通り二位の阿知賀に対しても10万点近く離しているこの状況で、もはや清水谷竜華がこれ以上頑張る必要は全くなく、前哨戦どころか清水谷竜華にとっては余興のようなものであるのだが、彼女は一切油断も隙も見せるつもりはないのである。そこには先鋒戦から副将戦まで闘っていたチームメイト、そして今目の前にいる相手への敬意があった。敬意を払って、その上で全力で闘う。それが彼女にとっての麻雀に対する、勝負に対する意識であった。

 

「ツモ!1300オール」

 

千里山:和了形

{一一六六六⑦⑨34赤5} {発横発発}

ツモ{⑧}

 

 

(なっ、も、もう……?)

 

 高鴨穏乃は驚いた表情でツモ和了った清水谷竜華の事を見る。たった六巡での和了。まだまだこれからだというところでの突然の和了。全く聴牌気配がしなかった。清水谷竜華が和了りそうだという場の空気も、予兆も、何もなかった。皆が字牌整理や方針を組み立てている間に、清水谷竜華は既に銃口を向けていたのだ。一人だけ、生きている時間が違う。高鴨穏乃はそう悟った。

 園城寺怜でも、江口セーラでもない。一番脅威となるのは未来予知でも、超高火力でもなく、今目の前にいる雀士であるという事を高鴨穏乃は悟った。いや、悟らされた。

 

(この人が……千里山で一番ヤバい……!)

 

 そう悟った高鴨穏乃は思わず震える。それが恐怖によるものなのかは説明できないが、とにかく震えが止まらなかったのだ。それと同時に、脳裏に浮かび上がる『負け』の二文字。そう、このままでは確実に負ける。それを予感したのであった。

 

(考えろ……!このままじゃただ一方的にやられるだけだ!)

 

 が、高鴨穏乃はそれに絶望することはなく、どうしようもない恐怖に相対した時の常人の逆の行動、恐怖にただ慄くのではなく、どうすればこの恐怖を打ち払う事ができるか。それを考えていた。高鴨穏乃の焔は未だ消えていないどころか、むしろその悟りが燃料となって更に激しく燃え盛った。

 高鴨穏乃はお世辞にも頭は良いとは言えない。同級生の新子憧と比べると、勉学だけで言えば天と地の差ではあったが、この時の彼女の思考回路は常人のそれを大きく上回っていた。野生の思考とでも言うのであろうか、はたまた本能とでも言うのであろうか、絶対的強者を目の前に据えた彼女はもはや、『インターハイで勝ち進んで原村和と闘う』といった兼ねてからの目的など思考の外であり、『清水谷竜華を倒す』というシンプルな生存本能によってでしか頭を働かせていなかった。

 

(イメージするんだ……この人を倒すには何が足りないか……!)

 

 そして高鴨穏乃は頭の中を思いっきり回す。記憶の隅から隅まで、あらゆる事を思い浮かべて、今目の前にいる清水谷竜華と闘うための武器かどうかを考える。膨大な力量差を雀力の向上で埋めるにはあまりにも遅すぎる。彼女が欲しているのは革命的アイデア。何か、清水谷竜華に勝るもの、清水谷竜華と対等に渡り合えるもの。そしてその膨大な記憶の中で、彼女はとうとう見つけた。

 

 

(そうだ、小瀬川さん……)

 

 そう、彼女が記憶から選んだのは小瀬川白望。思えば、彼女は小瀬川白望に驚かされっぱなしであった。最初に出会った時も、そしてこの前会場で見かけた時も、終始驚いていただけであった。

 高鴨穏乃は小瀬川白望と打った時の古い記憶を蘇らせる。まるで牌と会話ができているかのような流れの読み、相手の思考の誘導、そしてあの身も凍るような威圧感。小瀬川白望が卓上を全て支配しているかのようであった。

 

(支配……全てを支配……!)

 

 高鴨穏乃は小瀬川白望からヒントを得る。そう、卓の支配。全てを思うがままに操る、絶対的支配。無論、小瀬川白望は実際に卓を支配するようなオカルトを持っているわけではなく、卓越した技術と不屈の精神、狂気によって支配しているように錯覚しているだけであり、実際本当に支配しているわけではない。……もっとも、小瀬川白望のソレは支配よりもタチが悪いのだが。

 高鴨穏乃はそのヒントを胸に、一度深呼吸する。この時点で彼女に恐怖などは毛頭なく、あるのは焔。燃え盛る静かな激情のみである。決して傲慢でなはなく、全てを支配するという確信。それを持って彼女は清水谷竜華に対峙する。

 

 

(阿知賀……なかなか面白いことになってるやん)

 

 それを受けて清水谷竜華は素直に評価する。突然の思いつきであったとしても、確かに高鴨穏乃のソレは支配であることに変わりはない。まるで山、轟然と、しかし凛と聳える山を目の前にしているような錯覚を受けるほどのものではあったが、それで動じるほど清水谷竜華もヤワではない。当然の事ながら、清水谷竜華も小瀬川白望という雀士を知っている。高鴨穏乃が小瀬川白望から答えを見つけ出したとしても、その元を知っている清水谷竜華にとって然程これは驚くには値しないものではあった。が、それでも高鴨穏乃の事を評価するとと共に、本格的にエンジンをかけるキッカケとなった。

 

(……ええよ。受けて立ったる。ウチの力とアンタの支配……どっちが強いか甲乙つけようや……!)


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