宮守の神域   作:銀一色

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リクエスト回です。


宮守の神域 リクエスト その4

宮守の神域 リクエスト その4

 

 

 

 

 

 

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リクエスト:宮守女子高校の日常

 

 

 

 

「……寒っ」

 

 

年の瀬も押し迫ってきている師走の今日、日本の東北地方に位置するここ岩手県の外では、朝っぱらから雪が降っていた。寝癖を立たせながら私がベッドから身を起こすと、寝る時布団もシーツもかけていたのにも関わらず、体は冬の寒さにあてられて、思わず体を震えさせてしまいそうなほどすっかりと冷えていた。今日は両親が朝早くから仕事があるらしいので既に家には居らず、私一人だった。……まあ赤木さんも居るから一人では無いのだが、死んだ人をカウントするのはどうなのだろうか?

 

部屋のデジタル時計に目をやると時計は8:00を示していた。今日は土曜日とあって学校はなく、しかもあいにく今日は部活がない。なのに何故小瀬川がこんなにも早く起きているのかというと、今日は客人が来るからである。同じ麻雀部の塞、胡桃、豊音、エイスリンが今日私の家にやってくる予定だ。何故そうなったかは昨日、金曜日に遡ることとなる。

 

 

 

 

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部室

 

 

「ロンだよー!リーチ一発ドラ1で5,200!」

 

 

「ナイス!トヨネ!!」

 

 

豊音がエイスリンのリーチに対しての追っかけリーチ、いわゆる豊音の能力である『先負』によって追っかけてから一発で討ちとる。場は既に南四局のオーラスであり、豊音は今の5,200で私に逆転できる手だ。振り込んだエイスリンが喜んでいたのは何故かというと、この対局……というか近頃は私を除く他三人の協力体制のもと、私を二位以下にするというノルマを熊倉トシ先生から課せられている。ただでさえ厄介な豊音の『先負』を始めとした『六曜』を駆使されては結局困ったことになる。事実この5,200であわや二位という状況にある。

だが、残念ながら私にもエイスリンの切った牌は当たっている。そして私はエイスリンの上家。つまり頭ハネだ。

 

 

「ロン。頭ハネ……12,000」

 

 

「え、ええー!?」

 

 

私は手牌を倒して申告する。すると豊音は悔しそうにばったりと卓に倒れかかる。豊音からしてみればやっと私に勝てそうだと思っていたのに、それをあろうことか私に潰されてしまったので豊音は190cm以上は余裕である体の全体を使って本気で悔しがっていた。

 

 

「またシロに負けちゃったー……今日も結局勝てなかったよー」

 

 

「シロ、ハンソクキュウ!」

 

 

「・・・三人がかりで勝てないってどういうことなの……」

 

 

その豊音に続くようにエイスリンと胡桃もぐったりと姿勢を崩す。それを部室内に設置されてあるソファーから塞と熊倉先生、赤木さんが眺めていて、対局が終わったとなると熊倉先生が立ち上がって私達に帰るように促そうとする。

 

 

「またシロの勝ちかい?……まあ今日はもう終わり、また来週だね。あんまり遅いと親御さん達が心配するからもうお帰り」

 

 

それを聞いた私達は、帰る支度を次々と始めた。すると、支度をしている途中、塞がふとこんなことを熊倉先生に向かって質問した。

 

 

「熊倉先生、明日部活はあるんですか?」

 

 

その質問に対して熊倉先生は何かを思い出すような仕草をして、頭の中で考えている。

 

「無いわ。明日はお休みだよ」

 

 

それを聞いた塞は、嬉しそうな声で私達に向かってこう言った。

 

「よし、じゃあ……みんな!明日シロの家に集合!」

 

「えっ」

 

「やったー!シロの家でパーティーだよー!!」

 

「シロノオウチ!イク!」

 

「ちょっと待って」

 

「久々だなー。シロの家、ちゃんと掃除しておきなよ!」

 

 

 

【……相変わらず人気者ってのは不便だな。熊倉さん】

 

「そうだね……私もあと20年若ければ惚れていたよ」

 

 

 

 

 

「……ダル」

 

 

 

 

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なんてことがあり、家に来ることになったのだ。……塞の強引さもそうだが、それを受け入れて昨日ちゃんと部屋の掃除をした私もアレである。

 

確かその後メールでやり取りした結果朝の九時集合になったはずだ。携帯のメールの履歴を確認したがやはりそうだった。朝っぱらからよく人の家に来れるな、流石若者と内心あの四人を尊敬しながら、飲み物やお菓子を淡々と用意していく。

 

 

(……そういえば炭酸とか飲めたっけ、豊音とエイスリン)

 

飲み物を冷蔵庫から出していく途中、そんなことを考えた。塞と胡桃は昔から私の家に来てるから好みの飲み物とかタブーなのとかは知っているが、豊音とエイスリンに関してはあまり分かってはいない。見た感じ豊音もエイスリンも炭酸系が飲めなさそうなイメージで、しかも冷蔵庫にジュースと呼べる物は炭酸系の飲み物しかない。流石に私ら三人で豊音とエイスリンだけ麦茶……なんてことはあんまりだろう。

 

私は窓から見える風景をじっと見つめる。外は相変わらずの雪景色であり、今も尚上空から雪という名の爆撃が続いている。だが、豊音とエイスリンのためだ。仕方ないと腹を括り、防寒着に防寒着を重ねて、パパッと飲み物を買うべく、靴を履いたのであった。

 

 

 

 

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(豊音とエイスリンのため……豊音とエイスリンのため……)

 

そんなわけで下界という名の外に降り立った私は、心の中でそう呟きながら雪道を進んだ。

 

(寒い……)

 

防寒対策は積みに積んだのだが、それでも寒さはそれをやすやすと貫通してくる。はっきり言ってやばい。しかもこれでまだ十二月。一月二月の事を考えるだけで気が滅入りそうだ。それにさっきから体がガチガチに震え、歯がカタカタと音を鳴らしている。

 

 

(こんなことなら炬燵を持ってくれば良かったなあ……)

 

そう考えたところで私は我に返った。何を言っているんだ私は。炬燵を持ってきたところで一体どうなるというのだ。……確かに私はリヤカーで炬燵を持ってきた伝説はあるにはあるが、流石に移動している時に炬燵を使おうなんて発想したことが無い。いや、当然のことだ。第一、移動式炬燵などがあったら今頃日本ではそれしか道路を走っていないだろう。

流石に頭がおかしくなり始めてきた。これはまずいと感じた私は柄にもなくコンビニの方へ向かって猛ダッシュした。よく言われるが、私は運動音痴ではない。ただ走ったりするのがかったるいからやってないだけで、しっかり走れたりはする。

それに対して一応持ってきていた赤木さんが驚いたような声で私に聞いてきた。

 

 

【・・・お前って走れるんだな】

 

 

クソっ。死んだ身だから寒いとか暑いなどという感覚は無いのだろう。だからそんな余裕な感じで私に聞けるんだ。私は今極寒の地を走っているのに……!

 

「・・・うるさい……!」

 

半ばキレかけながらも、無事にコンビニに辿り着くことができた。コンビニの暖房の温もりを身体全身で受け止める。心地良すぎて危うくここにきた理由を忘れそうになったが、何とか任務を遂行できた。

そして2Lのペットボトルを買い、それが入ったビニール袋に手を通し、抱えるようにして持ち、これまた全速力でダッシュして家に帰った。

 

 

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家に帰るなり私は靴と防寒着を脱いで、ペットボトルが入ったビニール袋を放り、最短距離で炬燵の元へ駆け寄り、中に足を入れた。

 

生き返ると思わず声に出してしまうほどの温かさを満喫していたが、その瞬間チャイムが鳴った。慌ててデジタル時計を見ると時刻は8:40。まだ時間ではないが、既にそんな時間が経っていたのか。……原因はコンビニ内で温まろうとしていたからなのだろうけど。

 

 

 

ドアを開けると、そこには防寒対策をしっかりとしてきたエイスリンがいた。防寒対策をしながらも、相変わらずその首にはちゃんとイラストボードが提げられており、耳当てをしながらも赤いペンを耳に引っ掛けている。

 

 

「オハヨ!」

 

敬礼のポーズを取りながらエイスリンは私に挨拶する。いったい誰に教わったのかと聞きたい衝動を抑えて、エイスリンを中に入れようとすると、遠くに豊音が入るのが見えた。

エイスリンもそれに気付き、豊音に向かって手を振る。それを受けて豊音も手を振りながら真っ直ぐこちらに歩いてきた。

 

 

 

 

「ついたよー!シロのお家、大っきいんだねー!!」

 

「デカイ!」

 

 

「……ごゆっくり、どうぞ」

 

 

エイスリンと豊音を部屋に入れると、私の部屋をまじまじと辺りを見渡す。そんなに珍しいの置いてたっけか。……まあミーハーな豊音と、純情なエイスリンからしてみれば人の家というのはワクワクするものなのだろう。

 

 

「わ、わー!小っちゃい頃のシロだよー!ってあれ?この人たち宮永照さんと辻垣内智葉さんと愛宕洋榎さん!?」

 

そう言って豊音が指さした方向には、小学生の頃撮った写真があった。そこには私、照、智葉、洋榎の四人が写っていた。

 

「シロ?」

 

いつの間にかエイスリンのボードには絵が描かれており、そこには二つの手がグッと握り合っていた。……エイスリンの絵の表現はたまに変なのがあるが、これくらいなら見ただけで理解できる。お友達かどうかを聞いているのだろう。

 

「まあ、そんな感じかな」

 

それを聞いたエイスリンと豊音は私から距離をとって二人で何やらヒソヒソ話を始めた。

 

 

 

「エイスリンさん、あの三人についてどう思う?」

 

「ンー……コイ、シテル!」

 

「だよねー……シロはああ言ってるけど、どう見ても惚れてるよ……愛宕洋榎さんは分かんないけど、他二人は完全に敵だよー」

 

「テキ!ライバル!」

 

 

 

私に隠して話しているのだろうが、思いっきり筒抜けだ。まあ、聞かなかったことにしておこう。

 

そう思っていたところ、またもやチャイムが鳴り響く。扉を開けると、そこには寒そうにしている塞と胡桃。そして塞の腕にはペットボトルが入っているビニール袋が提げられていた。どうやらさっき考えていたことと同じことを考えていたようだ。

 

 

「・・・あー……ごめん。塞」

 

 

「何がごめんなの!?」

 

「まさか……」

 

 

私は部屋からペットボトルをビニール袋に入れたままの状態で塞に見せた。胡桃は見る前から何となく察していたのだろう。見せる前から顔が引きつっている。

 

 

「私たちは何のために……」

 

取り敢えず私はガックリと落胆する塞と胡桃を中に入れることにした。

 

 

 

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「いやー……やっぱり炬燵は人間が生み出した最高の暖房器具だよ……」

 

塞が炬燵の中に入りながらそんなことを言った。いつもなら何を言っているんだと聞き流したが、炬燵となっては話は別だ。私は思わず塞の手を握り、こう言った。

 

 

「塞、塞なら分かってくれると思ってた」

 

突然手を握られて困惑した塞だったが、すぐに受け入れてくれた。それでこそ炬燵愛好家よ。

 

「シロ……」

 

「塞……」

 

 

「そこ、ふざけない!」

 

折角今から炬燵のなんたるかについて塞と語り合おうとしていたのに、胡桃にバッサリと切り捨てられた。ここからがいいところなのに……

 

 

「思ったけどー」

 

と、豊音がふとそんなことを呟いた。全員が一斉に豊音の方に向くと、豊音は

 

「……五人は狭いんじゃないかなー?」

 

と言った。確かに炬燵が四角形、四辺に対してこちらは五人、つまるところ誰かが一辺につき二人となる必要がある。流石にこの状況下で誰かが抜けるという残酷な選択肢は存在しなかった。友情云々の前に、抜けたら死ぬという恐怖によってそんな事は言えない。

となれば、結局誰か二人が一辺に二人で入るということになる。それを悟った私を除く四人は目がギラリと鋭くなる。

 

 

「まず豊音は無理だよねぇ?」

 

先に沈黙を破ったのは塞、豊音に向かって言い放つ。一体どういう意味なのかと考えるまでもない。私はもう既に二人の内の一人になることは決定しているようだ。なのに四人は私に悟られないように、しかも準備なく言うあたり、阿吽の呼吸というのだろうか、やはり仲が良いとしか言えないだろう。

 

「シロを上にすれば大丈夫だよー」

 

と思ったあたり豊音が私の名を呼ぶ。私が気づいた途端隠す気ゼロになった。

 

「塞こそその腰が邪魔になるんじゃない?」

 

続いて胡桃が塞に攻撃する。塞はグッと呻き声を上げる。どうやら腰のことは図星だったらしい。

 

「ワタシ、テキヤク!!」

 

エイスリンが挙手して名乗りでる。適役って何だ適役って。

 

「ここは付き合いが長い私でしょ!」

 

「長さは関係ないよー!」

 

「腰……かぁ……」

 

 

そんな無駄な言い争いを続けること五分。結局ジャンケンすることになった。勝ったのは豊音。意地のチョキで三人のパーを打ち破った。

 

 

「おいで、シロー」

 

「じゃあ……失礼します」

 

 

 

そう言って私は炬燵の中を経由して豊音の方に移動した。丁度豊音が私の頭一つ分大きいので、まるで親子のように抱えられているかのようだった。

 

「髪がもふもふだよー」

 

「天然だから……」

 

 

そんな会話をしていると、三方向から恨めしい目線が飛んできた。

 

 

「くっ……!」

 

「Darn it!」

 

「腰……」

 

 

胡桃は羨ましさが混じっているのでまだ良いが、エイスリンは完全に目線がやばい。女子高校生がいっちゃいけない単語使ってるし、本場の英語となれば怖い。塞にいたっては関係ないし。

 

その目線を感じた豊音は、あろうことか私の首に腕を回し、三人に向かって見せびらかすようにこう言った。

 

 

「シロは私のものだよー!」

 

 

 

それを聞いた三人は、今すぐ飛び出て豊音から私を引っぺがしたいが、炬燵の誘惑に負けて出ようにも出れない、そんなもどかしさを感じていた。

 

 

……はあ、このほとぼりはまだまだ冷めそうにないなあ。

 

 

 

to be continued……!

 

 

 

 




はい、続きます。書いてて楽しくなったので、続きを書きたいと思います。
相変わらず番外編は本編より長いという風潮は健在。

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