宮守の神域   作:銀一色

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何も進まない回です。


第385話 二回戦A編 ㉘ 宣伝

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視点:神の視点

中堅戦終了時

千里山 182400

阿知賀  97900

劔谷   60700

越谷   59000

 

 

「千里山の江口さんを相手にしてプラス収支、やったね」

 

 中堅戦を終えた新子憧が控室へと戻ろうと対局室から廊下へと出ると、ボウリングのグローブを手に装着していた鷺森灼がすれ違いざまに新子憧にそう告げる。新子憧は悔しそうに「でも千里山には結構離された……っ。あとはよろしくっ」と言って送り出すと、鷺森灼は振り向かずに「……努力する」と言って対局室へと入って行った。

 そうして対局室へと入った鷺森灼ではあったが、中堅戦が終わる前から既に控え室を出ていた彼女以外に人はまだ誰もおらず、閑散とした空間ではあったが、鷺森灼は卓の椅子に腰をかけると、目を閉じて心の中でこう呟いた。

 

 

(ハルちゃんのためにも……皆のためにも……私のためにも。ここで負けるわけにはいかない。全力で闘う)

 

 

 

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「……あっ、先輩」

 

「な、なんや!?船Q!?」

 

 一方、時同じくして江口セーラが羞恥心に身をかられながら控え室まで猛ダッシュで走っていると、船Qこと船久保浩子とすれ違う。船久保浩子に呼び止められた江口セーラは『何か言いたいのなら早くしてくれ』と懇願するように船久保浩子に無言で訴えかけると、船久保浩子は心の中で(あ……これ結構おもろいかも)とこのまま何も言わないでおこうかとも考えていたが、流石にそれは可哀想だと思って口を開く。

 

「いえ……中堅戦、お疲れ様です」

 

「お、おお!そうか!船Qも頑張れよっ!」

 

 船久保浩子に労いの言葉をかけられた江口セーラは若干適当な返事を返すと、すぐさま再び控え室の方に向かって走り出した。そんな後ろ姿を船久保浩子は微笑ましく眺めながら、ひとつ深呼吸をして(……よし。ウチも頑張らなあかんな)と心に決めて対局室へと向かう。対局室に入って船久保浩子が目にしたのは、卓の椅子に背中を預けながら空を仰いでいる鷺森灼であった。

 

(ん……阿知賀の……もう来とるんか)

 

 自分でも早く着いたと思っていた船久保浩子ではあったが、それよりも早く来ていた鷺森灼の事を見て謎の悔しさを感じていると、残りの二校の副将も対局室へとやってくる。それと同時に鷺森灼は目をパチリと開けて船久保浩子含む三人を視認した。そうして各々挨拶を軽く交わすと、席決めをして直ぐに副将戦が始まった。

 

 

 

 

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「なあ、竜華ー」

 

「どしたん?怜」

 

 園城寺怜は始まった副将戦の様子をテレビで見ながら、清水谷竜華のことを呼ぶ。呼ばれた清水谷竜華はどうしたと園城寺怜に聞き返すと、園城寺怜はテレビの方を指差しながらこう尋ねる。

 

「……あの子は何であのグローブ?みたいなやつつけとるん?」

 

「あの子……ああ、鷺森さんの事か。あれ、ボウリングのグローブらしいわ」

 

 予想外の返答だったのか、園城寺怜は清水谷竜華の方を振り向いて「いやいや、なんでやねん」と聞き返す。するとダッシュで戻ったはずの江口セーラが「お、何の話や?」と息を切らす様子もなくそう言いながら控え室に入ってくる。

 

「あ、お帰り。お疲れさん。えーと、鷺森さんのボウリングのグローブの話やねん。なんでつけてるんやろうって」

 

「あー……祖母さんがボウリング場を経営しとるからやない。確かそんな感じの話をどっかのやつで聞いたことがあるで」

 

 江口セーラの言葉を聞いた清水谷竜華は感心したように「ほー、てことは実家の宣伝って事やん。良い孫さんやで」と何故か祖母目線でそう言いながらしみじみ思っていると、江口セーラはその間に着替えを済ませていたようで、二条泉はそれを見て若干驚愕していた。

 

「なるほどな……宣伝か……」

 

「怜はなんか宣伝することでもあるんか?」

 

 それを聞いていた園城寺怜が何かを考えている素振りを見せていると、清水谷竜華は園城寺怜に向かってそう質問する。すると園城寺怜は澄ました顔で「いや……ウチもイケメンさんのお嫁さんですってプラカードでも持って対局すれば宣伝になるんかなって」と答える。

 

「ばっ、お、お嫁さんって!」

 

「い、いや……そ、それはあんまり効果がないかもしれへんよ?効果がないどころか、戦争になるで多分……」

 

 衝撃が大きすぎて言葉に詰まっている江口セーラを放って、清水谷竜華が若干呆れながらそう進言すると、園城寺怜は「なんや、プラカードじゃなくて他のがいいんか?」と返す。

 

「違うわ!その宣伝すること自体火に油を注ぐ行為やって言ってるんや……」

 

「そうか……?でも既成事実さえ作ればそのままゴールインできると思うんや。話題性もバッチリやん」

 

 園城寺怜の意見を聞いてこれ以上はダメだと感じた清水谷竜華は江口セーラに視線を戻すと、江口セーラは江口セーラで「お嫁さんかあ……シロのなあ……」とこちらも自分の世界に入っているようで、手が付けられないようだった。

 

「……あとは任せたで、泉」

 

「えっ!?ウチですか!?」

 

 

 清水谷竜華は頭に手を当てながら二条泉に向かってそう言う。明確な静止役である船久保浩子がいないこの状況で、収拾をつけられないのは仕方のないことではあるが、それでも尚無理に押し付けられた二条泉は世界の不条理さに嘆くしかなかった。

 

 


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