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南2局 親:小走 ドラ{2}
小瀬川 41100
小走 12400
上埜 27900
白水 18600
流れを得た事を気付かせたくなかった小瀬川に対し、それに気づいた白水と、両極端な内容だった前局。
この南2局の配牌では、その両極端がそのまま表れているような配牌であった。
白水:配牌
{三六六六七①③④赤⑤236発}
タンピンドラドラの満貫以上が濃厚な良配牌。手自体もそんなに重くないし、打点も十分。今の白水が欲しかった理想図にとことん近い配牌。
一方、小瀬川の配牌。
小瀬川:配牌
{五九①③134779南北白}
バラバラ…!酷い配牌…!向聴数も五向聴と重く、尚且つ打点も望めないクソ手。白水の配牌とは雲泥の差…
〜〜
特別観戦室
「何だあの配牌…一体シロに何が…?」
特別観戦室で小瀬川を見守っていた智葉達も、その酷い配牌を見て驚いている。
それもそうだ。何故なら前局、本来なら倍満を和了れていた手をたった3200ぽっちで抑えたのだから。
それにも関わらず、良くなるどころか最悪になっていく小瀬川の配牌に、智葉達が怒りを露わにする。
赤木は、別にその配牌を見て疑問に思うどころか、寧ろその逆、納得しているようだった。
当然、智葉達にはその理由がわからないため、赤木に解説してもらう。
【そもそも…前局から既にアイツの流れは悪くなっていたよ。】
【あの局。アイツの流れが本当に良けりゃあ、アイツは白水に振り込む事はなかった。アイツの和了牌を引く前に、小走に差し込む牌をツモれた。…だが実際蓋を開ければ和了ったのは白水で、振り込んだのはアイツ。…あの状況で和了牌を掴む事自体が、流れが悪い象徴と言える…】
「じゃ、じゃあこの局は…」
胡桃が何かに気づいたように赤木に質問する。
赤木はそれに迷いもせずに
【ああ。この局、アイツは何もできない…ものの数巡もしないうちに、白水が和了る。】
と答える。その答えに胡桃は
「この局シロは一体どうする気なの?」
と、更に質問を加える。
その問いに対し、赤木は無邪気な笑みで答える。
【…それは答えらんねえな。先にネタバラシしちゃあ、興醒めだからな。】
〜〜〜
対局室
(…はあ。ダルっ。)
通常なら見るだけで悲しくなってくるような配牌を眺める小瀬川は悲しみよりも、呆れを感じていた。
(あの時は私はあれ以外どうしようもなかった局だけど…赤木さんならどうにかしたんだろうなぁ…)
ふと小瀬川は毎日のように打ってきた赤木との特訓を思い出す。
小瀬川も大概であるが、赤木はそれ以上にバケモノだ。
どう考えても小瀬川が優勢である状況にも関わらず、気が付けばわけの分からない展開になり、結局小瀬川が煮え湯を飲まされる場面が何度もあった。
それを考えれば、一見小瀬川の手が最善と思えたあの南1局も、赤木ならなんとかしたかもしれない。それ程までに分からないのだ。赤木という男の用量が。
(…まだまだ届かないなあ。)
自分と赤木の差を改めて感じた小瀬川はゆっくりと溜息をつき、配牌をもう一度見つめ直す。
{五九①③134779南北白}
いくら見直したところで現状は変わらない。重く、打点も望めない酷い配牌である。
(確かに、この局。私は何もできないかもしれない…だけど、布石くらいは打たせてもらうよ。)
現状の悪流を再確認した若き神域は、次の一手を打とうと動く。
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親の小走が第一打を放ち、上埜のツモ番も終わって、白水へとツモ番が回る。
白水:配牌
{三六六六七①③④赤⑤236発}
ツモ{四}
若干浮き気味になっていた{三}に{四}が重なる。このツモで白水は聴牌に一歩前進。流石に流れが良いと確信しているこの状況で、白水はこのツモを恰も当然の事と思っていた。
打{発}
続いて小瀬川がツモり、{北}を切る。白水から見て、小瀬川の手牌の状況は分からないが、大方の予想はついていた。
(表情は崩していなかばってん…小瀬川、あんまり良くなかよね?)
この読みは当たっていて、実はさっきツモった牌は{⑦}。向聴数を進めることすら叶わなかった。
そして次順、白水のツモは{八}。これで一向聴となり、聴牌までもう目前の状況になる。
白水は{①}を切り、自分にツモ番が回ってくるのを心待ちにする。
〜〜〜〜
次順
白水
ツモ{北}
そうして待望のツモ番が回ってきたが、この局初のムダヅモ。聴牌には至らない。
実は白水のツモの前、上埜が{二}を切っていた。これを鳴けば白水は聴牌する事ができたが、白水はそれに一瞥もない。
眼中に非ず…!鳴いて進めるなど思惑の外である。もし鳴いて進めて結果打点が落ちれば、それこそ小瀬川の狙いである。
高打点…
高打点なのだ…!
それも、小瀬川に詰め寄る事ができる、満貫跳満クラスの高打点。白水に今あるのはその一念のみ。
が…そんな蚊帳の外にいる感覚…現状が、上埜や小走の気持ちに僅かな淀みを生んだか…?
上埜
打{南}
ミスとまでは言えない{南}打ち。そう。ミスとまでは呼べない…しかし、場には{南}は生牌で、南場であるから場風牌である。そんな緩み…漫然の{南}打ち。
その緩みを小瀬川は逃さない。
「ポン」
小瀬川:手牌
{裏裏裏裏裏裏裏裏裏裏裏} {南横南南}
打{⑦}
ここで小瀬川が動く。{南}を鳴き、特急券の1飜を得る。
そして続く小走のツモ番。打牌は{7}。
無論これも小瀬川が見逃す理由もない。
「ポン」
{裏裏裏裏裏裏裏裏} {77横7 南横南南}
打{五}
またもや動く。二連続副露…!そしてその手牌は誰がどう見ても索子の混一色である。
小走と上埜も、ようやく今の状況を理解し、オリへ回る。その証拠に彼女らの打牌はさっきとは打って変わって守りの打牌である。
白水:手牌
{三四六六六七八③④赤⑤235}
ツモ{7}
今度の白水のツモもムダヅモで、聴牌までに至ることはなかった。
そして掴んだのは、索子の混一色相手には本命とも言える牌の{7}。
しかし、白水はそんなの御構い無しといった感じで、ツモってきた{7}を睨みつける。
(無駄だ小瀬川…そのハッタリはもう通用ウチには通用しなか。そぎゃんモノ、裏から見っぎハリボテ同然、苦肉の策…!)
そう。小瀬川の手が本当に『索子の混一色』であれば、{7}は本命である。
だが、実際はそれはブラフである。その事は白水は既に看破していた。
故に白水は{7}を切り出す。
だが、小瀬川もタダではそれを通さない。
「チー」
小瀬川:手牌
{裏裏裏裏裏} {横789 77横7 南横南南}
打{3}
小瀬川が仕掛ける。これで三副露…!
ますます小瀬川の混一色聴牌が匂い立つ。そして白水が聴牌する時溢れる牌は{5}。三副露ともなれば、この{5}はついさっき切った{7}の何倍も危険な牌。
しかし白水はその状況に焦る様子もない。ハナからブラフとそれを決め付けている。
この局、「何らかの布石を打つ」と言った小瀬川の策に既にはまりかけている事に気付きもせずに。
次回で南2局が終わります。
いよいよ終盤戦と言ったところでしょうか。