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視点:神の視点
東一局 親:阿知賀 ドラ{3}
阿知賀 100000
越谷 100000
千里山 100000
劔谷 100000
二回戦第二試合の先鋒戦、まずは阿知賀女子の起家で前半戦が始まった。親である松実玄は対面に座る園城寺怜から感じられる重圧に目を背けそうになるが、キッと前を睨むようにして目を逸らさずに配牌を開く。
(ドラはちゃんと来てる……大丈夫、大丈夫……)
松実玄:配牌
{一四赤五赤⑤⑧⑨11334赤5白中}
松実玄は自身のドラを集めるオカルトがしっかり働いている事を心の拠り所としながら、手牌の{白}を切り出していく。幸い配牌もなかなか良く、序盤から点棒を稼いでいきたいところではあるが、松実玄はしきりに園城寺怜の方をチラと覗いていた。赤土晴絵が千里山の中でも最も注意すべき存在として挙げていた園城寺怜。具体的にどんな能力を持っているのかは松実玄から見ては未だ不明ではあるが、兎に角一番気をつけるべきは門前でのリーチであると赤土晴絵に助言された松実玄ではあったが、その助言が今の時点ではむしろ足を引っ張っているようであった。
(……思い切って攻めたいけど、園城寺さんが万が一リーチしてきても対応できるようにしなきゃ……)
無論、園城寺怜の能力は『リーチをかければ一発ツモができる』という能力では無いため、リーチ以外にも園城寺怜の攻め方は数多に存在する。むしろ、今の松実玄のように一つの事象に気を取られている者ほど、園城寺怜にとっては格好の餌であった。
(次巡、阿知賀が{⑧筒}……か)
千里山:八巡目
{二二三三四四⑦⑦66688}
園城寺怜は一巡先を見ながら、心の中でそう呟く。そうして先ほどまで指先がかかっていたツモ牌の{⑨}を手牌に入れると、{⑦}を切り出した。既に{⑧}が二枚見えている状況でシャボ待ちを敢えて嵌{⑧}待ちを選んだ園城寺怜の選択に実況の針生えりが首を傾げながら『園城寺選手、{⑦8}のシャボ待ちを二枚見えている{⑧}待ちに変更です』と疑問そうに呟いた。
(……これで
阿知賀:九巡目
{四赤五六赤⑤⑤⑤⑧⑨1334赤5}
ツモ{⑨}
しかし、針生えりのこの疑問は直ぐに解消される事となる。直後の阿知賀女子のツモ番で松実玄は{⑨}を引くと、それを雀頭として{⑧}を切り出したのだ。無論、それを園城寺怜は待っていたため、見逃すわけもなくロンと発声して牌を倒す。
「……一盃口のみ、やな。1300」
「はっ、はい……」
振り込んだ本人である松実玄は一盃口のみの安手で良かったと安堵していたが、実況の針生えりはこの和了に不信感を抱いた。隣にいる三尋木咏に向かって『……今の和了、どこか不自然に見えましたが』と遠回しに質問すると、三尋木咏は扇子をはためかせながら『あっらー……そう見えたかい?えりちゃん』と曖昧な返事をする。
『いえ、園城寺選手がまるでそうなるのが分かっていたかのように待ちを変えたような気がしたもので……』
『……まあ、合ってるかも知れねーし合ってないかも知れないねぇ……こればっかりは本人に聞かないと、わっかんねーよ』
それを聞いた針生えりがどういう事だと言いたげな表情をしながら三尋木咏の事を見つめると、それに気付いた三尋木咏がゆっくりとマイクを切って「……彼女の異名、知ってるかい?」と針生えりに問いかける。
「……異名、ですか」
「これはオフレコにしないと千里山側にも色々と迷惑だろうから、マイクを切ったけど……彼女の異名、それは『一巡先を視る者』、さ」
「一巡先……ということは未来視って事ですか!?」
驚き声をあげる針生えりではあったが、すぐに三尋木咏が「あくまで異名だって、異名。本当かどうかは知らんけど」と加える。
「……だけど、考えても見なよ?白糸台に次いで全国二位、関西では最強と名高い超名門校の千里山が、突然無名の子をメンバーに出すかい?しかも超重要な先鋒というポジションに。当然、あの子には何らかの選ばれた理由があるんだろうね……知らんけど」
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「ロン」
(……っ、また……!)
園城寺怜:和了形
{一二三四五六七八九⑦⑧99}
阿知賀
打{⑥}
「一通平和……3900」
続く次局も阿知賀女子から直撃を奪った園城寺怜は、点棒を受け取りながら松実玄の捨て牌の方に目を向けて、心の中でこう呟く。
(……やっぱドラは捨てれへんようやな。ドラが縦に伸びるから、余計にその分ドラ側の牌をバンバン切らなあかんくなる。……もはや一巡先を視るまでもないな)
この局のドラ{④}。赤ドラの{⑤}もあると考えれば、この局で松実玄から切られやすいのは必然的に{②③や⑥⑦}辺りとなる。あとはそれのいずれかに狙いを定めればいいだけの話である。無論未来視をすれば確実なのだが、今回の場合遠回りして待ちを変える事すら要らなかったため、結果論ではあるが未来視すらも必要なかったと言えるであろう。そういった明確なデメリット自体は松実玄は理解はしているのだが、彼女にはどうにもする事も出来なかった。
「……まずいな、玄のドラ支配が逆手に取られてる」
「玄さん……!」
「玄ちゃん……」
阿知賀女子の控室でも、松実玄が園城寺怜に二連続直撃した事から段々と不安が募り始めている。皆が松実玄に視線を集めている中で、赤土晴絵は松実玄の事を心配すると同時に、園城寺怜の能力についても考察を続けていた。
(牌譜だけでは分からなかったけど……待ちを変えるときに全く迷いがない。若干手が止まったりするけど、その手先に迷いは感じられない……まるで、
そこまで考えて、ようやく赤土晴絵は園城寺怜の能力を悟る。やはり園城寺怜は未来を視ているのだと。そうすれば牌譜にあった不可解な鳴き、待ちの変更、リーチ一発ツモ。全てがそれで証明できる。しかし、その発見は赤土晴絵に絶望を齎した。
「……仮に、園城寺の能力が未来視だとしたら、玄は勝てない……」
「そ、そんな……何とかならないんですか!?」
赤土晴絵の言葉に高鴨穏乃がそう返すが、赤土晴絵から言葉は返ってこなかった。というのも最もな事で、未来が視える人間を攻略するためには未来視で視た未来を越えるほどの事を行わなければいけない。それの代表的な例がリーチ一発ツモを防ぐための鳴きなどのような物が挙げられるが、あくまでそれは防御面での話であって、攻撃面で園城寺怜を攻略することはほぼゼロに等しい。それこそ、未来を改変すれば二、三巡は未来が視えなくなる性質を利用して、小瀬川白望がやったように園城寺怜に未来を改変させて直撃を奪う、これくらいしか存在しない。もちろん、それの対策も園城寺怜は講じているため、並大抵の攻めでは彼女を欺くことは不可能である。
(玄の攻撃力を生かせない相手じゃ不利なのは分かっていたけど……まさかここまで封殺されるなんて……)
(……玄さん)
皆が松実玄の事を心の中で応援するが、その願いも虚しく、園城寺怜の『リーチ』という宣言で砕け散ってしまった。