宮守の神域   作:銀一色

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第376話 二回戦A編 ⑲ 遅れてやってくる

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視点:神の視点

 

 

「……そんじゃ、行ってくるわ」

 

 二回戦第二試合がそろそろ始まろうとしているというところで、園城寺怜はようやく立ち上がってそう呟く。清水谷竜華がそんな園城寺怜に「怜、間に合うんか?後ちょっとしかないけど……」と尋ねると、園城寺怜はふふと笑みを浮かべて「分かってないなあ。ヒーローは遅れてやって来るって言うやろ?」とどこか得意げそうに言うが、江口セーラから「ヒーローは遅れてもいいかも知れんけど、怜は遅れたら失格やから早よ行きい」と言われてしまう。そう言われた園城寺怜は不満気に江口セーラの事を見て、何かを訴えようとしたが、それは言葉にはせず、代わりに自分の身体を見回して「そういや……昨日の縄の跡とかついてへんやろな。もし残ってたら物凄い恥ずかしいんやけど」と呟く。

 

「そんなに恥ずかしいもんなんか?」

 

「いや、清水谷先輩……そりゃあ恥ずかしいですよ……そういう”趣味“を持ってると思われても仕方ないんですから」

 

 二条泉にそう言われた清水谷竜華は顔を赤くして「な、なるほど……確かにそうやな」と若干目を逸らしながら呟く。それに同調するように船久保浩子が「園城寺先輩だけでなく、ウチらにまで”そういうもの“っていうレッテルが貼られるんで、そこは勘弁ですよ」と真顔で言う。すると園城寺怜が怒ったような目つきで「じゃあ昨日縄でウチの事を縛んなきゃ良かったんちゃうか船Q……!」と船久保浩子の事を指差して言うが、船久保浩子は口笛を吹きながら『何のことか分からない』といった表情、悪く言えば園城寺怜の事をおちょくるような表情で誤魔化した。

 

「……ま、まあ、み、見える範囲じゃ見当たらんし大丈夫やない?」

 

「セーラがそう言うなら……まあしゃあない。行ってくるわ」

 

 園城寺怜は若干不満気そうにそう呟くと、控室からゆっくりと出て行った。その様だけ見ればいかにも病弱な少女に見えるのだが、少なくとも先ほどまでの一部始終を見ている者からはそうは見えないだろう。しかし、船久保浩子は安堵の溜息をついて「……先輩、大丈夫そうですね」と漏らした。

 

「せやな……昨日は直ぐ寝とったし、100パーセントの体力で臨めるんちゃう?」

 

 江口セーラがそう言うと、清水谷竜華は心配そうな表情で「そうやけど……試合は今日だけやない。勝ち進めばその分怜の負担は増えるやん……」と言うが、二条泉はこう清水谷竜華に言った。「じゃあ、ウチらが園城寺先輩の負担を取り除く様に頑張りましょう」と。それを聞いた江口セーラはふっと笑うと二条泉の肩を掴んで「……よう言うようになったなあ!泉ィ!」と揺らしながらこう言った。

 

「ちょ、グラングランするんでやめて下さい!!」

 

 

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(……千里山女子、白糸台に次いで全国二位の超強豪校……!)

 

 一方、対局室では既に到着していた阿知賀女子の先鋒、松実玄が未だこの場所に姿を見せていない千里山女子の園城寺怜の事を待ちながら、心の中でそう呟く。赤土晴絵が『総合力だけで言えば王者白糸台よりも強いかもしれない』と語っていた千里山女子と相対する事になった松実玄は若干気負いしていたが、震えかけている右手をギュッと握って到着を他校の二人と共に待っていた。

 

(……先輩の園城寺さん、サービスエリアで会ったあの人が、まさか千里山のエースだったなんて……)

 

 松実玄は頭の中で過去に見た園城寺怜の顔を思い浮かべる。本人にとっとしてみれば失礼な話なのかもしれないが、今も尚牌譜で見た園城寺怜とサービスエリアで見た園城寺怜が同一人物だとはとても思えなかった。あの病弱そうでいつ折れてしまうかも分からない貧弱な体つきの彼女が、どうやったらあの牌譜のような相手を怯えさせるほどの力強い闘牌ができるのか不思議でならなかった。

 そんな見えない恐怖に若干震えていた松実玄だったが、そんな中で園城寺怜はようやく対局室に到着した。サービスエリアで見た時の印象とは打って変わって、底の読めない無表情で冷徹な園城寺怜がゆっくりと中央の卓へと向かっていく。その姿を見た松実玄は心の中で(やっぱり……全然違う!あの時みた園城寺さんとは……!)と恐怖に腰を抜かしそうになっていたが、園城寺怜はそれを知ってか知らずか、先ほどまでの無表情から一転、松実玄がサービスエリアで見た時のような声色と表情で「その節はどうもな、松実さん」と声をかける。その言葉に一瞬だけ松実玄の心は救われたのだが、園城寺怜は心の中でこう呟いていた。

 

(……イケメンさんと接点があるかどうかは知らんけど、松実さん……全力で行くから、覚悟しいな)

 

 

 

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「怜の相手のこの松実ってやつ、やっぱ能力持ちか?船Q」

 

 それと同時刻、千里山の控室では江口セーラがモニターを指差しながら船久保浩子に向かって言う。実のところ松実玄がどんな能力を持っているのかは江口セーラもほぼ確信に近づいていたのだが、念のため船久保浩子に確認したのだ。

 

「ええ、99.9%能力持ちですね。ドラを引きやすくなる代わりに、ドラが捨てられない能力。明らかに打ち方が不自然でしたんで、間違いないでしょう」

 

 船久保浩子の返答を聞いた江口セーラは「やっぱそうやろな……でも、裏を返せばそれ以外は無いんやろ?」と船久保浩子にもう一度質問すると「はい、ドラ能力にかなり引っ張られますけど、それ以外は見当たりません」と答えた。

 

「……なら、怜が梃子摺る相手じゃなさそうやな」

 

「そやけど……やっぱり阿知賀の子達にも頑張って欲しいわあ……」

 

 松実玄の事を見ながらそう呟く清水谷竜華に対し、江口セーラが「……応援するのはええけど、手は抜くなよ?」と釘を刺すと清水谷竜華は「そんな事せえへんって……」と返す。

 

「っていうか先輩、阿知賀が頑張ったら園城寺先輩の負担がその分増えるんですけど……」

 

「あ、せやな……そうや、言われてみればそうや!それはアカン!」

 

「天然ボケやな……相変わらずどっか抜けてるって言うかなんて言うか……しっかりせえよ」

 

「……ふんっ、セーラにだけは言われとう無いわ。シロさんが目の前にいたらタジタジになるくせに」

 

 そう言われた江口セーラは顔を真っ赤にしながら「は、はあ!?何言っとんのや竜華!」と否定する。二条泉はそんな二人のいざこざを見ながら、(まるで子供の言い合いみたいやな……)と若干呆れながらもそう呟くと、心の声を読まれたのか、清水谷竜華と江口セーラの二人から「煩いわアホ!」と言われてしまった。二条泉は反射的に謝るが、その後何故心の声が読まれたのか疑問に思っていたのであった。

 

 

 


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