宮守の神域   作:銀一色

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第375話 二回戦A編 ⑱ 絶対安静

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視点:神の視点

 

 

「とーき、終わったで」

 

「ん……もう終わったんか……なんていうか、時間って残酷やな……辛い時間ほど長く感じるのに、こういう寝てる時みたいに幸せな時間ほど一瞬で過ぎ去るなんて……無情やわ……」

 

 都内にあるホテルの一室、清水谷竜華の膝枕の上で眠りについていた園城寺怜が清水谷竜華に起こされると、そう言ってゆっくりと立ち上がる。何やら憂鬱な表情で小難しい事を嘆くようにして呟く園城寺怜に対し、清水谷竜華は「何言うとんの。ほら、明日からウチらも試合、始まるんやからしっかりしい」と言って園城寺怜の背筋を伸ばそうとする。

 

「……まあそうやな。竜華の言う通りしっかりせえへんと。全力でいかなお相手さんにも失礼やしな」

 

「確かにそうやけど……全力でやる事は無いんちゃう?確かにしっかりせえって言ったけど、何も無理しろなんて言うてへんで。ウチやセーラ、泉にフナQもおるんやし……」

 

 清水谷竜華が園城寺怜の体調を気遣ってそう提案するが、園城寺怜は首を横に振って「竜華こそ、何言うとんのや。インハイに出てる人は皆何かを賭けて闘ってんねん。絆やら人生やら……一人一人に譲れないものがあって、それのためなら自分の何かが犠牲になっても厭わない!って感じでな……それがウチの場合は身体だったちゅう話や」と答える。それを聞いた清水谷竜華は何やら言いたそうな表情をしていたが、反論の余地を与えずにこう続ける。

 

「それに、イケメンさんはあん時ホンマに命を賭けてたやん。それで、あのチャンピオンを倒して勝利を掴んだんや。……せやから、ウチも最低でもそれくらいの覚悟がないといかん。……分かってくれ、竜華」

 

「……はあ。分かった、分かったけど……ギリギリの状態になったらそこで止めてな?……もし倒れたら、承知せえへんからな。ビンタしてでも起こしたるから」

 

 そうクギを刺す清水谷竜華の事を、園城寺怜は笑顔を浮かべながら「……そん時は、お手柔らかに頼むわあ」と言う。それを聞いた清水谷竜華は若干怒ったような表情をして「なんで倒れる前提なんや!縁起でもないからそんなこと言わんといて……!」と咎める。そんな会話をしていると、船久保浩子と二条泉、そして江口セーラが部屋に戻ってきた。

 

「一体何しとるんですか、全く……めっちゃ騒がしかったんですけど」

 

 船久保浩子が呆れたような目で二人のことを見る。それを聞いた園城寺怜がジトッと清水谷竜華の方を見て「りゅーかにいじめられたんや、助けてやー」とワザとらしく呟いて船久保浩子に助けを求める。船久保浩子は「先輩。一応聞きますけど、何やったんですか……」と問いかけると、清水谷竜華は「ちゃう!誤解や船Q!怜が明日の二回戦、全力でやるって言うから……」と反論すると、先ほどまで何の話をしていたのかを九割ほど理解した船久保浩子は溜息をついて「……園城寺先輩。明日、全力でやりたいんですか」と尋ねる。

 

「当たり前や。全力でぶつかってこそのインハイやもん」

 

(……それに、サービスエリアで会ったあの子らと闘えるしな)

 

 そう意気込む姿を見せる園城寺怜を見て、船久保浩子は「……そうですか。そんなら仕方ないです。泉、園城寺先輩をベッドに括り付けるんや!」と言ってどこから持ってきたのか、縄を二条泉に渡す。突然渡された二条泉は「は、はい!?」と言って戸惑いながらも、それ以上に戸惑っている園城寺怜を縄で縛り付ける。園城寺怜が「な、何するんや!?」と驚きながら船久保浩子に向かって言うと船久保浩子はこう答える。

 

「園城寺先輩に明日、万全の状態で闘ってもらうための条件は絶対安静です。ただでさえ普通の人の倍以上体力が無くて、疲労が溜まりやすい先輩が無駄な動きをして体力を減らすのは得策じゃないかと思ったんで、こうして否が応でも安静にしてもらいます」

 

「だ、だからってこんな……」

 

「そうでもしないと夜とかに『イケメンさんに会いに言ってくるわー』とか言って抜け出す恐れがあるんで、仕方ないです。その場合彼方側にも迷惑がかかるんで」

 

 淡々と説明する船久保浩子に対し、園城寺怜はギシギシと身体を動かして抵抗しようとするが、「別に先輩を美味しく頂こうって魂胆やないです。ただ安静にしてもらうだけなんで、ちゃんと御飯も用意します。あ、あと縄がキツかったら言ってください。あくまで安静にさせるのが目的なんで」と園城寺怜に向かって言う。

 

「……そう言うことや、すまんな?怜。オレも縄までいかんでも流石にええやろって言ったんやけど……聞かなくて」

 

「ううう……どうせ縛られるんならイケメンさんに縛られたかった……」

 

「意外と元気そうですね……園城寺先輩」

 

「……小瀬川さんの等身大フィギュアを毎晩抱いて寝かせれば病弱体質治るんやあらへんやろかって思うほどやな。ホンマに」

 

 

 そうして縄で縛られていた園城寺怜であったが、直ぐに目を閉じて眠りについてしまった。それに対して安堵する千里山のメンバー。どうやら、明日園城寺怜は全力で闘っても問題は無さそうだ、と、園城寺怜の寝顔を見ながらそう思った。

 

 

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『とうとう二回戦第二試合、だねえ〜?えりちゃん』

 

『そうですね……昨日は優勝候補の筆頭である王者白糸台と九州の強豪、新道寺が勝ち上がりましたが、今日も優勝候補の筆頭として注目を浴びている全国二位、千里山の初陣となっています』

 

 そして翌日、実況席で三尋木咏と針生えりは二回戦第二試合の実況と解説を任されており、対局が始まるまでそんな事を話しながら待機していた。三尋木咏がマイクを切って「ふー」と一息つくと、針生えりもマイクを切って「……どうかしましたか?」と声をかける。

 

「いや……今年は珍しい高校がいるなーってね、知らんけど」

 

「奈良県代表の阿知賀の事ですか?確かに、言われてみればそうですね……ここの所はずっと晩成でしたから……」

 

「……晩成には一昨年と去年のインハイでめっちゃ頑張ってた子が今年もいたはず。阿知賀が今ここにいるって事は、阿知賀はそれを破ったってことになるねぇ……?」

 

「……つまり?」

 

「もしマグレでなく晩成に勝てたのならそれはかなり凄いダークホースになる、って事だよ。実際どうだったのかは知らんけど。まあマグレにしろそうでないにしろ、兎も角、この勝負で阿知賀がどう千里山に対峙するのか見ものだねぃ……」

 

「……そうですか、ということは阿知賀が場を引っ掻き回すということも?」

 

 それを聞いた三尋木咏は首を横に振って「違う違う!」と言って扇子を広げる。針生えりはその返答に若干ムッとしていたが、三尋木咏はこう続けた。

 

「寧ろ逆だぜぃ……えりちゃん。千里山が場を引っ掻き回すのを、どう阿知賀が抑えるか、そこに全てが懸かってる……仮に阿知賀がマグレで晩成に勝ったことに満足してるようなトコなら、話にもならないだろうねぃ……」

 

(……ま、阿知賀の顧問のあの人に限ってそんな事は無いと思うけどねぇ……知らんけど)


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