宮守の神域   作:銀一色

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第372話 二回戦A編 ⑮ ダブリー

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視点:神の視点

東一局 親:松山学院 ドラ{西}

柏山学院  43300

新道寺  136500

白糸台  171900

苅安賀   48300

 

 

 二回戦第一試合も佳境に入り、いよいよラスト二半荘。大将戦前半戦が始まった。控室に入ってきた大星淡はゆっくりと、そして既に雀卓に座っていた鶴田姫子の事をジッと見つめながら雀卓へと向かって行った。大星淡はどこか威圧感を放っている鶴田姫子を見て、「……場決め、私以外終わった?」と尋ねる。すると鶴田姫子も大星淡の事を意識し始め、チラと彼女を視界に入れると「もうあんた以外終わっとるばい。牌ば取る必要はなかね」と言って空いている席に座るよう目線で促す。

 

(ふーん……もう臨戦態勢って感じ?)

 

 大星淡は鶴田姫子を見てそんなことを思いつつ、鶴田姫子に促されるがままに席に着く。そうして親決めをしている最中、鶴田姫子は大星淡の事を見ながら心の中でこう呟いた。

 

(……大星淡。そういや、部長が言っとったな……リザベーションが大星の絶対安全圏ば破れっかは怪しいっと……)

 

 そう、大星淡がここ三年で一気に全国ナンバーワン高校となった白糸台の大将に、一年生ながらも抜擢されたのには当然それだけの彼女の強さ、理由があり、それは彼女の代名詞とも呼べる『ダブリー』と『絶対安全圏』。この二つの能力が大きな理由である。

 その二つの内白水哩が言及したのは『絶対安全圏』の方である。この能力をたった一言で表すならば、『他者の配牌が五向聴以上になる』という単純明快な能力であるが、この単純な一言がどれほど恐ろしいかはもはや言うまでもないだろう。そんな圧倒的なハンディキャップである『絶対安全圏』を、あらゆる能力からの干渉を防いだ『リザベーション』でさえも破れるかどうかは実際に試してみなければ分からない。そう白水哩が言っていたのだ。

 とは言っても、東一局でのリザベーションのキーは貰っていないため、この局での確認は不可能である。しかし鶴田姫子はその事を念頭に置きながら、ゆっくりと配牌を開く。すると鶴田姫子は苦虫を踏みつぶしたような表情で配牌の事を睨みつけた。

 

(うわ……部長から聞いとったけども……これは余りにも悪か……)

 

鶴田姫子:配牌

{一六七②赤⑤1278東西白発}

 

 鶴田姫子の配牌は面子はおろか、搭子が三つしかない五向聴。これが例の『絶対安全圏』かと嫌な気分に鶴田姫子はなりながらも、第一ツモを行なって手を進めようとする。が、その直後の事であった。大星淡は長い髪をこの世の物理法則や重力等に逆らって揺らめかせながら、第一ツモを取ってニヤリと笑みを浮かべる。その事に鶴田姫子は気付いたが、その時には既に遅く、大星淡がリー棒を投げ入れたところであった。

 

 

「……リーチ!」

 

大星淡:捨て牌

{横④}

 

 

(……ダブリー!もう御披露目になるんやね……!)

 

 

 鶴田姫子はダブリーを宣言した大星淡の事を見ながら、頭の中で大星淡の数少ない牌譜と白水哩から言われた事を鮮明にフラッシュバックさせる。彼女のもう一つの代名詞である『ダブリー』。ただ単なるダブリーだけでも充分に厄介なのだが、ダブリーはあくまで表の顔であり、彼女の能力にはまだ裏があった。しかし、その裏の顔がお披露目になるにはまだ時間があり、それを知っている鶴田姫子もそれを阻止すべく手を進めようとするが、ここで先ほどの『絶対安全圏』が効果を発揮する。そう、大星淡の負担にはなるものの、二つの能力を同時併用すれば『自分はダブリーだが相手は五向聴以上』というもはやハンディキャップの度を越した状況が作られる。あまりにも酷い配牌のため、大概は手を進めることができずに大星淡が『最後の仕上げ』を行ってしまう。

 そしてこの局もその例に漏れることなく、鶴田姫子の奮闘虚しく一向聴と惜しいところまで来たが、牌山が最後の角を回ろうとする直前で大星淡にツモ順が回ってしまう。大星淡はツモって来た牌を、()()()()()()()()()()()()()()わざわざ盲牌すると、右手で{8}を三枚倒してこう宣言した。

 

 

「カンッ!」

 

大星淡:十二巡目

{裏裏裏裏裏裏裏裏裏裏} {裏88裏}

 

ドラ表示牌

{南⑧}

 

 そう、これこそが大星淡の『ダブリー』の裏の顔を披露するための下準備。これで準備が整った。鶴田姫子はその次巡で聴牌に至るものの、和了までは望めず、結局大星淡のツモ番となった。彼女は自分の髪をより一層揺らめかせながら、ツモ牌を卓に叩きつるようにして和了を宣言する。

 

 

「ツモ、ダブリー!」

 

大星淡:和了形

{二三四①①12334} {裏88裏}

ツモ{5}

 

 大星淡がツモとダブリーのみの手を和了る。これだけならまだいいのだが、彼女の真の恐ろしさはこの先にある。

 

「……じゃあ、裏ドラを開けるよ」

 

 大星淡が誰かに言うわけでもなく、独り言のように呟いてドラ表示牌の{南と⑧}を持って避けると、そのまま裏ドラ表示牌を二枚ひっくり返した。すると返された裏ドラ表示牌は{発と7}であり、なんと大星淡が暗槓した{8}がそっくりそのまま裏ドラとなった。大星淡は裏ドラ表示牌の{7}を見ると、どこか嬉しげに「……ドラ4。跳満、3000-6000」と宣告した。

 

 

(……凄か。私が何もできないまま跳満和了……伊達に大将ば張っとらんって事やね……)

 

 

(それにしてもシンドージ……やっぱりリザベーションが無くても想像以上にやるじゃん。見た感じ惜しいところまで来てたっぽいし、山の位置関係が悪かったら先を越されてたかも……テルーの言ってた通り、最初からどっちもフルパワーで使って正解だったね……)

 

 鶴田姫子と大星淡はお互いの事を心の中で素直に評価し合う。そして大星淡は今の和了は前座と題して、新道寺の親であり、リザベーション2が成功した局である東二局に備える。

 

(多分、次はシンドージがリザベーションを使ってくる……確か三飜で和了ってたから、来るとしたら多分親満か親っパネ。これをどうにかして打ち崩せたら良いんだけど……テルーでも『多分無理』って言ってたしなあ……)

 

 

(……部長からもろうとった満貫キー、早速出番が回って来たばい。……さて、部長。虎狩りと行きましょう)


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