宮守の神域   作:銀一色

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第362話 二回戦A編 ⑤ 阻止

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視点:神の視点

南一局一本場 親:白糸台 ドラ{5}

 

白糸台  130900

柏山学院  80400

新道寺   99700

苅安賀   89000

 

 

 

(次は倍満そしてその次が三倍満……速度は次第に落ちているとはいえ、そろそろ手がつけられなくなってきましたね……)

 

 前局に親の跳満を宮永照に和了られたことにより、ついに最初の持ち点であった100000点を割ったどころか、これで白糸台との点差はまだ前半戦の南一局だというのに31600点差。このペースが続けば先鋒戦で勝負が決まってしまうことも十分考えられる。というか、ペース云々の前に今宮永照の親をどうにかして蹴らなければ、この宮永照の親で呆気なく終わりだ。無論、流石に倍満以降の飜数ともなれば、初期のように四巡、五巡で和了れるわけはなく、調子が極端に優れない時には十二巡以降ということにもなったり、果てには和了れずに流局という事も三倍満になってくる何回かあったりもする。しかし、だからといって今の宮永照がその『極端な不調』であるとは思えない。チャンスが巡れば巡ってきた数だけ、手牌を倒してくる。ならば、そういった時の運に自分の運命を任せても何の勝機もない。勝機が唯一あるのは、自分自身の働き。これに賭けるしかないのだ。どんな安手でも、愚形でも構わない。和了。和了ることができればそれが値千金となるのだ。とにかく和了って宮永照の親を蹴る。それしか花田煌が生き残る術はない。しかし。

 

 

 

花田煌:四巡目

{一三五八八九②④④⑦79北}

 

 

(……これは時間がかかりますね。まだ字牌整理をしているようじゃ、チャンピオンに追い抜かれてしまいます)

 

 未だ四巡目ではあったが、花田煌はこの時点でこの手牌の限界を悟った。流れも試合の主導権も宮永照に握られているこの状況で、並みのスピードで競り勝つのは九分九厘宮永照の方なのは自明だろう。だからこそ、この段階でまだ字牌が残っているようなこの手牌では、宮永照の親を蹴ることなどできないのだ。そのことをこの時は特別頭が冴えていたのか、それとも花田煌の根幹にある生存本能がそうさせたのか。どういうわけかいち早く察知し、見切りをつけた花田煌が次に視点を向けたのは苅安賀と柏山学院であった。苅安賀は捨て牌からは分からなかったが、柏山学院はどうやら萬子の混一色に向かっているのか、捨て牌が{北71①}と、確信には至ってはいないが、花田煌は柏山学院が混一色を狙っているということを祈りつつ、{八}を切る。

 

「ポン」

 

柏山学院:五巡目

{裏裏裏裏裏裏裏裏裏裏裏} {八八横八}

打{九}

 

 

 

 

 

(ふーん。自分では不可能と感じて、柏山の援護に回ったんだ……)

 

宮永照:五巡目

{二①②④赤⑤⑥⑦⑨南南中中発}

 

 一方の宮永照はこのまま順当に手を進めていけば一通混一色南中赤1と、倍満となる手牌であった。花田煌の{八}切りによって柏山学院が鳴いたのを見て、すぐに花田煌の意図に気付く。しかし、流石に自分に回さないように鳴かれ続ければいくら宮永照といえども、そればかりはどうしようもない。が、薄々感じていたのだろう。花田煌も宮永照も、ここでどれだけ宮永照のツモ回数を減らすか。そこが勝負の岐路となるであろうということを。

 

 

花田煌:五巡目

{一三五六八九②④④⑦79北}

ツモ{3}

打{一}

 

 

 

(ここは……っ、どうやら無理そうですか)

 

 

 花田煌は今度のツモ番も萬子を切るが、柏山学院は反応を示さず。位置の関係上、花田煌が柏山を鳴かせる場合はポンかカンしかなく、チーをできない分苅安賀を援護するよりも援護をしにくいのだ。花田煌は少し焦ったような表情を浮かべるが、苅安賀が切った{④}を見て、反射的に花田煌の手が動く。

 

「その牌、ポンです!」

 

花田煌:六巡目

{三五六八九②⑦379北} {④④横④}

打{五}

 

 苅安賀の牌を鳴くことで、宮永照のツモ番を飛ばして再び柏山学院に鳴かせることのできるチャンスを得る。花田煌は決死の思いで{五}を切ると、思いが通じたのか、柏山学院は{五}を鳴いた。

 

(……仕方ないか)

 

 宮永照は心の中でそう呟くと、倍満となりかけていた手牌を伏せる。宮永照はこの時点でこの局の行方を悟ったのだろう。しかし、花田煌はそれを見ても油断、慢心をせず、緊張感を持ってツモ牌を取り、{北}を切る。

 

「ロン。混一色、2300」

 

 

柏山学院:和了形

{一二三六六北北} {五五横五} {八八横八}

新道寺打{北}

 

 

 花田煌の奮闘あってか、無限に続くかもしれないと思われていた宮永照の親をわずか一本場で蹴ることができた。しかし、得点だけで見ると2位の新道寺を33900点離して断トツ一位である事には変わりない。しかし、花田煌は点棒を守るという重大な使命を果たしたのだ。宮永照という猛虎を抑え、どうにかして望みを次に繋ぐ『捨て駒』の役割を十分に果たせたのだ。それだけで満足すべきであろう。

 

 

 

 

 

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 花田煌のファインプレーから数十分後、先鋒戦の後半戦を終えた宮永照は控え室へと向かっていた。対局が終わって控え室まで戻っているこの最中も、頭の中で今日の振り返りをする。感情的になって『連続和了』しか使わなかったという点を省いたとしても、課題が残る内容ではあった。そんな反省をしていた宮永照の目の前に、これから次鋒戦にむかう弘世菫とすれ違う。

 

 

「……全力を出すと言ってたからどうなるかと思っていたんだが、思ったよりも差が開かなかったな。大丈夫か?」

 

「ごめんね。今回は『連続和了』しか使わなかったから……流石に倍満三倍満のスピードだと阻止されるほどの実力はあったし。……特に新道寺」

 

 宮永照はそう言って近くのモニターに映っていた各校の点棒状況を見る。トップの白糸台が152000点で新道寺が80400点と、新道寺に71600点差というほぼ二倍近い大差で終えた宮永照であったが、弘世菫の予想よりかはいくらか下回っていたようだ。それは宮永照も感じていた。単純な力量差で見ればこれ以上の点差になっていたはずだ。しかし、それなのにこの結果というのは花田煌の『捨て駒精神』が効いていたのだろう。元よりプライドをかなぐり捨てて負け前提の捨て駒と自覚し、捨て駒として立っている花田煌にとって、もはや失うものなど何もなかった。そのどんな結果になろうとも何も失わないという状況が、返って花田煌にプラスとして働いたのだろう。

 

「……たしかに、新道寺の先鋒。明らかな捨て駒だったが、ガッツは一人前だったな」

 

「そういった意味では普通の相手よりも厄介……菫も気を付けてね」

 

「ふふ。任せろ。私を誰だと思っている」

 

 


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