宮守の神域   作:銀一色

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前回に引き続きです。


第352話 一回戦編 ④ 全力で

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視点:神の視点

 

 

『ロン!3900!ありがとうございました!』

 

 

「よし!まず初戦突破ッ!」

 

「ナイス!シズ!」

 

 インターハイ一回戦第6回戦、阿知賀女子の大将である高鴨穏乃の和了によって一回戦突破が決定した。控え室にいた阿知賀女子のメンバーは画面越しに高鴨穏乃の事を讃え、皆で勝利の瞬間を分かち合っていた。

 

「先鋒、そして次鋒の姉妹コンビで稼ぐ。そして憧と灼が繋いで、最後はシズで締める。理想的な試合だったよ」

 

「二回戦もお任せあれです!」

 

「やっぱり試合に勝つと……あったかい……」

 

 松実玄と松実宥がそんな事を言っていると、新子憧が「でも、二回戦はシードの千里山……」と少し心配そうに呟く。園城寺怜や清水谷竜華達と出くわしていた……千里山という名前の圧力を肌で感じてきた鷺森灼も「そう。次は、今日のようにはいかない……」と言い、ネクタイを締め直す。

 

「分かってるよ……憧ちゃん。灼ちゃん。でも安心して。皆の点棒は、私がきっちり守ってくるから!」

 

 松実玄がポジティブシンキングながらも意気込みを力強く語るところを聞いていた赤土晴絵は少し安心したような表情で(熊倉さんには背水の陣だと分かっているのかって言ったけど……どうやらこの様子だと、この子達は大丈夫そうだね)と心の中で声を漏らした。しかし、赤土晴絵の気のハリが解れる事はなく、思考はすぐに千里山女子の方へと傾いた。

 

(千里山の三年トリオ……あれをどう攻略するか。特に先鋒に至っては情報が少な過ぎる……《《一番摩訶不思議な打ち方なのに》》……)

 

 赤土晴絵は千里山女子の先鋒、園城寺怜の牌譜を頭の中で思い浮かべる。まるで先が読めているかのような打ち回し。未来視、と位置づけるのは簡単なのだが、いかんせん園城寺怜の情報が少な過ぎるのだ。今年の地区大会でもどうやら園城寺怜は温存されていたようで、新鮮な情報が無かったのであった。

 

(考えられるとすれば……小瀬川白望のようなバケモノか、未来視……それとも他のオカルト……もしやまぐれ?……考えれば考えるほど色々出てくるが……)

 

 仮に、もしも園城寺怜が小瀬川白望のようなバケモノレベルであればもはや松実玄に勝ち目は無いと言っても過言では無いだろう。しかし、小瀬川白望のようなバケモノなど早々いるわけもない。園城寺怜がそうならば、今頃王座は白糸台ではなく千里山に渡っていただろう。

 

「……玄、憧。シズを加えてちょっと後で話があるけど、いいか?」

 

「分かりました!赤土先生!」

 

「何の話かは分からないけど……分かったわよ。ハルエ」

 

 赤土晴絵は千里山女子の三年生トリオである園城寺怜、江口セーラ、清水谷竜華と当たる事となっている松実玄と新子憧、そして高鴨穏乃の緊急会議を開く事を約束すると、再び心の中では千里山女子の事を考えていた。

 

 

(監督も姫松の愛宕姉妹の親……どこで何を仕掛けてくるか分かったもんじゃ無い……後手になるかもしれないけど、振り下ろされないのが大事……)

 

 

(……ここを勝ち抜けて、準決勝も何とか踏ん張って決勝……それが私の最後の願い……自分勝手かもしれないけど、ここを乗り切らないと私は過去から一生決別できない……!)

 

 

 

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「取り敢えず阿知賀の勝利、明日は遂にあんた達だね。緊張してるかい?」

 

 阿知賀女子の勝利をホテル内のテレビで見ていた熊倉トシが同じく一緒に見ていた宮守女子のメンバーに向かって質問すると、まず姉帯豊音が「緊張はするけどー……期待の方がいっぱいだよー!」と元気よく答えた。

 

「意気込むのはいいけど、あんまり張り切りすぎないで良いからね?全然私らに回しても大丈夫だから」

 

 臼沢塞が姉帯豊音に向かってそういうと、姉帯豊音は「安心しなよー、塞達の出番を全部取っちゃうくらい、明日は大暴れするよー!」と意気込んだ。

 

「ワタシモ、ゼンリョク!」

 

 エイスリンも姉帯豊音の言葉に同調すると、それを聞いていた熊倉トシが小瀬川白望に「……本人はああ言ってるけど、初戦から全力でやらせても良いかい?」と聞くと、小瀬川白望は「勿論です……豊音達のやりたいようにやらせないと。何かに縛られながらやる勝負なんて、そんな興醒めな話無いですよ……」と答えた。

 

「……本当に、あんたの弟子だね。考え方が更に同じになってきたんじゃないかい?」

 

【同じになるというより……もとより同じだったんだろ。俺がアイツと出会ってから、アイツにした事といえば、アイツの心から無駄な鎖を断ち切っただけ。凡夫じゃ鎖を断ち切っても、慣れない不安に駆られて自ら鎖をつけようとする……そういう事さ】

 

「……成る程ね。類は友を呼ぶ、とはまさにこの事だね」

 

 熊倉トシが納得したようにそう呟くと、両手を叩いて皆に「明日は私たち宮守の初戦。強豪校らしい強豪校はいないけど、油断大敵。全力で戦うわよ。あんた達の力を思う存分見せつけてやっておいで!」と言うと、小瀬川白望は黙ったまま、他の皆は「オー!」と声を上げて右手を突き出した。

 

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「お、阿知賀。勝ったやん」

 

「ホンマか怜!って、また未来見たんか!?」

 

 同じくホテル内で清水谷竜華に膝枕をされながら休養を取っていた園城寺怜は清水谷竜華の問いに対して「いや、船Qからのメールや」と言って携帯電話を清水谷竜華に突き出した。

 

「そっか……次も頑張って欲しいなあ」

 

「アホ。次阿知賀と当たるんはウチらやろが」

 

 清水谷竜華の天然ボケに膝枕されながらの園城寺怜がツッコミを入れると清水谷竜華は「……あっ、ハハハ。そうやったな」と、園城寺怜に言われてようやく思い出したようにそう言った。

 

「それでも……なんかどっちを応援したらええんか分からんなくなるな」

 

「なんでやねん。せめてそこは『千里山を応援しますー』って言って欲しかったわ」

 

 その言葉に対して清水谷竜華が「え、でも……」と言い訳をしようとするが、園城寺怜は立ち上がって清水谷竜華に「そんなら、簡単な話や。ウチが()()()()()()阿知賀と闘う。倒れるまでやめへん。そうすれば、否が応でも竜華は千里山を応援せなあかんくなるやろ?」と言った。

 

「そ、そんな……無理したらあかんよ!」

 

「安心せえ、竜華。何も刺し違えてでも倒すって言ってるわけやない。刺し違えるとかそういう話の前に、完全に粉砕するってことや。阿知賀とはイケメンさん関連でも色々と言いたい事は山積みやしな。どっちがイケメンさんに相応しいか、ここらで白黒決めんとあかん」

 

(……怜のあそこまでのやる気……阿知賀の先鋒が可哀想やな。まあ、そういうウチも手加減する気はないけどな。全力勝負や)

 




次回に続きます。

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