宮守の神域   作:銀一色

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前回に引き続き。


第350話 一回戦編 ② ジャージ……?

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視点:神の視点

 

 

「シロ、折角ならそれも試着すれば?買うかどうかはまた別としてさ」

 

 ジャージを持って自分の身体に当てている小瀬川白望に向かって鹿倉胡桃がそう言うと、小瀬川白望は少し考えるようなそぶりを見せ、「じゃあ良いのあったら試着してみるよ……着心地良かったら買う事にするし」と言い、自分が持っていたジャージを元の場所に戻すと、自分の感覚に任せて適当なジャージを見ずに取り、そのまま試着室へと向かって行った。

 

(ジャージ姿のシロが家でゴロゴロしてる光景……容易に想像できるんだよなあ……それがまたなんというか……)

 

 そして小瀬川白望がジャージに着替えている最中、臼沢塞は試着室のカーテンを見つめながら妄想を働かせていた。そしてだんだんそれがエスカレートしていくと、ふと我に返って心の中で(はああ……)といった自分に対しての落胆の声をあげていた。

 

(何考えてんだか私は……明後日には初戦も控えてるのに……)

 

 臼沢塞は自分に言い聞かせるように心の中で呟くと、後ろから「その気持ち、私も分かるぞ」という声が聞こえてきた。臼沢塞が驚いて後ろを向くと、そこには辻垣内智葉とネリー・ヴィルサラーゼがいた。

 

「なっ……!?」

 

「あー!辻垣内さんだー!」

 

 姉帯豊音に名前を呼ばれた辻垣内智葉は「ご無沙汰してるな」と言う。臼沢塞は何故自分の心の声が聞こえていたのかと疑問そうに辻垣内智葉の事を見つめ、同じく何のことだか分からないような表情をしていたネリーが辻垣内智葉の腕を引っ張って「ねえ、この人達誰?」と聞くと、辻垣内智葉は「シロのいる宮守女子麻雀部のメンバー。そう言えば分かるか?」と言った。

 

「ふーん……成る程ね」

 

(つまりネリーにとってのサトハ以上のライバルって事か……っていうか、この人たちもネリー達と同じで個性豊かなメンバーだね)

 

 ネリーが宮守女子麻雀部のメンバー一人一人をじっくりと見ながら心の中で感想を呟いていると、辻垣内智葉が少し周りを見回しながら臼沢塞に「……シロは何処にいる?」と尋ねた。いきなり聞かれた側の臼沢塞が返答に困っていると、エイスリンが試着室の方を指差して「ココ!シロ、ジャージキテル!」と言った。

 

「じゃ、ジャージ?」

 

 辻垣内智葉がそう言って試着室の方を見ると、ちょうど小瀬川白望が試着し終わったのか、カーテンを開け、「なんかこれ、思ってたのと違うんだけど……」と言いながら試着室から出てきた。その瞬間、その場にいる全員の視線が小瀬川白望に釘付けとなった。そして小瀬川白望はこの時、「……あ、智葉。ネリー」とようやく二人の存在を認識した。

 

(ジャージって……サイクルウェアの方だったのか!?)

 

 辻垣内智葉は小瀬川白望の事を凝視しながら心の中でそう叫ぶ。先ほどまで辻垣内智葉はかの有名な小鍛冶健夜プロが着ているような感じのジャージと予想していたのであったのだが、小瀬川白望が着ているのは予想を遥かに超えたサイクルウェア。空気抵抗を少なくするためにピチピチするジャージの作りが、小瀬川白望の扇情的な肢体やら胸部やらを更に際立たせたのであった。

 

(……ニホンジンは一体何考えてるんだろう。あんな服装、襲えって言ってるようなもんだよ……)

 

 ネリーも呆れ半分、興奮半分の目で小瀬川白望を見ていると、近くにいた臼沢塞が立ったままフリーズしている事に気付いた。同じくそのことに気付いた鹿倉胡桃が臼沢塞を揺さぶって「塞ー!?」と声を掛けるが、臼沢塞からの応答は無かった。

 

「し、シロー?それ、ジャージはジャージでもー……サイクルウェアじゃないかなー……?」

 

 姉帯豊音が少し戸惑いながら小瀬川白望にそう言うと、小瀬川白望は首を傾げながら「……そうなの?」と返した。小瀬川白望自身、適当にパッと取ったものを試着したこともあってか、姉帯豊音に言われるまで気づかなかった。

 

「道理でなんかキュってなるなと思ったら……そういうことね」

 

 そう言い、再び小瀬川白望が試着室のカーテンを閉めると、その場にいた全員が安堵のため息をついた。あれ以上小瀬川白望のあの姿を見てしまったら、一体どうなっていたか分からなかった。

 

(……今更だが、写真で撮っておくべきだったかな)

 

 辻垣内智葉が若干の後悔を滲ませながらも、気絶している臼沢塞の世話をしていると、突然臼沢塞が「うわっ!?」と言って飛び上がった。

 

「あ、やっと戻った!」

 

「びっくりした……シロがまさかあんな格好するなんて」

 

「驚いたのは此方の方だがな」

 

 先ほどまで意識を失っていた事にも気付いていない様子だった臼沢塞の言葉に対して辻垣内智葉が冷静にツッコミを入れると、小瀬川白望が先ほど身につけていたサイクルウェアを手に持ちながら試着室から出てきた。

 

「……確かに。これ、普通のとは全然違う……気付かないもんだね」

 

(いや、私からしてみれば十分良いものを見させてもらったから何とも言えんのだがな……)

 

「ま、まあ。シロ。お前たちの初戦は明後日だっけか。私達臨海と当たるとしたら準決勝……互いにつまらないヘマをしないように頑張ろうな」

 

 辻垣内智葉がそう言うと、小瀬川白望は「うん……準決勝で会えるのを楽しみにしてるよ」と返す。そうして辻垣内智葉とネリーが店の外に出ていった。

 

「……なんか。想像以上に疲れたんだけど」

 

「……一体どっちのセリフよ」

 

 小瀬川白望の言葉をバッサリと切った鹿倉胡桃は「それで。他のジャージも着てみる?」と聞くと、小瀬川白望は「うーん……まあ、いいかな別に。特に欲しいっていうわけでもなかったし……」と言い、あくびを交えながらそう答えた。

 

「じゃあ、そろそろお昼にするー?ちょうど良い時間だしー」

 

「オヒル、タベル!」

 

「そうだね!塞、ちゃんと熊倉先生から貰ったお金ある!?」

 

「ちゃんとあるわよ。私を何だと思ってんの」

 

 そうして、店から出た宮守女子麻雀部のメンバーは昼食を食べに東京の街を歩き続けるのであった。

 




ジャージやサイクルウェアが果たして洋服店に置いてあるかはまた別として……
次回に続きます。

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