宮守の神域   作:銀一色

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前回に引き続きです。



第348話 インターハイ開会編 ⑦ 龍門渕

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視点:神の視点

 

 

 

「もう!どこ行ってたの!?」

 

「いや、ちょっとね……」

 

 獅子原爽と雀明華との一件が終わった小瀬川白望がホテルの部屋に戻ってくると、夜分だというのに外に出て暫く何の返事もなく帰ってこなかった事に対して、鹿倉胡桃にどやされるが、小瀬川白望がまさか獅子原爽と一緒に東京の空で変な格好の服を着せられ、雀明華とのいざこざがあったなどと言えるわけもなく、小瀬川白望は結局言葉を濁らせて誤魔化す事にした。鹿倉胡桃はその言い訳に対しても言いたい事は山ほどあったのだが、臼沢塞に「まあ、無事帰って来たんだから、許してやろうよ。……何かあったんなら話は別だけど」と言われると、鹿倉胡桃は渋々納得して「次はちゃんと連絡くらい入れなさいよ!」と小瀬川白望に向かって叱りつけた。

 

(はあ……大変だったなあ)

 

 そして小瀬川白望は鹿倉胡桃の説教を聞き流しながら、先ほどまでの一件の事について振り返っていた。結局あの後、獅子原爽と雀明華に促されて着替えた小瀬川白望は、雀明華もまぜて獅子原爽の『雲』で東京の夜を上から見下ろしていた。獅子原爽と雀明華の二人は小瀬川白望の腕をそれぞれ片方ずつ抱きかかえるように位置をとっていたため、当然の事ながら両者から流れる不穏な空気はあったものの、二、三十分後に小瀬川白望が泊まるホテルの入り口前に降り、その場で解散することとなった。

 

 

(……自分からじゃあんまり分からなかったけど、他人から見たらどんな感じだったんだろ……今思うと何やってたんだか……)

 

 それと同時に、雀明華曰く『ハレンチ』な服を着ていた自分の格好が今になって知りたくなったのであった。夜ということも相まってか、自分が一体どういう格好をしていたのかあんまり分からなかった小瀬川白望は雀明華の反応からしか推測できないのだが、あの雀明華がきっぱりと『ハレンチ』と言うくらいなのだから、相当凄い格好をしていたのだろう。そう考える路、今更ではあるが先ほどまでとは比べほどにならないくらいの猛烈な羞恥感が小瀬川白望を襲い、思わず顔を赤くしてしまう。それを見たエイスリンに「シロ、カオマッカダヨ?」と心配の声を掛けられるが、小瀬川白望はあまり触れないでくれといった感じで「いや、大丈夫だから……」と言うと、逃げ込むようにして浴衣とバスタオルを持ち、温泉の方へ向かうべくそっと部屋を出て行った。その時姉帯豊音に「シロー?どこ行くのー?」と言われたが、小瀬川白望は恥ずかしさのあまりそれが聞こえていなかったようで、結果的に無視する形で外へ出て行ってしまった。

 

 

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(さっきの事は忘れよ……思い出すだけで恥ずかしい……)

 

 

「おっ、先客やなと思ったら……なんや。シロちゃんやないか」

 

「な、なななな!?白望!?」

 

 小瀬川白望が何もかも忘れようとして目を閉じ、無心で温泉に浸かっていると、愛宕洋榎と末原恭子が大浴場へとやって来て、小瀬川白望の事を呼んだ。呼ばれた小瀬川白望は「ん……」と言って目を開いて二人の方を見ると「……奇遇だね。二人だけ?」と口を開いた。

 

「ああ、今こっちに来とんのはウチらと、あっちで着替えとる由子やな。絹と漫は部屋におる。由子の方は多分そろそろ来るで」

 

「呼ばれてご登場なのよー」

 

 愛宕洋榎がそう言って脱衣所の方向を見たと同時に、脱衣所から真瀬由子が出て来る。「誰と話してると思ったら、まさかの白望ちゃんだったのねー」と言いながら三人の方へと向かう。しかし、ここで愛宕洋榎が脱衣所の方を見ると、首を傾げた。脱衣所の方には、竹井久と龍門渕透華、そして天江衣がいた。

 

「ん……あれは清澄んとこの部長と……確か龍門渕?」

 

「龍門渕?」

 

 小瀬川白望が愛宕洋榎の口から出た『龍門渕』の名前に反応を示すと、隣にいた末原恭子が「え、白望……知らんのか?」と聞く。そう聞かれた小瀬川白望は「……いや、あんまり」と言うと、真瀬由子が「去年、長野県の代表で当時は全員一年生ながら大将を中心に暴れ回ったダークホースなのよー。今年は敗れて代表は清澄になったみたいだけど……」と説明を加える。

 

「ふーん……でもなんでそんな高校が久と……?」

 

「さあ?なんかあったんやろうとは思うけどな……」

 

 そんな会話をしていると、大浴場に入って来た竹井久が小瀬川白望達のことに気付いたようで、驚きながら「し、白望さん!?」と叫ぶ。愛宕洋榎はそんな竹井久と末原恭子の事を見ながら、どこか似たような感じがするとニヤニヤ笑っていたのだが、もう一つ意外なところから小瀬川白望の名前が挙がった。

 

「し、白望……?ま、まさか……『小瀬川白望』か!?」

 

「……誰かの妹?」

 

 龍門渕透華の後ろからさっと出て来た天江衣が小瀬川白望の名前を呼ぶが、小瀬川白望はまさか天江衣が自分の年齢と一つ違いだとは思わず、誰かの妹かと言ってしまう。それを聞いた天江衣が「むっ……烏滸の沙汰限りなし!衣は高校二年生だぞ!」と若干腹を立てながら言う。

 

(……どう見ても見えないけどなあ。胡桃より小さいかも……?)

 

 小瀬川白望は天江衣の事を見てそう心の中で思っていると、天江衣から早く自分の問いに答えろと言った視線が注がれているのに気付いた小瀬川白望は「あー……まあそうだよ。私が小瀬川白望。それで?」と返すと、天江衣は小瀬川白望の事をじっと見た。

 

(この者が衣よりも段違いで強いという(ツワモノ)か……妖異幻怪の気形……いや、衣の言葉では表すことの出来ない何かを持っている……)

 

(成る程……道理で『衣が勝てない』とあのプロが言ったわけだ。仮令満月の夜であったとしても……衣が白望に地を着けさせることは無理、不可能の領域……)

 

 天江衣は冷や汗を流しながら、しかし冷静さを欠くことなく小瀬川白望から放たれる自分以上の威圧感、オーラを感じ取る。天江衣がこれまで宮永咲や高鴨穏乃のように驚かされた人間はいるにはいるのだが、小瀬川白望のように対局する前、言ってしまえば雰囲気だけで天江衣を驚かせ、冷や汗を流すほど恐怖を与えられたのは初めての経験であった。そして何よりも、小瀬川白望の威圧感が凄い、恐ろしいというだけで、具体的なものは何も分からないというのが更に天江衣に恐怖を与える要因となった。無知故の恐怖。天江衣は、小瀬川白望に対しての情報をこれといって持ち合わせてはいなかった。ただ、恐ろしいという漠然とした情報しか手持ちには無かった。

 

「……そうか。そういう事か。ありがとう、シロミ」

 

「……それだけ?」

 

「名前が聞けただけでも衣にとっては万々歳。とーか、身体を洗いに行こう」

 

 そう言って天江衣は龍門渕透華を引き連れて身体を洗いに行くと、龍門渕透華から「あら、あの方と打つ約束をしなくてよかったんですの?折角のチャンスなのに……」と言われると、天江衣はシャワーで頭を濡らしながらこう呟いた。

 

「……生憎ながら、衣は金剛不壊では無いからな」

 

「……?衣が『オモチャ』にされるんですの?てっきり逆かと思ってましたわ」

 

 

 

「そんな訳ない……アレは衣よりも奇々怪界、正真正銘のバケモノだ……」




次回に続きます。

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