宮守の神域   作:銀一色

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前回に引き続きです。


第344話 インターハイ開会編 ③ 眠りの王子様

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視点:神の視点

 

 

「んん……もうちょっと……」

 

「ほら、早く起きる!9時から始まるんだから、ボケっとしてたら遅れちゃうよ!?」

 

「私が抽選会出るわけじゃないし……先行ってて……」

 

「そうしたら絶対来ないんだから!起きてー!」

 

 東京にやって来てから一日が経ち、とうとうインターハイの抽選会と開会式当日となった。抽選会が早朝の9時から行われるために、一刻も早く出発しないといけない状況で小瀬川白望は鹿倉胡桃に布団から引き剥がされようとしていた。しかし、小瀬川白望は半分意識が眠ったままであるのにも関わらず、意外と強い力で布団を抱きしめていた。鹿倉胡桃一人の力では引きが剥がせないと感じたのか、鹿倉胡桃は姉帯豊音の名を呼んで「シロの事起こすの、任せたよ!私はシロの制服用意するから!」と言い、ハンガーで掛けてあった小瀬川白望の制服を取ろうとした。そして鹿倉胡桃に託された姉帯豊音は、小瀬川白望の身体に手を回すと、「ん〜……そりゃ!」と言って小瀬川白望を強引に持ち上げる。持ち上げられた小瀬川白望は驚いて目を見開くが、目の前に姉帯豊音の顔を見て安心したのか、現状を確認すると目を閉じようとする。が、それは臼沢塞の「こらっ。せっかく目開けたんだから、観念なさい」という言葉によって阻止された。小瀬川白望が「うーん……ダル……」と言って姉帯豊音から解放され、布団の上に立たせられると、鹿倉胡桃と臼沢塞による着替えが始まった。小瀬川白望はなすがままに寝巻きを脱がせられ、そして制服を着させられた。鹿倉胡桃はむしろその事を若干楽しみながらやっていたのだが、一方の臼沢塞にとっては小瀬川白望の下着が目に入って興奮し過ぎていつ鼻血を噴いてもおかしくない状態であった。しかしこのまま小瀬川白望が制服に着替えるとも思えにくいため、臼沢塞は自分に『これはシロのため』と言い聞かせながら平静を保っていた。

 

「そろそろ行かないと間に合わないよ。準備できたかい?」

 

「シロ、マダキガエテル!」

 

「あらまあ……王子様はまだ着替え中だったかい」

 

 部屋に戻ってきた熊倉トシが呆れたように着替えさせられている小瀬川白望を見てそう呟くと同時に、小瀬川白望の着替えが完了したのか、姉帯豊音が小瀬川白望をお姫様抱っこするように抱えると、そのまま急いで部屋から出て、若干小走りでホテルのフロントを目指す。

 

 

「あ……もしやあれ!」

 

「ん、どうかしたんですか。主将」

 

 そしてそんな宮守のメンバーを愛宕洋榎が見つけると、末原恭子も愛宕洋榎と同じ方を見る。そこには末原恭子が想いを寄せている小瀬川白望が、お姫様抱っこで『長身で黒服の人』に連れ去られていた。末原恭子が「さ、攫われとる!?」と叫んで後を追おうとすると、愛宕洋榎から「待て待て待て。あの御団子とちっこいのもいたからそらないやろ」と末原恭子の事を止める。

 

「そ、そうやな……」

 

「にしても……あの黒いの、ホンマデカかったな。何者なんやろ……」

 

「誤解した後で今更言うのもアレやけど……多分先鋒の姉帯豊音やな」

 

「ほーん?先鋒の、ねえ……」

 

 愛宕洋榎が興味津々と言った感じで顎に手を当てると、末原恭子が「何でも団体戦の地区大会ではあの先鋒と、留学生の次鋒だけで勝ち抜いたとか……」と情報を加える。それを聞いた愛宕洋榎は「成る程なあ……シロちゃんだけやないってことか。まあ、シロちゃんと毎日打てるってなったらそらそうなるやろうなあ」と言う。

 

「じゃあウチらも頑張らんとな〜?」

 

「うわっ!?代行……いつから居たんですか!?」

 

 するとそんな二人に割って入るように赤阪郁乃監督代行がスッと出てくる。末原恭子の問いにはふふふと不敵ながらも不気味に笑みを浮かべると、「末原ちゃんが誤解した辺りからかな〜?全く、気付いてもらえなくて寂しかったで〜?」と言う。

 

「まあ恭子の誤解はともかく。由子達はもう準備できたんか?」

 

「今さっきできたところやで〜。ほな、行きましょかー」

 

 赤阪郁乃がそう言うと、背後から真瀬由子達が半ば慌てながらもやってきた。末原恭子がそれを確認すると、小瀬川白望達の後をついて行くようにホテルのフロントを目指した。

 

 

 

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「ほら部長。シャキッとして下さい」

 

「久が一番緊張してどうするんじゃ……全く」

 

「わ……分かってるわよ……!」

 

 一方、既に抽選会の会場に到着していた高校もあり、清澄高校は今まさに部長の竹井久が抽選会の控え室に行くところであった。原村和と染谷まこに促されながらも竹井久は深呼吸を何度か繰り返すと、「じゃ、じゃあ……良い番号、引いてくるわよ!」と言い残し、控え室へと向かっていった。

 

「全く……心配になるのお……久といい咲といい……」

 

「咲ちゃんはまーた迷子だじぇ……」

 

「須賀君が探しに行ってますけど……どうしてこうも居なくなるのか……」

 

 清澄高校麻雀部の面々が呆れたようにそう会話している最中、竹井久は躍動する心臓を押さえつけるように息を吐きながら、(はあ……ようやく来れたけど……正直場違いね……私の器がこの場に相応しくないわ……)と自分を卑下しながら歩いていた。

 

 

 

 

「では、私は此方かしらね」

 

「霞ちゃん!頑張って下さいよー!」

 

「私たちシードだけどね……」

 

「まあ、勝負はまず気持ちからと言うではないですか!気合いを入れても良いと思います!」

 

 そして同じく先に来て居た永水女子のメンバーは、部長の石戸霞が他のメンバーに見送られて居た。石戸霞は控え室に向かう前に、思い出したかのように狩宿巴に向かって小さく「シードの位置決める時……『アレ』、使って良いかしら?」と聞いた。

 

「馬鹿言わないで下さい。祓うのも大変なんですから……それに、そんなに何回も使うと今度こそ本当に死にますよ?」

 

「ふふふ。冗談だわ。何回も死にかけたもの。良い加減分かったわよ」

 

 石戸霞がそう冗談らしく言うと、ゆっくりと控え室に向かって行った。そうして永水女子のメンバーも戻ろうとした時、強烈な何かを永水女子の皆は感じ取った。永水女子のメンバーは互いに目線を合わせると、まず神代小蒔がこう発言した。

 

「これは……まさか」

 

「……そうですねー……大本命のお出ましですよー」

 

「凄いですね……これ。何かに憑かれてるわけでもない、素の状態でこれですか……」

 

「私達だけじゃない……きっと会場内の皆が感じてる……多分それほど凄い……」

 

 そう、これと同時刻。つい先ほど起きた小瀬川白望を始めとした宮守女子麻雀部が、抽選会の会場へと辿り着いたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回に続きます。

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