宮守の神域   作:銀一色

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前回に引き続きです。


第343話 インターハイ開会編 ② 東京

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視点:神の視点

 

 

「ほら、シロ。もう直ぐ着くよ、東京!」

 

「んん……」

 

 臼沢塞に半ば揺さぶられるようにして起こされた小瀬川白望がずっと寝ていたのにもかかわらず眠たそうに瞼を開けると、新幹線の窓から見える景色は岩手では見る事のできないであろうほど溢れんばかりにビルが所狭しと並んでおり、まるで違う世界にきたのかと思ってしまうほどの大都会。小瀬川白望にとってはもはや見慣れてしまった、ビルの林と表現できるような風景がそこにはあった。新幹線内のアナウンスが告げるように、もうそろそろ東京に着くという事らしい。小瀬川白望が寝惚けながらも、自分の荷物を持ち、いつでも降りれるような万全の状態を整えた。

 

 

 

 

 

 

 

「凄いよー!ビルが一杯だよー!」

 

「ビル、スゴイ!」

 

 東京に降り立った姉帯豊音とエイスリン・ウィッシュアートは辺りを見回しながら燥ぐように声を上げる。臼沢塞と鹿倉胡桃が小瀬川白望の事を押しながら姉帯豊音とエイスリンの後に続くように歩き、その後ろから「あんまりはしゃぎ過ぎないんだよ」と声をかける。

 

「やっぱりここの熱さは慣れない……」

 

「どうせ岩手でも同じこと言うんだから、シャキッとする!」

 

 小瀬川白望が弱音を吐くが、鹿倉胡桃に一蹴される。それに続くように後ろで歩いている熊倉トシに「ホテル内は涼しいだろうから、ホテルまで頑張っておくれ。若いアンタが最初に根をあげてどうするんだい」と言われた。

 

 

「ん、あれは……」

 

「げっ!?」

 

 

 そしてホテルに向かっている最中、小瀬川白望は誰かを見つけたかのように声を上げる。隣にいた臼沢塞と鹿倉胡桃も、実に嫌そうな表情を見ながら小瀬川白望と同じ方向を見る。そんな三人の反応に合わせて姉帯豊音とエイスリンと熊倉トシがその方向を向くと、そこには辻垣内智葉とメガン・ダヴァンが立っていた。

 

 

「し、ししししシロ!?」

 

「智葉……」

 

 どうやら向こう側も突然のことでびっくりしているのか、辻垣内智葉は声を震わせながら小瀬川白望の名前を呼ぶ。隣にいたメガン・ダヴァンはと言うと、これから面倒なことになりそうだと言わんばかりの渋い表情を浮かべながら愛想笑いをしていた。

 

(誰かと思えば……臨海女子の先鋒と副将じゃないか……こりゃあまたビッグネームだね)

 

 熊倉トシがそんな二人の事を見て冷静に思考を巡らせていると、小瀬川白望は一歩前に出て辻垣内智葉の方へと向かう。その時、エイスリンと姉帯豊音は驚いて二人のことを見ていたが、一方の臼沢塞と鹿倉胡桃はどこか睨みような目で辻垣内智葉の事を見ていた。

 

「智葉、久しぶり……」

 

「久しぶりだな……そして、帰ってきたな。シロ」

 

「うん……」

 

 

 

「も、もしかして辻垣内智葉さんですか!?」

 

「うわっ!?あ、ああ……そうだが……?」

 

 するとそこに割って入ってくるようにして姉帯豊音が辻垣内智葉の前に立つと、辻垣内智葉は少し怯みながらも返事をする。メガン・ダヴァンよりも高身長な姉帯豊音を前にして、メガン・ダヴァンも思わず身構える。すると姉帯豊音は一体何処にしまってあったのか、シュバッと目にも留まらぬ速さで色紙とサインペンを辻垣内智葉の目の前に差し出し、「あ、あの……サインしてもらってもいいですか……?」と頼んだ。

 

 

「え?まあ……構わないが……」

 

(一体何処から出したのでショウカ……取り出す時の手が見えませんでしたケド……)

 

(全く、早過ぎて一瞬チャカに見えたじゃないか……)

 

 辻垣内智葉が言われるがままにサインをスラスラと書くと、姉帯豊音にそれを差し出す。辻垣内智葉自身麻雀や色んなことで有名であるということは自覚していたが、サインなどこれまで書いたことなどない。しかしながら、そう言われないと分からないくらい辻垣内智葉は書き慣れたように書いていたのだ。そこのところは流石というべきか。

 

 

「ありがとうございます!」

 

「ま、まあこんなもの朝飯前だ」

 

 そうして辻垣内智葉が若干照れながら喜ぶ姉帯豊音を見ていると、辻垣内智葉の後ろ側から「……白望」と小瀬川白望の名を呼ぶ声がした。それはメガン・ダヴァンの声ではない。その場にいる全員がその声の方向を向くと、そこには宮永照と大星淡がいた。

 

「テルー?この人たち、知り合いの人?」

 

「うん……色々と因縁のある人もいるけどね」

 

 宮永照が辻垣内智葉の事を見ながらそう言うと、ゆっくりと前に出て、「こんにちは。白望」と言った。

 

「照、こんにちは……」

 

 小瀬川白望が宮永照にそう返事をすると、大星淡が「あー!この人がテルーの言ってた『白望』って人!?」と小瀬川白望を指差してそう言った。

 

「……誰?」

 

「大星淡。白糸台の大将だよ」

 

 後ろにいた熊倉トシが小瀬川白望に向かって言うと、小瀬川白望は「ふーん……大将ね」と大星淡の事を見ながら呟く。すると大星淡が名乗りを上げるようにして胸を張ってこう言った。

 

「改めまして……私は大星淡!高校100年生だよ!テルーがお世話になってるみたいだね!」

 

「……そうなの?」

 

「……私に聞かないでよ」

 

 小瀬川白望の疑問が臼沢塞にそう跳ね返されると、小瀬川白望は疑問を取り敢えず置いとくことにした。

 

「まあ私たち、これからホテルに行くから……」

 

「ほ、ホテ……!?い、いや。そうか……じゃ、じゃあ。またな」

 

 小瀬川白望の発言によって少しほど辻垣内智葉の妄想が生まれてしまったが、直ぐに冷静を取り戻してそう言い、メガン・ダヴァンを引き連れて何処かに歩いて行った。また、宮永照も「じゃあまた……会場で。行くよ、淡」と言ってその場を後にした。

 

 

「……ハッ!宮永さんと大星さんからサイン、貰い忘れたよー!」

 

 そうしてホテルに向かおうとした直後、姉帯豊音が思い出したかのようにそう言うが、鹿倉胡桃が「別に後からでも貰えるし、良いんじゃない?」と言うと、姉帯豊音は少し悔しそうに「分かったよ……そうするよー……」と言った。

 

(それにしてもー……辻垣内さんと宮永さん、強力なライバルだねー……確かに尊敬する人たちだけどー……麻雀でも恋でも、負けるわけにはいかないよー?)

 

 姉帯豊音がそんな事を考えていると、宮守女子麻雀部が宿泊する事となっているホテルに到着していた。小瀬川白望達はチェックインを済ませると、直ぐに部屋に入って部屋の中で一時の休息を取ることにした。

 

「ふう……初っ端から大変だったね」

 

「シロ、シリアイオオイ!」

 

 エイスリンが小瀬川白望に向かってそう言うと、小瀬川白望は「そうだね……全国にいるからね」と答えた。どうやらエイスリンの知り合い=恋のライバルという等式は伝わっていなかったのか、悪びれもなくそう言うと、心の中でこんな事を考えていた。

 

(……個人戦では久々に智葉や照と打つ事になる……楽しみだなあ……)

 

 

(全く……どうせ悪びれもなく『楽しみ』だとか思ってるんだろうけどね……さっきの空気感はたまったものじゃなかったよ……一触即発だったじゃないか……)




次回に続きます……

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