宮守の神域   作:銀一色

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前回に引き続きです。
今回からインハイ編。


第342話 インターハイ開会編 ① 出発

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視点:神の視点

 

 

「ふわあ〜あ……眠い……」

 

 8月3日、宮守女子の闘いが始まる日。いや、厳密にはインターハイという名の祭典の開会式が行われる一日前なので違うと言えば違う。団体戦のトーナメントを決めるために行われる抽選会と、開会式が明日に行われるのだが、抽選会の方が明日の9時から行われるので、当日出発では間に合わないのであった。故に宮守女子のメンバーはインターハイが行われる東京に今日の早朝からこの盛岡駅までやってきたのだ。朝早くの出発ともあってか小瀬川白望が締まりのない欠伸をすると、鹿倉胡桃が「ほら、シャキっとする!」と言って小瀬川白望の曲がった背筋を押す。しかし小瀬川白望は「だって……」と反論しようとする。もちろん早朝だからという理由もあるのだが、それ以上に前日、夜に色々な人から送られてきたメールに変身していたのも理由であった。小瀬川白望がそういった事を鹿倉胡桃に告げると、鹿倉胡桃も昨日の夜メールを送ったタチなので「うっ……ま、まあそれは悪かったけど!」と苦しみながらも言った。

 

「最初で最後のインハイなんだからさ!気合いくらい入れていこうよ!」

 

「……おー」

 

 小瀬川白望が眠そうな表情で喉から絞り出したような声を言って意気込みを入れると、隣にいた臼沢塞がふふっと笑って「まあシロらしくて良いんじゃない?」と言った。

 

「まあ確かに……シロに気合を期待した私が間違ってたよ!」

 

「うーん……悪口に聞こえるけど……ま、いいや……」

 

 小瀬川白望が何か言いたそうにしたが、結局言うのをやめて駅のホームへと向かう。そしてホームに到着すると、熊倉トシが「ほら。時間ギリギリだから早く乗るよ」と急かすように言うと、皆迅速な行動で新幹線に乗ろうとした。……小瀬川白望ただ一人を除いて。

 

「ほら、シロー。急ぐよー」

 

「ハリー、アップ!」

 

 エイスリンに急かされ、そして姉帯豊音に背中を押されるようにして新幹線の車内の中に入った小瀬川白望は、指定された座席に座るやいなや、自分の荷物を置き、座席を少しほど倒して、そのまま眠ってしまった。臼沢塞がその驚きの早さに「早っ!?」と驚きの声を上げるが、もう既に小瀬川白望は眠りについてしまっているようだった。

 

「まあゆっくり寝させておやり。あんた達も、今のうちに寝れるんなら寝ときなさいよ?」

 

「私らはどうかは分からないけど……豊音とエイスリンは眠れなさそうだね」

 

「うん!目がパッチリしてるよー!」

 

「メ、パッチリ!」

 

 そんな四人の会話を聞いていた熊倉トシはふふっと微笑しながら、持ってきたタブレット端末を手にとって各県の地区大会の牌譜の整理を始める。

 

(ま……牌譜を見るより、実際に見た方が白望にとっては分かりやすいかもしれないね……何かの手掛かりになってくれるといいけど)

 

 そうして宮守女子高校の麻雀部のメンバーを乗せた新幹線は、インターハイ開催……敢えて言い換えるなら決戦の地、東京へと進み始めた。

 

 

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「お二人は、どうして制服なんですか?」

 

 

 所変わって高速道路の途中に設置されていたサービスエリア内では、阿知賀のメンバーである高鴨穏乃と新子憧、松実玄が三人と同じように制服を着ていた『病弱そうな少女』と、それの『世話をする少女』とベンチの上で話をしていた。

 

「うちら、『部活の大会』があってな。それで制服着とるんや」

 

「ま、まさか……」

 

 新子憧が『世話をする少女』が放った『部活の大会』というワードにもしやと思ってそう言うが、新子憧が彼女達に追求する前に遠くの方から学ランを着た少女が「怜ー!バスもうすぐ出るでー!」と言って手を振っていた。怜と呼ばれた少女……もとい園城寺怜と清水谷竜華は立ち上がると、三人に向かってこう言い残し、その場を去って行った。

 

「ウチら、もう行かんと。楽しかったで」

 

「ほな、また。……会場で」

 

「「「!?」」」

 

 園城寺怜が清水谷竜華に聞こえないような声で去り際に言った言葉に三人は動揺するが、そんなものは気にせず園城寺怜と清水谷竜華は江口セーラ、船久保浩子、二条泉のいるところまで向かう途中、園城寺怜はこんな事を呟いた。

 

「……もう時間か。時間の流れは早いなあ。もっと話して行きたかってんけどな」

 

「怜がシロさん以外でそういうなんて、珍しいなあ?」

 

「そらあの三人もインハイに出るんやし。少しでも情報引き出せた方ええやろ」

 

 園城寺怜がそう言うと、清水谷竜華は驚いたような声で「ほ、ホンマか!?」と言った。そんな清水谷竜華に対して、園城寺怜はジトッとした目で「当たり前やろ……制服でおかしいのはウチらだけやない。あの人らもなんやから」と言った。

 

(見たこともない制服だったし、初出場校なんかな……まあ、イケメンさんとの接点があるようならウチの敵になることは間違い無しや)

 

 

 園城寺怜は心の中でそんな事を言いながら、江口セーラたちのところまで向かって行った。

 

 

 

 

「なんだ。こんなところにいたのか……ってあれは……」

 

 そして一方の高鴨穏乃たちの方では、顧問の赤土晴絵と鷺森灼が三人に合流した。赤土晴絵が去って行く園城寺怜と清水谷竜華に反応を示すと、高鴨穏乃が「あ、あの人たちを知ってるんですか!?」と赤土晴絵に聞いた。

 

「知ってるも何も……」

 

「全国二位、第四シードの千里山女子。あっちの方に同じような制服を着てた人たちが乗ってるバスが3、4台はあった……」

 

 鷺森灼が赤土晴絵の代わりに答えると、高鴨穏乃と新子憧、松実玄はもう一度園城寺怜と清水谷竜華の事を見る。さっきと今の印象とでは、天と地の差。まるで何か恐ろしいものを宿しているような、そんな錯覚を三人は受けたのであった。




次回に続きます……

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