宮守の神域   作:銀一色

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前回に引き続きです。


第340話 地区大会編 ⑱ 羨

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視点:神の視点

 

 

「ふう……」

 

 

「……」

 

 

 小瀬川白望と姉帯豊音との会話も終わり、露天風呂内では暫し静寂の時間が訪れていた。小瀬川白望は息を吐きながら上半身を逸らし、空を見上げる。今までの記憶、思い出を回想しているのか、空を見ているというよりも、どこか違う世界を見ているようであった。一方、その時の姉帯豊音の視線は他のどこでもない、小瀬川白望の胸の部分に向いていた。姉帯豊音自身もそれ相応のモノは持っているとは自負しているが、それでも気になってしまうのだ。小瀬川白望のモノともあれば尚更である。

 そうして小瀬川白望がふと我に返って視線を水平に戻すと、姉帯豊音が自身の胸を凝視していることに気付いたのか、自身の胸を隠すかのように手を交差させ、「……何、見てるの」と呟いた。

 

(……し、シロにも羞恥ってあるんだー……)

 

 小瀬川白望の意外な反応に対し、姉帯豊音は心の中で驚きの声を上げる。あそこまで人を誘ったり誤解を与えるような言動をしているくせに、本当は初心で無垢な人間であるということに驚きを隠せない姉帯豊音は、「ご、ごめんねー……?」と小瀬川白望に声をかけると、小瀬川白望は「うん……」と呟いた。

 

 

(豊音も、怜みたいにそういうのに興味があるのかな……)

 

 小瀬川白望は姉帯豊音を見ながら、一年前に小瀬川白望の胸をおぶられている状態で鷲掴みにした園城寺怜の事を思い出す。当時は小瀬川白望は寝相が悪いということで結論づけていたが、後で園城寺怜に聞けば故意でやったものだと明かされたことから、園城寺怜は"そういうもの"の類いの代表的人物となってしまった。小瀬川白望がそんな事を考えていると、姉帯豊音は「ねえ、シロー……」と言って寄り添ってきた。

 

 

「何、豊音……?」

 

 小瀬川白望が姉帯豊音に聞き返すと、姉帯豊音は有無を言わせず小瀬川白望に抱きつき、「シロの肌、スベスベだよー……」と言い、身体を擦り付ける。小瀬川白望は眉を顰めながら「そう……?」と言うと、姉帯豊音は「そうだよー……胸も大きいし、羨ましいよー」と返した。

 

「豊音だって小さいわけじゃないじゃん……胡桃じゃあるまいし」

 

「あ、今もしかして胡桃の悪口ー?」

 

 姉帯豊音が揚げ足を取るようにして言うと、小瀬川白望は「そう言うわけでもないけど……」と少し困ったような表情をして呟く。それを聞いた姉帯豊音がふふふと笑うと、「ごめんごめん……ちょっとからかいたくなってー……」と撤回した。

 

「まあ、私もあるにはあるけどー……でも、シロのが良いよー」

 

「何それ……」

 

 姉帯豊音が小瀬川白望の胸元に頭を埋めるようにして抱きつく手の力を強めると、小瀬川白望は呆れたような目で姉帯豊音を見るが、しっかりと姉帯豊音に付き合って上げるのであった。

 

「じゃあ、そろそろ上がろうか?豊音」

 

「うん。そうしよう、シロ」

 

 

 そうして小瀬川白望と姉帯豊音は立ち上がり、湯船から出る。湯船から出た後、小瀬川白望と姉帯豊音は手を繋ぎながら脱衣所の方へと戻って行った。

 

 

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「豊音、ずるいよ!シロと二人きりで温泉なんて!」

 

「ヌケガケ、キンシ!」

 

 温泉から戻ってきた小瀬川白望と姉帯豊音を迎えたのはまず鹿倉胡桃とエイスリン・ウィッシュアートからの批判の声であった。鹿倉胡桃はムッとした表情を浮かべながら、エイスリンはホワイトボードに大きくバツを書いて主張する。

 

「ふふふー……たまたま運が良かっただけだよー?」

 

 姉帯豊音が勝ち誇るようにして言っていると、臼沢塞が小瀬川白望の頬を触りながら「シロ、豊音に何も変なことされなかった?」と尋ねる。小瀬川白望は首を傾げながら「……どういうこと、塞。……いや、でも……」と迷うようなセリフを言うと、臼沢塞は「な、何かあったの!?」と切羽詰まったような表情で詰め寄った。

 

「うーん……そういうわけでもないけど……」

 

「ちょ、シロー……誤解されるような事言わないでよー?」

 

 姉帯豊音が鹿倉胡桃とエイスリンからの攻撃を抑えながら小瀬川白望にそう言うと、臼沢塞は小瀬川白望の肩を掴んで「や、やっぱり!何かあったんでしょ!?」と問いかけた。

 

「まあまあ。そこらへんにしといてやりなさい」

 

 そしてそんな小瀬川白望を巡っての言葉の嵐の中、熊倉トシがそう言いながら部屋に戻ってくる。臼沢塞が「で、ですけど……」と反論しようとするが熊倉トシは「別に数十分くらい勘弁してやりな。人生なんて普通に生きてりゃこのご時世7、80は生きれるんだ。まだまだ時間はあるんだしね」と若干屁理屈のような事をわざとらしく言った。

 

【……俺は53までだったけどな】

 

「アンタはちょっと事情が違うだろう。生きようと思えばもっと生きれたはずだよ。……アンタはそれが嫌だったんだろう?」

 

【そう言う事だな……人間、自分の事すりゃ忘れりゃあ生きていても死んでると同じさ……】

 

 赤木しげるがそう言うと、熊倉トシは「変わり者だね……」と呟き、皆に向かって「そろそろ練習再開……と行きたいところだけど、お腹も空いたことだろうと思ってね。ここらで夕食としようじゃないか」と提案し、皆はそれに賛同した。

 

 

「うー……シロー、こっちにおいでよー……」

 

「豊音はさっきまでべったりしてたからいいの!今度は私たちの番!」

 

 

 そうしてホテルの一階にあるレストランに行く最中、小瀬川白望は鹿倉胡桃とエイスリンに抱きつかれたまま移動をしていた。姉帯豊音は悲しそうな声で小瀬川白望に声をかけるが、鹿倉胡桃にあっさり却下される。そしてそんなやり取りを横から見ていた臼沢塞も(……後で、チャレンジしてみようかな……)といった欲望を心の中で吐き出していた。そんな五人を後ろから見ていた熊倉トシは、ため息混じりに心の中でこんな事を呟いていた。

 

(……全く。仲が良いんだかライバルなんだか……分かったもんじゃないね)

 

 

 

 

 




次回に続きます。

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