宮守の神域   作:銀一色

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お久しぶりです。
土曜日辺りから体調が優れず、結局今日まで休載させていただきました……
休載が続くとあれですね、どう書いていいのか分からなくなりますね。


第334話 地区大会編 ⑫ 試験

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視点:神の視点

 

 

(も、もう、点はやれないよー……)

 

 小瀬川白望の親を蹴るどころか聴牌すらできぬまに連荘が続き、東一局二本場となり、そろそろ切羽詰まってきたところで姉帯豊音は最終手段、六曜の1つである『仏滅』を使用しようと試みる。この場にいる姉帯豊音を含めた全員のツモの引きが極端に悪くなるという諸刃の剣。だが、そんな諸刃の剣を使わなければ現状を凌げないと思わせるほど姉帯豊音は小瀬川白望に追い詰められていたのだった。

 しかし、小瀬川白望にそんな小細工など通用するわけもない。どれだけ引きが悪くなろうとも、姉帯豊音も引きが悪くなるという、条件が同じならばただ延命する時間が長くなるだけである。そのことを姉帯豊音はよく理解していたのだが、理解した上でそれしか方法はなく、まさに万策尽きた状態であった。

 

(ど、どうか場が流れますように……)

 

「リーチ」

 

 が、姉帯豊音の祈りも天には……いや、小瀬川白望には通じず、無慈悲な宣告が対局室に木霊する。どれだけ引きを悪くしても、どれだけ小瀬川白望の行く道を阻もうとも、小瀬川白望よりも引きを良くする、もしくは配牌の時点で圧倒的優位に立つ事が出来なければ、先手を取ることはできない。どう足掻いても、だ。

 

(……さあ豊音。どうする)

 

 小瀬川白望は手牌を自分の元へと寄せ、対面に座る姉帯豊音のことを見定めるように見つめる。果たしてこの状況で姉帯豊音はどう対応するのか、それともただ呆然と何も出来ぬままでいるのか、ある意味これは小瀬川白望からの試験、仮想インターハイとも言える。来たるべきインターハイの団体戦、姉帯豊音が担当する先鋒には強敵が揃いに揃っているからだ。もし地区大会と同じメンバーでインターハイに出るとなると、姉帯豊音は宮永照、辻垣内智葉、園城寺怜といった強敵と当たる可能性がある。というか、頂点を目指すのであればどうクジ運が良くてもこれら三人の内最低一人は当たることになる。そんな強敵相手に姉帯豊音がどこまで動じず自分の麻雀ができるか。それが小瀬川白望にとってここで確認しておきたいことであった。

 当然、これを乗り越える事ができれば小瀬川白望としても何も言うことはないが、これで心が折れてしまうのなら改善……というより精神強化が必要となって来る。どちらにせよ収穫が望めるこの試験、しかし姉帯豊音は既に心が折れかけていた。

 

(……やっぱりまだ必要かあ)

 

 小瀬川白望はそんな姉帯豊音の心情を察しながらも、何も言わずに姉帯豊音の対処の仕方を観察する。そして小瀬川白望のリーチがかかってから四巡後、姉帯豊音の{四}を見て小瀬川白望は手牌を倒した。

 

「ロン……リーチ裏1、3900の二本場……」

 

 

小瀬川白望:和了形

{三五七七七①②③22678}

 

 

裏ドラ表示牌

{四}

 

 

 小瀬川白望が宣告すると、姉帯豊音からは悲鳴に似た呻き声があがった。もはや姉帯豊音に戦意は見られない。結局この小瀬川白望と姉帯豊音の勝負は小瀬川白望の圧勝で幕を閉じる事となった。

 

 

 

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「……ありがとうございました」

 

 

 対局が終わり、小瀬川白望がそう言って席を立ち対局室から外へ出ようとすると、先ほどまで死んだように黙っていた姉帯豊音の体が跳ねるようにして起き上がり、涙を流しながら「うわあああああああん!」と叫んで小瀬川白望に背後から抱きついた。

 

 

「大丈夫?豊音」

 

「うっ、ぐすっ、ぐすっ……怖かったよおお……」

 

 姉帯豊音は背中越しにか細い声でそう呟くと、小瀬川白望は心の中で(ちょっとやり過ぎたかな……)と思いつつも、振り返って姉帯豊音の頭を撫でる。

 

「ごめんね?豊音……」

 

 いくら見定めるとはいえ本気で姉帯豊音の事を泣かしてしまったことに対して罪悪感を感じた小瀬川白望が姉帯豊音に向かって謝罪すると、姉帯豊音は鼻をすすりながら「うん……もう大丈夫だよー……でも、さっきのシロが……怖くて……」と呟く。

 

「そっか……」

 

 小瀬川白望と姉帯豊音がそう会話を交わしながら対局室から出て来ると、そこには宮守のメンバーが立っていた。メンバーは二人が戻ってきたのを見つけると、すぐに二人に近寄って「豊音、大丈夫!?」と声をかけた。

 

「トヨネ、ダイジョウブ?」

 

「うん……もう大丈夫だけどー」

 

「シロ、いくら豊音が相手だからといって容赦なさすぎ!」

 

「それは悪いと思ったけど……」

 

 エイスリンと臼沢塞が豊音を介抱し、鹿倉胡桃が小瀬川白望のことを叱りつけている構図となっていたところに、熊倉トシがやってきて「全く……個人戦の予選でハラハラさせないでおくれよ」と小瀬川白望に向かって言った。しかし「でも……あれくらいのプレッシャーを耐えれないとインハイじゃ太刀打ちできないんで……特に先鋒は」と小瀬川白望が反論すると、それを聞いた姉帯豊音が体を震わせながら口を開いた。

 

「さっきのシロと同じくらいの怖さなんて……絶対無理だよー……」

 

 

「ふむ……まあそれは少しずつ慣らしていくしかないねえ……白望、くれぐれもやり過ぎは気をつけるんだよ?」

 

「それは決定事項なんですか!?」

 

 熊倉トシに向かって臼沢塞がそう言うと、小瀬川白望は姉帯豊音の肩を掴んで「まだ時間はあるし……ちょっとずつ頑張っていこうか」と言うと、姉帯豊音は「お、お手柔らかに頼むよー」と震えた声でそう呟いた。

 

「デモ、サッキノシロ。ホントニコワカッタ……」

 

 エイスリン・ウィッシュアートがそう言ってホワイトボードに描いてあった絵を小瀬川白望に見せる。そのホワイトボードにはとても人とは思えぬほど恐ろしい形相の何かがあった。恐らくそれがエイスリンから見た先ほどの対局時の小瀬川白望なのであろう。

 

「うん、エイちゃん。その絵はマトを得てるよ……」

 

「そうかなあ……」

 

 鹿倉胡桃がエイスリンの絵を賞賛するが、小瀬川白望はどこか納得できないような表情でそう呟く。確かに客観的に見ればそう見えてしまうのかもしれないのだが、小瀬川白望からしてみれば自分よりも上の人物を知っているため、必ずしもそれが自分だとは思えなかった。

 

(まあ……客観的にそう見えたからといって嬉しくはないんだけどね……)

 

 

「ほらシロ、あんたの次の対局まであんまり時間ないんだから、早く戻るわよ」

 

「……分かった」

 

 臼沢塞に促されるようにして控え室まで戻って行った小瀬川白望だが、18年ちょっとという彼女の人生で初めて客観的から見た自分の姿に興味を持ったのであった。

 




次回に続きます。

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