宮守の神域   作:銀一色

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前回に引き続きです。



第332話 地区大会編 ⑩ 祝杯

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視点:神の視点

 

 

 

「……さて皆、飲み物は揃ったかい?」

 

 団体戦の地区予選を勝ち上がり、見事圧勝でインターハイ出場を決めた宮守女子高校のメンバーは、盛岡の高そうな食事処で祝杯をあげていた。熊倉トシがビールの入ったジョッキを持つと、小瀬川白望達に向かってそう聞くと、皆は頷いて肯定を示す。それを確認した熊倉トシは祝杯の音頭を取る。

 

「じゃあ……まず、豊音とエイスリンはお疲れ様。二人だけでよく頑張ったね」

 

「えへへ……頑張っちゃったよー」

 

「ツギモ、ガンバル!」

 

「まあ、インターハイじゃあんた達の出番は来るだろうから、地区大会の分まで頑張っておくれよ」

 

「……分かりました」

 

 

 そう言って小瀬川白望が頷き、鹿倉胡桃と臼沢塞も頷くと、熊倉トシが「じゃあ皆、行くよ」と言って右手に持つジョッキを高々にあげると、姉帯豊音が身体をウズウズさせながらこんなことを呟いた。

 

「乾杯なんて初めてやるよー……ちょー楽しみだよー!」

 

「私も初めて!」

 

「サエ……カンパイッテナニ?」

 

「ああ、エイスリンは知らないんだっけ。まあ皆に合わせて『カンパーイ』って言えば大丈夫だよ」

 

 臼沢塞がエイスリン・ウィッシュアートに乾杯の簡単なレクチャーを済ませると、熊倉トシが息を深く吸って「乾杯!」と言う。それに合わせて皆も『かんぱーい!』と言い、コップを合わせ、カチャンと音を鳴らす。そうして皆はコップの中身を飲み始める。エイスリンは皆の動きを見ながら、自分も皆と同じく飲み物を飲む。

 

「それにしても……ここ、すごい高そうなところなんですけど、お金大丈夫なんですか?」

 

「ふふ……心配は要らないよ。多少値段が嵩んでも今日は私の奢りさ。遠慮しないでお食べ」

 

 それを聞いた姉帯豊音とエイスリンはメニュー表を手に取り、二人で「なにたべるー?エイスリンさん?」と何を頼むか二人で議論していた。エイスリンが目に留まったものを指差し、「コレ、オイシイ?」と姉帯豊音に聞くと、姉帯豊音は少し悩んだ素振りを見せて「エイスリンさんの口に合うか分からないけどー……頼んでみるー?食べられなかったら私が食べるよー」と言い、店員を呼んでオーダーする。

 

 

「シロ、どうかしたの?」

 

 すると小瀬川白望がまだ何も口にしていないのにも関わらず席を立ったのを見て鹿倉胡桃が小瀬川白望に尋ねると、小瀬川白望は「ちょっと風にあたりに……先に食べてていいよ」と言って店の外に出て行った。臼沢塞らは小瀬川白望のことを引き止めようとも思ったが、ここは小瀬川白望の意思を尊重して外に出すことにした。

 

 

 

「ふう……」

 

【どうした?ああいうのは馴染めないか?】

 

 近くに設置されてあったベンチに小瀬川白望が座り、夜の盛岡の街を呆然と見つめていたのに対して、赤木しげるがそう聞くと、小瀬川白望は「いや……そういうわけじゃないけど」と返す。

 

「ただ……風にあたりにきただけ。それ以上は何も無いよ」

 

【クク……相変わらず同調が苦手な奴だな。俺も言えた話じゃないが。……あの時もそうだったな。俺だけ先に帰っちまった】

 

 それを聞いた小瀬川白望は「あの時って……鷲巣……って人と闘った後の?」と聞き返すと、赤木しげるは【そうだな……思えば、あれが俺にとって初めての負けだったのかもな。そう考えれば俺の負けは3つ……何気に多いな】と、過去を想起しながら呟く。

 

「……じゃあ、私が赤木さんにとっての四人目になってあげようか?」

 

 小瀬川白望が赤木しげるに向かってそう挑発すると、赤木しげるはクククと笑って【お前は今、18だったか。ククク……お前もあれから随分と大きくなったな。……特に威勢。当時鷲巣麻雀で10倍レートをふっかけた時の俺の威勢にそっくりさ】と言う。そんなやりとりをしたところで、小瀬川白望は再び店の中へと戻って行った。

 

 

「おかえりー!シロ、これ食べて見て!ちょー美味しいよー!」

 

 そして戻ってきた小瀬川白望を出迎えるようにして姉帯豊音がそう言い、箸で姉帯豊音がそれを掴んで戻ってきたばかりの小瀬川白望の口の前まで運ぶ。小瀬川白望は考えるよりも前にそれを食べさせてもらうと、その瞬間場の空気が凍りついたが、小瀬川白望は「うん……美味しい」と言った。

 

「し、シロ!充電やるよ!」

 

「ワタシモ、シロニタベサセル!」

 

 姉帯豊音が満足そうに飲み物を飲む傍で、鹿倉胡桃とエイスリンも行動に出る。鹿倉胡桃に言われた通り小瀬川白望は鹿倉胡桃を上に乗せながら、エイスリンに食べ物を食べさせてもらっていた。一方の臼沢塞はというと、酒を飲み過ぎて気分を悪くしていた熊倉トシを介抱していた。

 

「ちょ、大丈夫ですか!?」

 

「ふ、ふふ……若い頃のようにはいかないね……あんたらくらいの歳から飲んでいたけど、ノックアウトしたのはこれが初めてだよ……」

 

「先生、それ何サラッと犯罪行為を暴露してるんですか!?」

 

「熊倉先生、ワイルドだよー!」

 

「豊音も同調しない!この残ったお酒、どうするんですか!?」

 

 臼沢塞がテーブルに置かれている二杯目の巨大なジョッキの中身を見ながら熊倉トシに聞くと、熊倉トシは「と、取り敢えずそのままにしておくれ……」と言って力尽きた。臼沢塞がどうしようと思いながらあたふたしていると、それを横で聞いていた小瀬川白望が「お酒ってどんな味なんだろう……」と興味を示すと、臼沢塞が「シロは絶対ダメだからね!」と静止する。が、赤木しげるが小瀬川白望にこんなことを言った。

 

【お前にはビールはまだ早いかもな……まあ俺は13の頃には既に飲み始めていたが】

 

 

「赤木さん!未成年の飲酒はダメだよ!」

 

 横から入ってきた鹿倉胡桃がそう言うが、小瀬川白望は「無駄だよ……この人、未成年の頃からお酒も煙草もやってるから……」と言う。そう小瀬川白望に言われた赤木しげるは少し寂しそうな声色で【しっかし……今の世界は窮屈だよな。俺のいた頃はガキでも普通に酒も煙草も買えたんだがな……】と呟く。

 

「いやいや、悪い事じゃないですから。むしろいい事ですから!」

 

「お酒……後二年も待てないよー」

 

「豊音も興味を示さないの!」

 

 そう言ったお酒談義に花を咲かせていた宮守女子のメンバーであったが、熊倉トシがようやく復活した頃にはもう皆は眠そうにしており、予め予約しておいたビジネスホテルに直行すると、そのまま揃って爆睡した。無論、その間にも誰が小瀬川白望と一緒に寝るかといった争いがあったのだが、それはまた別の話である。

 

 

 

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「シロ!豊音!対戦表出てるよ!」

 

 

 翌日、再び会場にやってきた宮守女子のメンバーは個人戦の対戦表を会場の入り口入ってすぐのところで見つけた。対戦表の周りには大きな人集りが出来ており、近くまで行って見るのは至難の技だと感じた姉帯豊音が自分の身長を最大限に生かすべく鹿倉胡桃のことを肩車して「どうー?見えるー?」と聞く。

 

「んー……あ、あった!」

 

 鹿倉胡桃がどうやら何方かの名前を見つけたようで、そう姉帯豊音に言うと「シロと私、どっちが先かなー?」と聞くが、鹿倉胡桃から返答は返ってこなかった。

 

「胡桃、どうしたの?」

 

 臼沢塞がそんな鹿倉胡桃の事を疑問に思って声をかけると、鹿倉胡桃は驚愕したような表情で「シロと豊音……初っ端から当たるんだけど!?」と叫んだ。それを聞いた熊倉トシと臼沢塞とエイスリンも驚き、姉帯豊音と小瀬川白望の事を見る。当事者である姉帯豊音ももちろん驚いていたが、小瀬川白望は平然とした表情で姉帯豊音のことを見て、「最初からか……まあ、本気で行くから。覚悟してね」と宣言する。

 

「もちろんだよー!100パーセントで行っちゃうよー!」

 

「……なんか、途轍もないことになっちゃったね」

 

「チョウジョウケッセン!」

 

 姉帯豊音は小瀬川白望と軽く握手を交わすと、個人戦用の控え室まで二人一緒に向かって行った。それを後ろから見ていた四人は、自分の事でないのにも関わらず今から緊張していた。

 

 




次回に続きます。
初っ端から当たるシロと豊音。大変なことになりそうです……

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