宮守の神域   作:銀一色

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前回に引き続きです。


第331話 地区大会編 ⑨ 出場、記録

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視点:神の視点

 

 

「たっだいまだよー!」

 

 宮守女子の先鋒を任されていた姉帯豊音が控え室に戻ってくる。案の定姉帯豊音をまともに止めるものなどいるわけがなく、六曜の一つである『先勝』だけで他の三人を捩じ伏せた。戻ってきた姉帯豊音はニッコリとした笑顔を見せながら、今にもピョンピョン跳ねそうなほど上機嫌であった。おそらく、彼女の中でも納得のいく対局ができたのだろう。そう他のメンバーが推察していたが、姉帯豊音は別の要因でとても嬉しがっていたのであった。その要因である真っ白色紙をテーブルの上に広げると、鹿倉胡桃が「豊音、これどうしたの?」と姉帯豊音に聞いた。

 

「むふふー……後でサインしてもらうって約束してきたんだー。記念に残すためにねー……頼む時にちょっと怖がられたけど、受けてくれたよー」

 

「そ、そうなんだ……」

 

(多分、怖がられたのは豊音がトラウマになるほどボコボコにされたからじゃないかな……はは)

 

 臼沢塞がそんなことを考えながら愛想笑いをすると、隣に座っていたエイスリン・ウイッシュアートが立ち上がって「デハ、イッテキマス!」と大きな声で皆に向かって言うと、姉帯豊音が「エイスリンさん、頑張ってねー!」と声をかける。

 

「エイちゃん、もう決めちゃっていいよ!」

 

「こら胡桃、あんまりエイスリンにプレッシャーかけないの。……ほらっ、シロもなんか言ってやりなよ」

 

 

「え……あー……」

 

 臼沢塞がエイスリンに何か餞別の言葉を言うように小瀬川白望に促すと、小瀬川白望は少しほど間を開け、何を言うか考えていたのだが、結局まとまった言葉が出てこなかったのか、親指を立てて「頑張って……」とエイスリンに向かって言った。エイスリンはそれを見てホワイトボードに小瀬川白望と同じように親指を立てている絵を描き、それを見せると「ガンバル!」と言って控え室を出ていった。

 

「……これはエイスリンの記録にも注目だね」

 

「記録……ですか?一体何のですか?」

 

 エイスリンが去って行った直後、熊倉トシが急に言いだした『記録』について臼沢塞が尋ねると、熊倉トシは自身の携帯電話を宮守女子のメンバー全員に見せるようにテーブルの上に置く。メンバーが揃って熊倉トシの携帯電話の画面を見ると、小瀬川白望がそれを見て「……照の記録?」と熊倉トシに向かって言った。

 

「そう、これが現時点での和了率トップの宮永照の記録だね。そしてこっちがさっき計算したエイスリンの和了率さ。因みに、この岩手県大会が最後の大会だから、宮永照を超えた時点で和了率一位だよ」

 

 そう言って熊倉トシが即席で用意したメモ用紙を携帯電話の隣に置く。するとそこに書かれていた和了率は、宮永照の和了率を超えていたのであった。それに対して小瀬川白望を除く三人が「「「ええー!?」」」と驚くと、熊倉トシも少し困ったように笑みを浮かべながら「全く……これじゃあ白望が出る前に世間からの注目が集まってしまうね……」と呟いた。

 

「ま、まあ……シロを知ってる人達がいるところには既に警戒されてますし……関係無いと思いますよ、多分」

 

 臼沢塞も驚きながら熊倉トシにそう言い、エイスリンの和了率が計算されたメモ用紙を見る。確かにこの決勝まで過剰なほど和了っていたような気はしていたが、まさかあの宮永照の記録をも上回るとは思っていなかった。

 

「ちょーすごいよー!あ、後でエイスリンさんからサインもらっておこうかなー?」

 

「別にそんな急がなくても良いんじゃない?」

 

「いいんだよー!やっぱり新鮮な時に貰うのが一番なんだよー!」

 

 

 

 姉帯豊音がそう言って新しい色紙を用意しているのを熊倉トシが見ていると、小瀬川白望に耳打ちするように「……個人戦と団体戦の記録は別々に扱われるから、エイスリンに遠慮する必要は無いからね?」と告げた。それを聞いた小瀬川白望はふふっと笑って「そうですか……まあ……そうじゃなかったとしても私は遠慮なんて一切しませんけど……」と答えた。

 

「まあ、アンタならそう言うだろうと思ったよ。どうやら心配は要らなかったみたいだね」

 

「私は、私の望む勝負をしたい……その一心だけ……記録だとか、結果は二の次なんですよ」

 

「……何処ぞの誰かさんに似て、相当の変人だね。そこのところどうなんだい?何処ぞの誰かさん」

 

 

【さあな……俺やコイツの考えが正しいかどうかは別として……ただ生きたいように生きる。それと同じような感じだと思うぜ……ただ、自分の望む勝負を追い求める……その一心さ】

 

 赤木しげるの言葉を聞いた熊倉トシはふーと息を吐くと、「全く……似た者同士だね、あんた達」と言い、視線をエイスリンが映るモニターの方へと向ける。既に次鋒戦は始まっており、ちょうどエイスリンが和了牌を引いてきた瞬間であった。熊倉トシはそれを見つつ、ペンとテーブルに置いたメモ用紙を手に取ると、再び記録を始める。

 

『ツモ!4000オール!』

 

 まず挨拶代わりといったような軽い感覚で満貫を和了る。それにより更に点差は開き、結局後半戦に突入する前に勝負が決し、宮守女子の優勝となった。そしてそれと同時に、これで宮守女子のインターハイ出場が決まった。控え室にいる皆は互いに抱き合いながら優勝の瞬間を噛みしめていると、そこにエイスリンもやって来ると、優勝の事はもちろん、エイスリンが達成した地区大会の和了率No.1の記録も同時に、全員で歓喜に包まれていた。

 

 

 

 

(ふう……取り敢えず、皆に連絡しておこう)

 

 そして優勝の余韻、熱りもおさまりかけてきたところで、小瀬川白望はインターハイ出場決定の報告メールを全国各地にいる友達(ライバル)達に一斉送信した。

 

(後は個人戦……豊音もいるから気は抜けない……)

 

 

 そして団体戦が終わったと同時に、小瀬川白望の小学生の頃以来の公式戦の、初陣の時が……小瀬川白望が再び名を轟かせる時が刻一刻と迫っていた。

 




次回に続きます。
次回は個人戦ですね。

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