宮守の神域   作:銀一色

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前回に引き続きです。


第326話 地区大会編 ④ 報告

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視点:神の視点

 

 

 

 

(よし……取り敢えずインターハイ出場の権利は、王座は勝ちとった……浮かれるのまだ早いのは分かっているけど、取り敢えず白望に連絡を入れるとするか……)

 

 

 個人戦を見事勝ち抜き、インターハイ出場の権利を得た小走やえが小瀬川白望に自身の"負け"と"勝ち"を報告するべく携帯電話を取り出す。客観的に見て団体戦の件については"小走やえの負け"とは言い難いのだが、小走やえはそれでも『負けは負け、潔く認めるのもまた王者よ』といった理由でそこは曲げる事なく報告しようと決心していた。

 が、小走やえが携帯電話を手に取った瞬間、着信音が鳴る。小走やえは若干驚きつつも、電話をかけてきた相手を確認する。そこには『竹井久』とあり、小走やえは恐らく掛け間違えたのだろうと察しつつも、取り敢えず電話に出て「もしもし。小走だけど、掛け間違いか?」と電話越しに竹井久に声をかけた。向こうも驚いていたようで、どうやら小走やえの予想は的中していたようだ。

 

『ご、ごめんなさいね……指、震えちゃって……』

 

「ふっ。意外と間の抜けたやつだな」

 

 小走やえがそう言って微笑むと、竹井久が『まあそれはそれとして……あなたの方はどうだったのかしら?』と小走やえに質問する。小走やえは少し言い淀んだが、きっぱりと「団体戦は負け、個人戦は私が勝った。そっちはどうなんだ?」と答える。

 

『私たちは取り敢えず団体戦は優勝したわ。結構ギリギリだったけどね。個人戦は明日よ』

 

 

「そうか……まあ、頑張れよ」

 

 

 そう言い残した小走やえは電話を切ると、今度こそ小瀬川白望に掛けようと試みるが、ここでふと指が止まる。今さっき竹井方が掛け間違えて自分のところに電話を掛けたのだから、今頃竹井方は小瀬川白望に電話を掛けているはずだ。つまり、自分が掛けたとしても、小瀬川白望は電話に出ることはないのはほぼ確定的だった。よって小走やえは携帯電話をしまうが、今度は何もする事がなく、かといって家に帰ろうかという気も起きず、ただただそこで立ち尽くすしかなかった小走やえであったが、近くにあった駅から見覚えのある人物がやって来たのが確認できた。

 

(あいつ……もしや。手間も省けて丁度いいな)

 

「ね、ねえ!あんた、鷺森灼でしょ!?」

 

「えっ、なに……?」

 

 小走やえが見つけた阿知賀の部長である鷺森灼に声をかけると、いきなり声をかけられた鷺森灼は驚き、そして団体戦の時に鬼神のような和了を積み上げていた小走やえが話しかけてきたともあってか、彼女は若干身構える。

 

「ねえ、来週の土日辺り……暇な日、ないかしら?」

 

「い、意図が読めな……」

 

 突然の質問に動揺し、どういう意図なのか分からず困惑する鷺森灼であったが、小走やえはいちいち言わせるなといった風にイライラし、結局「壮行試合してあげるって言ってんのよ!奈良個人一位のこの私含む晩成がよ!?」と声を荒げて言う。

 

「それはありがた……で、でもどうして?」

 

「どうしてって……あんたらに全国の厳しさってもんを教えてあげるのよ!全国じゃ私より強い奴らなんてザラにいるわよ!?私で手こずってるようじゃ優勝なんて100年早いわ!」

 

 そう言うと、鷺森灼の返答を待たずして「じゃあ来週の土日、ちゃんと空けといてね!ドタキャンしたら承知しないわよ!」と言い残し、その場を離れて言った。急にやって来て急に去って行った小走やえを見ながら「煩わし……」と思わず呟いた。すると小走やえに聞こえていたのか、小走やえは振り返って「聞こえてんのよ!」と言い、再び歩き始めた。

 

 

 

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「うん……まあ個人戦の方はおめでとう、やえ」

 

『本当は団体戦も出場するつもりだったんだけどね……阿知賀ってとこにやられたわ……』

 

 あれから数分後、小走やえは小瀬川白望に電話を掛けて地区大会の一切を報告した。小走やえから発せられた『阿知賀』という名から、小瀬川白望は松実姉妹を始めとした阿知賀子供麻雀クラブの面々を思い出し(やえのいる晩成に勝ったんだ……成長したって事なのかな。分からないけど……)と思いながらも、小走やえからの質問に答える。

 

『白望の方はどうなの?勝てそう?」

 

「うん……始まったわけじゃないから何とも言えないけど、負ける気は無い、とだけ言っておくよ」

 

『そうか……なら心配はないようね。じゃ、頑張るのよ!』

 

 

 小走やえはそう言って電話を切ると小瀬川白望はおもむろにテレビを点ける。丁度他県の地区大会の様子がテレビで映っており、そこには監督の愛宕雅枝率いる千里山女子が地区大会決勝戦を闘っている最中であり、大将である清水谷竜華が親満を和了ったところであった。

 

『ツモ!4300オールや!』

 

 よく見ると他の一校の点棒が既に4300を下回っており、この清水谷竜華の和了が千里山女子のインターハイ出場を決める和了となり、対局が終了した。その様子をテレビから見ていた小瀬川白望は携帯電話を握り締めていると、数分後に園城寺怜から控え室で撮ったのだと思われる千里山メンバー全員が写っている写真が添付されたメールが送られて来た。恐らく園城寺怜は先ほども未来視を使っていたのであろうが、その写真を見るに大丈夫そうであった。小瀬川白望は少しほど安心し、園城寺怜に返信を送った。

 

 

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『……ツモー!8000、16000ですよー』

 

 

「永水女子の薄墨初美による役満ツモ。これにより永水女子のインターハイ出場が決定しました!」

 

 沖縄を除いた最南端の県である鹿児島では、霧島神境の神代小薪と、六仙女である石戸霞、つい先ほど役満を和了った薄墨初美、狩宿巴、滝見春の四人で構成されている永水女子がインターハイ出場を勝ち取っていた。大将である石戸霞に回す事なく、副将の薄墨初美で終わらせてしまうなど、圧倒的な攻撃力を見せつけた結果となった。解説を任されている大沼秋一郎も九割九分こうなるであろうと予想していたため、いつもよりも更に寡黙になっていた大沼秋一郎が、薄墨初美の鳴いた{東}と{北}を見て心の中で(鬼門……)と呟く。あえて何も言わなかったが、薄墨初美の能力は鬼門と裏鬼門に関係しているということを察知した大沼秋一郎だが、彼はそれよりも、大将に控えていた石戸霞が気になっていた。

 

(本物の神さんを降ろしてた神代とは全く違うオーラがしたような……こいつ、一体何を自分の身体に降ろす気だ……?)

 

 大沼秋一郎が疑問に思いながら考える仕草を取るが、流石にそんな気がしただけでは分かるわけもなく、その事を考えるのはやめ、直ぐに家のテレビで岩手県の地区大会のテレビ放送の録画をしたかどうかを頭の中で再確認していた。熊倉トシが顧問を務めている……あの小瀬川白望がいる宮守女子の様子を、後でじっくりと鑑賞したい大沼秋一郎にとって、慣れないテレビの録画もしっかり行うことができ、万全の状態であった。だからこそ、本当に録画されているのかが気にかかっていたのだ。

 

 

「……大沼プロ。あの……」

 

「お、おう……すまんな」

 

 しかしそれもアナウンサーによって遮られ、数十歳年下の若いアナウンサーに軽く謝罪をした72歳の大沼秋一郎であった。

 

 

 

 

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「たっだいまですよー」

 

「初美ちゃん、お疲れ様です」

 

「姫様!私におまかせあれですよー」

 

 一方、控え室に戻って来た薄墨初美が先ほどまで眠っていた神代小薪と話していると、石戸霞が「はっちゃん、副将で終わらせてくれてありがとうね」と労いの声をかける。

 

「勿論ですよー。万が一霞ちゃんがアレを使うとなったら、霞ちゃんの負担が大変ですからねー」

 

「アレって言っていいのかは分かりませんけど……」

 

「短気だし……アレ扱いしたら怒られそう」

 

「まあ、何はともあれ温存できたから良しとしましょう」

 

 そう言い、五人は控室から荷物をまとめて出て行く。そしてその最中に、石戸霞は小瀬川白望へインターハイ出場決定の報告をすると(ふふふ……楽しみね)と呟いた。

 

 




次回に続きます。
シロたちの出番はもうちっとだけ先なんじゃよ

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