宮守の神域   作:銀一色

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前回に引き続きです。


第324話 地区大会編 ② 王者たる所以

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視点:神の視点

 

 

「……カン!」

 

「ひっ……」

 

 

 

 あれから更に一ヶ月が経ち、地方では段々と地区大会……いわばインターハイ出場校を決定する執念の闘いが彼方此方で始まっていた。無論麻雀だけでなく、ありとあらゆる種目で地区大会が行われており、高校生が全国各地で凌ぎを削っている。

 そしてどの種目にしても共通するのが、その年のインターハイの昨年度の優勝校、あるいは優勝者の地区大会での闘いが一番メディアの注目を集めるという事だ。それは麻雀においても同様であり、地区大会が始まる前からこのインターハイで前人未到の三連覇を狙おうとしていた白糸台は世間からかなり注目されていた。一部の人間からはメンバーに対してのプレッシャーになり兼ねないから過度な期待に繋がる報道は自粛せよとの声もあったのだが、その心配を払拭させるほどの快進撃で白糸台は勝ち進み、もう既にインターハイ出場まであと一局……いや、あと一巡に迫っていたところであった。

 一年ながらにして白糸台のレギュラーメンバーであり、大将を任された大星淡はツモってきた牌を盲牌で確認すると、ニヤッと笑って声高らかに宣言する。

 

「……ツモ!ダブリードラ4、跳満!」

 

『決めたあああああ!王者白糸台、三年連続インターハイ出場決定ー!!史上初の三連覇へ、また一歩近づきました!』

 

 

 

「……三度目のインターハイ、決まったな。安心したか?照」

 

 控室からモニターでその瞬間を見届けた弘世菫は隣で御菓子を口に運ぼうとしていた宮永照に向かってそう声をかける。宮永照は大星淡の事をモニター越しに見つめながら「いや……全然。ここからが本番……」と呟いた。

 

「でも、わざわざ淡の手の内までバラす必要はなかったんじゃないですか?あそこは私が無理にでもトバしに行っていた方が……」

 

 宮永照と弘世菫に向かって亦野誠子がそう言う。確かに、手の内を隠す余裕があるのならインターハイに向けて温存するのはもっともな話だ。亦野誠子も、てっきりそのつもりで大星淡を大将に置いたものかと思っていたのだが、宮永照は御菓子を食べながらこう亦野誠子に言った。

 

「いくら手の内を隠したところで、シロのいる宮守を相手にすればシロに直ぐにバレるだろうし……むしろ淡の初陣がインターハイじゃなくて良かったと思うよ。淡が変に緊張しないとは言い切れないし……」

 

「な、なるほど……」

 

 

「たっだいまー!どうだったー?照ー!」

 

 そんな会話をしていると、大星淡が元気よくドアを開けて開口一番そう声を発した。それを聞いた渋谷尭深が予め用意していた湯呑みを持って大星淡のところに行くと「お疲れ、淡ちゃん」と言って湯呑みを差し出した。

 

「ありがとうタカミー!」

 

 大星淡は感謝の言葉を述べると、湯呑みに入っている茶を勢いそのまま飲もうと試みるが、高温だったせいか大星淡は「あ、あふっ!?」と言って思わず零しそうになった。そして火傷しかけた舌を出し、涙を流しながらこう叫んだ。

 

「わ、わらひ。猫舌じゃらいのに〜っ!」

 

「全く……湯気が見えないのかお前は。猫舌じゃなくても熱いに感じるに決まっているだろう」

 

 弘世菫が呆れたように言うと、宮永照は立ち上がって大星淡の元へと歩み寄り、キョトンとする大星淡に向かってこう質問した。

 

 

「淡、どうだった?」

 

「ん……そりゃあ楽勝だよー!なんたって私は高校百年生なんだからね!」

 

 そう意気込む大星淡を見て、どこか安心したような表情を浮かべた宮永照であったが、その直後に大星淡の腕を掴むと、「インターハイ前に"真剣勝負に勝つ"って事は覚えたから……じゃあ次は"真剣勝負で負ける"事を覚える番だね」と言い、ニッコリと笑ってみせた。

 

「て、照ー……?こ、怖いよー……」

 

「誠子、尭深。……学校に戻ったらきっちり扱くよ。淡のメンタルを鍛えるために」

 

「ちょ、テルー!?す、菫センパイ!助けてー!?」

 

 

「……私に振るなよ」

 

 

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視点:神の視点

 

 

 

(あ……照たち、もう決まったんだ)

 

 そしてその日の午後、地区大会を一週間後に控えていた小瀬川白望の下には宮永照率いる白糸台を始めとした、全国各地からのインターハイ出場決定の報告メールが送られてきていた。

 

「シロ、今の話聞いてた!?」

 

 鹿倉胡桃に注意を受けて携帯電話を慌ててしまった小瀬川白望は鹿倉胡桃に「うん……それで?」と聞き返した。それを聞いた姉帯豊音は「シロは団体戦では大将を任せるっていうことになったんだよー」と横から説明する。

 

「豊音とエイスリンの二人が点棒を稼いで、胡桃と塞で逃げ切る……そして最後はウチの最終兵器、白望。アンタだよ。まあ地区大会じゃアンタはおろか、胡桃さえ回ってこないかもしれないけどね」

 

 熊倉トシがそう言うのを聞き終え、小瀬川白望は「皆、個人戦はどうするの……」と四人に向かって質問した。質問された側の臼沢塞と鹿倉胡桃は分かりきったような表情でこう答える。

 

「シロや豊音が出るんじゃ、出たところで結果は最初から分かり切ってるわよ。エイスリンは出れないし、防御型のウチらじゃアベレージで太刀打ちできないわよ」

 

「だから私たちは応援してるよ!」

 

 

 そう言う鹿倉胡桃を抱きしめ、姉帯豊音は「むふふ……ありがとうだよー」と言う。そして鹿倉胡桃を抱きしめた状態で小瀬川白望の事を見つめて、こう言った。

 

「個人戦の時だけ、シロと私は敵同士だよー」

 

「……そうなるね」

 

「本気で行くから、手は抜かないでねー?」

 

「もちろん。一切遠慮はしないよ」

 

「ワタシモ!」

 

「そうだねー……エイスリンさんもだよー?」

 

「ウン!」

 

 

 

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(……始めようか……王者の闘牌を)

 

 

 そして奈良県では、これもまた巡り合わせなのか、小走やえ率いる晩成高校と赤土晴絵を顧問とした阿知賀女子学院が地区大会一回戦第一試合で当たる事となった。先鋒の小走やえは阿知賀女子学院の松実玄を見据え、(阿知賀手……さあ……どうでる?)と心の中で呟く。

 

 

(とにかく、この試合は負けられない……なんとしてでもお姉ちゃんに繋がなきゃ……)

 

(……大丈夫。ドラは来てる……)

 

 

 一方の松実玄は自身の手牌に集まってくるドラを見て心の余裕を保ちつつ、手を縦に伸ばして行く。そんな松実玄を見て、小走やえは様子見といった感じでリーチをかける。

 

「リーチッ!」

 

 が、小走やえがリーチをかけたその同巡。松実玄はツモ和了を果たす事となる。和了ったのは平和や断么九もつかない何気無いツモなのだが、異常なのはそのドラの多さ。なんと裏ドラと槓ドラなしでドラ7である。

 

「ツ、ツモ!ドラ7です」

 

 

(なっ……ドラ……っ、コイツまさか!)

 

 小走やえはその異様なまでにドラに包まれた手牌を見て驚愕するが、直ぐに小走やえは自分の手牌、全員の捨て牌、松実玄の和了形を見て瞬時に悟った。松実玄がドラを集める能力を有しているということを。それと同時に、何故松実玄が先鋒に起用されたのかという事を。

 

(……なるほど。異様におっかなびっくりで頼り無さそうなのヤツをわざわざ先鋒にしたってことは……その能力を私に当てて来るためか!)

 

 

(……正直、苦肉の策だ。前年の小走の牌譜を見ても、全国レベルを優に越している……ウチらのメンバーじゃまともにやり合うのは無謀)

 

 赤土晴絵の言う通り、正面から小走やえと闘えばどうなるかなど一目瞭然である。だが、小走やえからドラを奪えば、彼女の攻撃力をそのまま削ぐことができる。そして一回戦で当たるというのも非常に阿知賀にとってプラスに働いた。前情報無しなら、いくら小走やえともいえど最初の一局……その前半は少なくとも様子見に徹する。松実玄の能力、ドラを集める能力はタネが分かれば単純な能力だが、前情報なし……『初見の一局』の時は絶大な力を生む。その最大の好機が、まさに値千金のことであった。

 

(幸い、小走やえ以外ならまだ勝機はある……いくらドラを削がれたとはいえ、小走やえ相手に一位なんて高望みはしない。トバされずに玄が耐えきれば勝機は十分にある……!)

 

 

(なるほど……ニワカらしい小細工だが、王者から武器を奪うとは、やってくれるじゃないか……)

 

 

(だが……王者は武器無くして尚最強だからこそ、王者なのだ……お見せしよう……王者の打ち筋を!!)




次回に続きます。

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